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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第八章 オーマガTV
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8-5話 テッたん、緊張してんのか?

「どないしよカイちゃん」


 鉄太は楽屋に戻るとテレビのスイッチを入れ、コーラで口直しをし、高そうな焼き肉弁当の封を切りつつ開斗に相談する。


 このままテレビの変態企画を続けるとオホホ座の契約を打ち切られてしまいそうなのだ。


「どうもこうもないやろ。向こうの腹づもり一つで決まる話や。あの婆さんもう知っとんのや。覚悟決めぇ」


「テレビの話(ことわ)ろ。今ならまだ名前出てないし間に合うて」


「アホか。ここの仕事はどうせ月一回あるかないかや。テレビの仕事のが美味しいやろ」


「いやいや、テレビの仕事言うても色物の企画なんてどうせ数回で終わりやん。やったら、こっちの仕事続けた方が美味しいって。大体、他の店も出禁になったらどうすんのや」


 オホホ座はオホホグループの旗艦店であり系列店をいくつも持っているのだ。鉄太は焼き肉弁当を口に運びモシャモシャしながら開斗に訴える。


「テレビはチャンスなんや。知名度が上がれば他の笑パブから声もかかるしギャラだって上がる。てか、メシ食うんやったらワイにも食べさせんかい。あと、真剣に考えるつもりならテレビ消せ」


「万が一、ド変態の企画がエスカレートしたらどないしてくれるんや。漫才でけへんようになるわ。それに、テレビっていうならオホホ座でやってればテレビ局からのスカウトだってあるかもしれへんし」


 鉄太は文句を言いながら開斗の左隣に座って弁当と割り箸を彼の手に持たせた。


「いざとなったら、芸名でもなんでも変えればええやろ……何やこの弁当、煮物ばっかりやんけ。嫌がらせか! ていうかテレビ消せ」


「じゃあ、カイちゃんがテレビの企画(あきら)めてくれるんやったらテレビ消すわ」


「〈喃照耶念(なんでやねん)〉! 〈喃照耶念(なんでやねん)〉! 〈喃照耶念(なんでやねん)〉!」


 開斗は体を左側に(ひね)ると、続けざまに鉄太へ向かって手刀ツッコミを至近距離から浴びせた。


 しかし、鉄太はその行動を読んでおり、すかさず笑壁を張って防御した。そして、ソファーから飛びのき開斗から距離をとる。


 鉄太は笑壁を張り続けた。開斗から緊張が解ける気配がないからだ。


 開斗は一呼吸の間を置くと鉄太に向かって無言で何発も百歩ツッコミを放ち続けた。


「ちょ、ちょっとカイちゃん! タンマ、タンマ! テレビ消す消さんぐらいで、そんなに怒ることないやろ!」


 鉄太は堪らず声を上げる。ところが、開斗は笑いながら百歩ツッコミを打ち続ける。


「これ、オモロイな!」


「何がや!? 楽屋壊すつもりか! 弁償されられんで!」


「そやない、そやない。テッたん、大発見や。これ、笑気の反射で物の形が分かるような気がするんや」


 開斗は、まるでコウモリやイルカが使うエコーロケーションのように、空間を把握できるかもしれないと言い出した。


「え!? マジで? じゃあ、じゃあ、このテレビの形分かる?」


「テレビは! 大抵! 四角やろ!!」


 自らの可能性が広がったことが嬉しいのか、開斗は顔を綻ばせながら鉄太に百歩ツッコミを連発で浴びせる。


「待った待った! カイちゃん、もうすぐ本番やで。疲れるからもうやめて」


 悲鳴混じりの鉄太の懇願を受け入れ開斗は百歩ツッコミを打つのを止めた。


 そして二人は、どうして突然こんなことが出来るようになったのか、弁当を食べながら話し合った。


 仮説として、笑気でツッコんだり笑壁で受けるのは舞台などの開けた場所なので、今まで気づかなかっただけなのかもしれないというのが一番しっくりくるモノだった。



 さて、時間が進み7時前、いよいよ〈満開ボーイズ〉の出番が来た。


 流石に超高級店ともなれば呼ばれているのは超実力者ばかり、〈満開ボーイズ〉といえど任されるのは前座に近い時間帯だ。


 オホホ座のステージは体育館のステージほどあるので、大がかりなセットも設置できるほど広い。


 そしてホールは体育館とは違い5メートルごとに50cmほど段が付いているので、後ろのテーブル席からでも遮られることなく壇上を見ることができる。


 薄ピンク色の勝負服に着替えた彼らはステージ前で閉じられている白い大トビラの裏側に立った。


 今日の彼らの演目は〝宇宙漫才〟である。


「テッたん、緊張してんのか?」


「そら、するやろ」


 オホホ座はアドリブ禁止なのだ。


 セリフは一語一句間違えないことを要求されている。


 おまけに自分たちは総支配人に目を付けられている状態である。少しのミスが命取りになりかねないのだ。

 

 適度な緊張は必要だろうが、人に心配されるほど緊張しているとなると話は別だ。


 鉄太は2、3度深呼吸をしてみた。


 しばらくすると天井のスピーカから登場用のBGMが流れ、進行役が〈満開ボーイズ〉の名を呼ぶのが聞こえた。


 すると、大トビラが自動で開く。


 このトビラは階段の上に設けられており、かなり急勾配でもある。


 また、ステージを照らすライトが眩しくて目の見えない開斗でなくとも危険である。二人は駆け降りることはせず、観客に手を振りながら比較的ゆっくり降りる。


 そして、マイク前までたどり着くと、最前列のテーブル席にはドレスを身にまとった〈丑三つ時シスターズ〉の二人が座っていた。


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次回、8-6話 「とりあえず、口を噤むことにした」

つづきは9月5日、日曜日の昼12時にアップします。

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