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事件簿03-2 心はすでに嵐

「なるほど、さすがですねローラ様。で、理由はわかりますか」


 ケビンが期待を込めて聞いてくる。レイモンドは相変わらず不服そうだ。


「いなくなった理由は魔法制御訓練ね」


「魔法の訓練!? フローレンジールと言えばすぐにでも魔導士になれるって噂の魔術の名手じゃないか。今更訓練をするのか?」


 レイモンドが信じられないと目を見張る。しかしローラは少しも気にせずパフェをすくい取ると、ぱくりと口に放り込んだ。


「だって、マイケル様って制御が苦手でしょう? じゃないと魔力を調整する魔法石をネックレスにしてぶらさげないもの」


 そう、マイケルは必ず大ぶりの魔法石のネックレスを身に着けているのだ。ケビンにも思い当たる節があるようで、ふむふむと納得している。


「……さすが、探偵令嬢というのは伊達ではないですね。ローラ様には感服しました。そしてマイケル様が弱点の克服をしようとされているだけなら何も言えません」


 少し寂しげな、それでもすっきりとした表情のケビンに向かって、ローラが容赦なく告げた。


「でも、このままだとマイケル様は死ぬと思う」


「「!?」」


 向かいに座るふたりが驚愕する。レイモンドは驚いて身じろいだ拍子に、椅子から滑り落ちそうになっている。言葉を失うケビンに向かってさらに追い打ちをかけた。


「無理な訓練は魔法暴走が起こるもの。既にそこまで疲弊しているなら、暴走するまであと少しだろうなあ。そうだねえ……」


 ローラにはふと頭に浮かぶ情景があった。


『雨風が吹き荒れる嵐の日に、轟々と渦巻く魔力の闇に飲まれるマイケル』


「……今週末。百年に一度の大嵐の日」


 口をついてそんな言葉が出てきたものだから、そう言ったローラ自身も瞬きをする。


(そうか、そうだよね。あの暴風雨のスチルを作るなら、こうやって騒ぎになるくらいの大嵐の日ってことになるよね)


 そう納得していると、見るからにレイモンドが慌てだした。


「それってもうすぐじゃないか!? 早く訓練をやめさせないと!」


「……できるでしょうか」


 ケビンが自信なさげに呟いた。


(たぶん無理だろうなあ……)


 ただでさえ心を閉ざしがちなマイケルだ、ケビンがやけに事情を知っていれば反発しかねない。


 ならばこうするしかなかろう。ローラは溜息をついて、こう言った。


「じゃあ、魔法暴走は仕方ないとして、暴走を止める方針でいこうか」


「ローラ様、そんなことができるんですか!?」


 ケビンの感情が感心から崇拝に移り変わろうとしている気配を感じて、慌てて訂正する。


「いや、私じゃないよ」


「普通は同じ属性の魔法をぶち当てて魔力を相殺するんだけど、マイケルって複数属性持ちだろう? いろいろな魔法がごちゃまぜで暴走したら、どうやって止めればいいんだ?」


 レイモンドが首を傾げる。


 そうだな、普通はそう思うだろうな。


 ローラは人目もはばからずにんまりとする。目の前のふたりがこんな絶望的な状況にもかかわらず、やけに楽しそうなローラに不思議そうな目を向けてくる。


 だって、このネタ知ってるんだもん。楽しくない訳がないだろう。


 こういう時に実感する。ああ、この世界の理を自分だけが知っていると。


「全ての属性に対応できる魔法があるでしょ? 光魔法が使えるヴァネッサ・リリーさんに協力してくれるようにお願いしてみたら?」


 愛想よく微笑んでから、奢ってもらったパフェを口いっぱいに頬張った。


 一応のところマイケルの謎が解明され、対策も伝授してもらったケビンは、しばらく雑談をした後で寮に戻っていった。


 窓越しにケビンの背中を見つめるローラはやけにご機嫌で、ほんのりと頬を染めて心底愉快そうだ。


 そんなローラを先ほどからご機嫌斜めで、だがほのかに熱がこもった目で見つめるレイモンド。もやもやとした感情を抱えて、ただそれを口には出せずに飲み込んでいるようだ。


「わかってもらえるといいね」


 ぼそりとローラが呟いた。その表情はひどく優しい。


 ローラがふと向かいの席に目をやると、何か言いたそうなレイモンドが目に入る。ただそんな彼を前にしても、いつも通り何も言わずに無視をする。


 いつも通り。そんなふんわりした空気がその場を包み、緩やかな時間が過ぎていった。


「……さっきの人のこと、気に入ったのか?」


 しばらくしてから、レイモンドがぽつりとそんなことを呟いた。果たしてローラに聞かせるつもりがあったのだろうか、そんな萎びた声だった。


 黙って難しそうな歴史書を読んでいたローラは顔を上げてレイモンドをまじまじと見つめた。


(なんだか機嫌が悪そうねえ……)


 いつもなら放っておくのだが、今日は何だか気分がいい。ちょっとくらい気まぐれを起こしてみたっていいのではないか。


「……ケビン様は嫌いじゃないわ。でも、まあそうね。気に入る気に入らないで言えば、レイモンドの方が気に入っている、かな?」


「おおおおおお? どどどどういうううう?」


 そう言っていたずらっぽく笑いかけてみると、レイモンドが全力で驚きながら――そして急速に全身を赤らめながら――ぱくぱくと口を開閉している。


 その様子が間抜けで仕方がなくて、ローラが思わず「ふふ」っと声上げて笑ってしまう。


 それを見たレイモンドが輪をかけて真っ赤になるものだから、ローラの笑いがますます大きく、ますます愉快そうになるのだった。



 ***



 今日は百年に一度の大嵐の日。占星術師たちが一斉にそう予言し、新聞紙面もその話題でもちきりだから間違いないだろう。


 ちなみに、この占星術師たちは前世での気象予報士に近い存在で、太古は星の動きで国家の命運を占っていたようなのだが、今ではすっかりお天気おじさんと化している。


「はあ、どうしたもんかなあ」


 ローラが寮の自室からぼんやりと外を眺めて、誰に言うでもなくそう呟いた。


 物憂げな表情でトントンと窓ガラスをつつく。


 今日は寮から校舎への移動でさえ危険だと言うことで、学園の授業自体も全面的に休校になっていた。


 マイケルとはSクラス同士、実はいつも同じ教室にいるので、注意して様子を見ていたが、どんどん疲弊していくところを見るとケビンの説得は無に帰したのだろう。


 昨日ヴァネッサのもとにケビンが訪ねてきたが――スチル目当てでたまたまヴァネッサを尾行していたので知っている――、突然魔法暴走だ光魔法で相殺だと聞かされたヒロインは、全くピンときていなかった。


『マイケルに何度頼んでも魔法訓練を止めないから、もしものときのために頼んでいるんだ!』


『うーん? マイケルと話し合えばいいんじゃない?』


 ケビンが必死に頼んでも、ヴァネッサは輝くような笑顔のまま、そんな空っぽの返答を何度も繰り返していた。


 何度交渉してもそんな感じなので、ついにはケビンも諦めて、ガッカリした表情で去っていった。


(このヒロイン、なんというか、頭が悪いのよねえ……)


 自分以外の気持ちには考えが及ばない。腹を割って話せば、なんでも自分に都合よく運ぶと思っている。


 ゲームを離れてみるとかなり自己中心的というか、攻略対象以外の人間にとっては迷惑なことも多い。


 ……これは久々にプレイングで魅せてやろうか!


 ローラは意気揚々と部屋から出て行った。

でるか!? 魅せプレイ

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