第7話
それ以来、だいたい数日おきくらいに、彼女と『糸電話』で話すようになった。もちろん私からではなく、いつも向こうから突然かかってくる形だ。
最初は戸惑っていた私も、だんだん貴美子を受け入れるようになっていた。
何しろ私の置かれている環境ならば、日本人と話が出来るというだけで、心が潤ってくるのだから。まるで砂漠で遭難中に水源を発見したみたいに。
正直、自分でもどうかしていると思う。赤い糸の糸電話なんて、科学者の端くれとしては受け入れがたい話ではないか。
一番最初に頭に浮かんだように、全ては妄想に違いない。寂しさ故に生み出された、一種のイマジナリーフレンドなのだ。
そう考えると同時に、私にとっての貴美子は、孤独な外国暮らしを紛らわせるには格好の存在であり……。
彼女の家柄や、優しい家族と友人たちの話。そうした環境で培われた、貴美子の豊かな人間性。それらを聞かされる度に、どんどん私は彼女に心惹かれていく。
もしも本当に貴美子が実在するならば、このような女性が私の運命の相手ならば、どんなに素晴らしいことだろう! そう期待してしまう気持ちも、ゼロではなかった。
そして、最初の『糸電話』から一年後。
日本の学会で研究発表する機会があり、久しぶりに一時帰国することになり……。
空港で私を出迎えてくれたのは、長い黒髪の良く似合う和服美人だった。
「おかえりなさい、安彦さん。あるいは、初めましての方がいいかしら? こうして顔を合わせるのは、初めてですものね」
(「赤い糸の糸電話」完)