第6話
「よくわかりませんけど、大変そうですね」
事細かに説明したわけではないが、ある程度の事情は察してくれたらしい。
しかし、おそらく体験した者でなければわからないであろう感覚もある。
言葉が通じない以上に堪えるのは、周りに日本人がいないことだった。
英会話能力の乏しさによる苦労は事前に予想できていたから、ある程度は心の準備もあった。しかし、日本人のいない環境がこれほど孤独を感じさせるなんて、全くの予想外だった。
毎日英語を使っていれば、ある程度は意思疎通も出来るようになってくるが……。周りの人々の言葉が理解できると、今度は、それぞれが育ってきた文化や習慣の違いなどを意識させられる。それらは物珍しさという点では面白いけれど、打ち解けていく上では、一種の障壁にもなり得るのだった。
酒の席で「ヤスヒコ、アメリカ人のガールフレンド、作る気ないの?」と言われたこともあるが、冗談ではない。私にとって外国人というものは、SF小説に出てくる宇宙人みたいに、遠く離れた生き物だった。外国人と常に接する環境になって初めて、それを思い知らされるとは……。
そんな私の内心など知る由もなく、
「お仕事の邪魔して、申し訳ありませんでした。今日はこれで終わりにして、また今度かけ直します。これから色々とお話をして、お互いに理解していきましょう」
と、貴美子は明るく言い放つのだった。