第1話
「今どこにいますか?」
「えっ?」
「あら、ごめんなさい。驚かせてしまいましたわね。いきなり、名前も申し上げずに……。私、香野山貴美子と申します」
「はあ、どうも。田浦安彦です」
ツッコミも忘れて、思わずこちらも名乗ってしまったが、驚きのポイントはそこではない。
会話だけ抜き出せば電話のようでもあるけれど、彼女の言葉は、私の頭の中に直接届いていたのだ!
正直、自分でも何を言っているのか、よくわからないし信じられない。小説や漫画、特にSFやファンタジーに出てくる「テレパシーであなたの脳内に直接話しかけています」みたいな感じだった。
現実的に考えて、そんなものありえないから、これは私の妄想に違いない。夢か幻の類いだ。よほど疲れているのだろう。
「安彦さんとおっしゃるのですね。よかったわ、同じ日本人で……」
貴美子と名乗る女性は、ホッとしたような声で続けていた。こちらの混乱ぶりは、あちらには伝わっていないらしい。
脳内会話なのに、考えたこと全てではなく、言葉として意識したものだけが伝わるようだ。これが妄想ならばそういう設定、現実だとしたらそういうルールになっているのだろう。
ならば、こちらから問いただすしかなかった。
「あの……。まずは状況を説明してもらえませんか? これって、テレパシー回線か何かですか?」
「あらあら、テレパシーだなんて……。映画みたいですこと!」
貴美子はクスクスと笑ってから、説明を始める。
「今私と安彦さんがお話ししているのは、糸電話ですわ。赤い糸の糸電話です」