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窓際話02-2 目的達成?

 今日は必ずローラへの贈り物を見繕う。労働者や子供連れなど、老若男女で賑わう市場のど真ん中で、ギラギラともはや血走った眼をしたレイモンド。


 マスターと話してから、もう一度ローラに近づいて何が欲しいか問うてみたが、大した返事はもらえなかった。


 これだけはとしつこく食い下がってみると、赤毛の令嬢は「じゃあ本」と投げやりに返してきた。


(本が好きなのは知ってるよ……でもプレゼントっぽくないじゃないか!!)


 ……つまり、何を買えばいいのか全く決まっていなかった。


 市場を彷徨う憐れなレイモンド。ふよふよと頼りなく視線を彷徨わせていると、思いがけず1軒の雑貨屋が目に入る。


 ショーウィンドウには可愛らしい髪留めや色とりどりの万年筆、透かしや箔押しがされた便箋がたくさん並べられており、女の子が好きそうな可愛さで溢れている。


 女友達同士らしき客たちが、きゃいきゃいとテンションも高くその店に吸い込まれていく。


「……」


 レイモンドは考えた。普段ならこんな「女子向け!」みたいな店には入らない。ひとりでは絶対に入らない。


 だが、この店で見繕った商品ならば、女の子に渡す贈り物として大失敗することはないのではないか。


「……」


 レイモンドはキュッと唇を噛み締める。どうしよう、どうしよう。勇気を出して入ってみるか、もっと入りやすい店を探すか。


「……よし」


 棒立ちすること数分、ついに覚悟を決めたレイモンドは、その可愛らしい雑貨店の敷居を跨いだ。


「いらっしゃいませ」


 ふくよかな老婦人の店主が愛想良く出迎えてくれる。白髪で穏やかな表情の店主を見て、一気に緊張がほぐれた。


 思わず「タスケテ……」と心の奥底からの叫びを発すると、店主はあらあらと驚いて、それからにっこり微笑んだ。



 ***



 レイモンドは喫茶店の窓際席で、ここに座るはずの赤毛の女性を待っている。


 その子は全てを見通すような推理力を持っていて、この辺りでは「窓際の探偵令嬢」といえば通じるほどだ。


 名門の魔法学園に通っているわりに、こんな下町の喫茶店に入り浸っているし、相談を持ち掛ければ身分を問わず話を聞いてくれる。


 そこらの探偵や調査員のようにお礼を無心することもなく、誰でも支払えるようなもの――珈琲だとかケーキだとか――しか求めてこない。


(正直言って相当な変わり者なのに、なのに俺は……)


 手元の包みをじっと見つめる。綺麗な包装紙でラッピングしてもらったそれは、雑貨屋の店主と散々悩んで決めたものだ。


『その子のことが好きなのね?』


 そう尋ねられ、ドギマギしながら勇気を振り絞って首を縦に振ると、おすすめがあると言ってこれを持ってきた。


 いや、正確には先に指輪を持ってきてくれたのだが、レイモンドが「ぜっっっっったいに無理!」だと渋るものだから、代わりにこちらを持ってきてくれたのだ。


 カツカツとヒールが鳴る音がする。さっと振り返ると、今日も制服を着崩したローラがこちらに向かって歩いてくる。


 指定席の向かいに座るレイモンドには目も暮れず、すとんといつもの席に腰を下ろした。


「ローラ? あの……」


 レイモンドが呼びかけると、今日のローラは「何か?」と返事をしてくれる。それに勇気づけられて、ぐいっと包みを差し出しながら、慌てて続きを話し出す。


「ギルバートさんとは何にもない! 興味ないから、全然! これはマジで!」


 するとローラがぎろりとこちらを睨みつけ、「ふーん」とだけ返してきた。


「ろろろろ、ローラの方がいいというかなんというか」


 慌ててそう付け加えると、ローラは無言でこちらを見つめてくる。


(それどういう感情!!? え、どういう感情!?)


 無表情かつ無言の意味を図りかねて、レイモンドは困惑する。機嫌は悪くなさそうだが、もちろん良いとも言い難い。


 ええいどうにでもなれ、そんな気持ちでさらに包みを突き出した。


「これ、ローラにもらって欲しくって」


「……開けていいの?」


「ど、どうぞ」


 丁寧に包み紙を開く様子をドキドキしながら見つめる。どんな反応をするだろう、生きた心地がしなかった。


 ローラが箱を開くと、その中には小ぶりの石がついたブレスレットが入っていた。茶色のリボンに緑と赤の小さな石を通してある。


『その子の色は?』


『髪は赤で目は緑です』


『じゃあ、赤と緑の石と、あなたの目の色の茶色のリボンにしましょうね』


 言われるがままに石を選んで、ブレスレットに通してもらった。


 恐る恐るローラの様子を伺うと……


「え、これ本当にもらっていいの!?」


 ……尋常ではなく食いついていた。


「……!? も、もちろん。気に入ってくれると嬉しい」


「気にいるもなにも、レアアイテ……違った、とにかくこういうのが欲しかったのよ!」


「でもこの色の組み合わせは見たことないわ」そう言ってほくほくと嬉しそうな表情をするローラに面食らう。


 どうしていいかわからなくなって、うろうろと視線を彷徨わせていると、遠くからマスターが「よくやったわ」というように親指を立てて合図を送ってくる。


 ホッとして脱力していると、ローラが気まずそうに言ってきた。


「本当にありがとう。それと、最近態度が悪くてごめんね。自分でもよくわからなくて」


「いいい、いいんだそんなこと」


 食い気味に許すレイモンド。


「これ、大切にするわ。今日は一緒に帰りましょう?」


(うっ……)


 ちょっとはにかみながらそう言うローラのせいで、レイモンドはノックダウン寸前だ。


 やぶれかぶれで「そうしよう」と答えたものの、これ以上話すときっと口から心臓が飛び出してしまうだろう。


(マスター!! 話が違うぞ!! ローラに惚れてもらうんじゃなくて、ますますこっちが夢中になってるんだけど!?)


 そう絶叫するレイモンドのことなどいざ知らず、思いもよらずとっても見覚えのある――なんだか『どのユリ』内ガチャの超レアアイテムとそっくりな――ブレスレットを手に入れたローラは、とろけそうな笑みをレイモンドに向ける。


 それがとどめになって、その日はもう使い物にならなくなるレイモンドだった。

はい、レイモンドの負け。とマスターは思いました。

ちなみにローラがちょっと優しいのは、マスターに「冷たすぎよん!」と叱られたからです。

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