水が足りないのです
皆さんは食事のとき、お水飲みますか?
こんにちは〜! 聖属性エッセイスト、ひだまりのねこですよ。
夏本番、私も空気が読めるねこですからね。
今日は夏らしく水分補給のお話を。ええ、残念ながら熱中症対策の話ではありません。実用的なエッセイが書けなくて本当にすいませんね。
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私はたくさん水を飲む。おそらく皆さまが想像するよりずっとたくさん。
私の育った家庭では、テーブルに大きな水と、麦茶と、緑茶が入ったウォータージャグが並んでいて、食事中に好きな飲み物を何杯も飲むのが当たり前だった。それが普通だと信じていた。
あれは忘れもしない小学校低学年の時のこと。友だちの家に泊まることになったのだが、夕食が始まったとき、私は激しく動揺した。
み、水が……の、飲み物が無い……だと!?
そう、その家では、食事中に飲み物を飲まないのだ。後から出てくるのかとしばらく待っていたが、家族全員何も飲まずに食べ始めたではないか。
私は食べ始める前に最低コップ(しかも大きめ)2杯は飲んでからでないと食事が喉を通らない。
だが、当時の私には人の家でごちそうになっておいて、そんなワガママを言い出すことなど出来なかった。
必死になって食べようとしたが、どうやっても飲み込めない。焦りと緊張も手伝って嫌な汗が出た。
「どうしたの? お料理口に合わなかったかしら?」
観念した。ここで言わなければかえって失礼になってしまう。
「あの……喉が渇いていて、お水いただけませんか?」
そのときの友人家族の反応を見て分かった。ああ、本当にこの人たちは普段から飲まないんだって。
出されたコップは恐ろしく小さくて、まあ、子ども用だから仕方ないのだが、油断をすれば、あっという間に飲み干してしまう量だ。
本当はぐいっと飲み干したかったが、とてもおかわりなんて言える雰囲気ではない。
私は、その命の水を大事に少しづつ飲んだ。砂漠に暮らす人々の気持ちが初めてわかったような気になった瞬間だった。
その件以来、私は他人の家に泊まりに行くのが怖くなり、次第に避けるようになっていった。
どうしても行かなければならないときは、しつこいぐらいその人に、水が必要だと力説した。
「大丈夫だって、うちも結構飲むからさ」
みんな最初はそう言って笑う。だが、大丈夫だった試しなどない。足りない……圧倒的に足りないのだ。だって用意されている家族全員分が、私一人分にも満たないのだから……。
そして外食時も悩みは尽きない。
何度も店員さんを呼び止めて、水を持ってきてもらうのが申し訳ないので、最初に水が置かれた瞬間に一気に飲み干す。そして笑顔でこう言うのだ。
「すいません、水おかわりお願いします。あ、コップ二つお願いします。ええ、たくさん飲むので」
大抵の飲食店のコップは小さい。だから結局、それでも何度も水を入れてもらう羽目になる。
次第に私が通う店は、水をセルフで入れるタイプか、ドリンクバーがある店に収束してゆく。
やはり食事中に変なことに気を使いたくはないからだ。もっと言えば、聖属性のせいで、注文した水が来ないからだ。
最近はコロナのせいであまり足を運べていないが、近所に素晴らしいイタリアンの店がある。
安くて美味しい店なのだが、なによりもそのサービスが一流だ。
初めて行った時、私がたくさん水を飲んでいたことを覚えていたのだろう。
2度目に行った時、私のテーブルには、大き目のコップと氷とレモンが入った特大のウォータージャグが置かれている。当然、他のテーブルにはそんなものはない。
「どうぞ、好きなだけ飲んでくださいね」
そんな声が聞こえたような気がして、私は店員に最高の笑顔を贈り、店員もまた笑顔で返す。
特大のウォータージャグのおかわりをお願いした時に、わずかに笑顔が引きつっていたのはきっと気のせいだと思いたい。