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事件簿03-5 光魔法の使い手、の後ろに

「なんだこの光は!」


 黄金の光に包まれながら、マイケルが瞠目した。


 魔力の暴風のせいで、明るいオレンジ色の巻き毛がぐしゃぐしゃになっている。


 今日は百年に一度の大嵐の日。休校中の学園の使われていない門番小屋から少し入ったところにある裏庭。


 今その裏庭は、光魔法で光り輝いている。



 ***



 魔法大臣を父に持つマイケル・フローレンジールが受け継いだ魔力は膨大で、魔法のセンスが抜群の彼をもってしても制御には苦労していた。


 制御さえ、魔法の制御さえできれば。


 母も父も自分も、全員が幸せになれたのに。


 それが悔しくて、訓練に訓練を重ねてきた。幼馴染のケビンがやたらと心配してきたが、制止を振り切って自分に負荷をかける。


 だが、ついに限界がきてしまった。


 マイケルの意志に反して身体の中から強制的に魔力が吸いだされる。


「こ、このまま……」


 このまま精根尽きるまで魔力が吸いだされ、倒れてしまうのか。


 そう思ったとき、全身を光魔法が包み込んだ。優しい光は、まるでマイケルを溶かすように押し寄せてくる。


「光魔法……全属性に対抗できる、か」


 魔法に長けたマイケルはすぐにそう気づいた。


 ただ、それを知っているのは相当なレベルで魔法を習得している人物に限られる。一般的な属性以外、光魔法にも明るい人物とは。


 そもそも光魔法持ちの人間がこの国に現れるのは珍しく、その記録は歴史書と言って差し支えないほど古いものしか残っていない。


 マイケルだって、かび臭い歴史書から古い研究記録までを読み漁って、ようやく概要が掴めたのだ。正直言ってあの光魔法属性の特待生は、平民出身で教養は高くないし、そこまで勉強熱心だという噂は聞かない。少なくとも歴史書を読み漁るタイプではない。


 では、誰がこの対処法に気づいたのか。


――やめろ


どこからか、まるで生まれた時から軍を率いる者としての責務を負っているかのような、そんな威厳に満ちた声がした気がした。


 魔法暴走から解放され、周囲を改めて見回してみると、特待生の耳元にふわりと緑の光――それは確か風魔法の気配――が見えた。


「風魔法……」


 何故か心惹かれる凛とした声。そして謎の風魔法。

 

 確か特待生は光魔法しか使えなかったはず、そう思っていると、こちらを気遣わしげに見ているケビンと目が合う。


(き、気まずい……)


 散々説得してくれたのに無下にしてしまったケビン。顔面が固まるのを感じながら、それでもごにょごにょと言葉を紡ぐ。


「ケビンくんの言った通りだった。やりすぎた。心配してくれたのに無視してごめん」


(格好悪い……!!)


 いたたまれなくなって、驚き固まっている友人の横をそのまま歩き去ってしまおうとしているのに、ケビンはすぐに復活して、それからちょっと嬉しそうについてきた。


「マイケル様! お身体は大丈夫ですか!?」


「だ、大丈夫だよ」


「ヴァネッサさんが来てくれて良かったですが、魔法暴走することがありますから、本当に気を付けてくださいね。訓練をするにしても、1日で複数属性を磨こうとするのはやめたほうがいいらしいですよ」


「……やめたほうがいいらしいですよ? って何?」


 誰かに相談したのか、そうケビンに問いかけるとちょっと言いづらそうに肯定された。


「マイケル様がどこかに消えるしその度に疲弊されていたものですから。ちょっと探偵に」


「探偵!?」


 そんなものに相談したのか! 驚いて声を荒げると、ケビンが慌てて付け加える。


「でも、この学園のご令嬢ですよ。学年やクラスはわからないのですが、ご様子からすると下の方のクラスかと。ちょっと柄悪いですし……。あ、でもとても頭が切れる方で、状況を説明しただけで全てお見通しと言いますか」


「へえ。そうなんだ……」


 探偵令嬢。


 マイケルにも心当たりがある。最近クラスの令嬢たちが騒いでいた、下町の喫茶店に毎日のように現れるこの学園の生徒。


 確かひどく制服を着崩し、言葉遣いも洗練されていないとかで、きっと大した身分ではないのだろう。そんな話を聞かされるたびに、にこにこと愛想よく聞き流すのが大変だった。そんな覚えがかすかにある。


「こんなことなら、もっと真剣に聞いておけばよかった……」


「マイケル様? どうかなさいましたか?」


「ケビンくん、その令嬢は魔法に長けているかい? 例えば高度な風魔法を使えるとか。それから見た目は?」


「魔法のことはわかりませんが、見た目は特徴的ですよ、髪が見事な」


 そこまで言うと、ケビンとそれからマイケルも、ふたりしてうわあ! と叫び声を上げた。


 空からザバザバとバケツをひっくり返したような雨が降りかかる。横殴りの風も追加され、ふたりは全身ずぶ濡れだ。


「「早く帰ろう!」」


 ぴったり同じタイミングでそう言ったふたりは、思わずふふっと笑い合い、それから大急ぎで寮に駆け戻っていった。


 帰り際に大きなつむじ風が発生していたのも、そのためわらわらと野次馬が集まっていたせいでちょっと遠回りをして帰らざるを得なかったのも、きっといい思い出になる。


 マイケルは柄にもなく、そんなふうに思った。


以外にローラの正体はばれていません。だって学園の令息令嬢はあの喫茶店には近づかないんだもの。でも、使用人からめちゃくちゃ噂が流れてきます。

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