表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第七章 肉林
91/228

7-4話 優勝が、誰とかどうでもええ話

 どっきりヤンキーで食事をする3人。


 肉林はサクサク食べ進めるのに対して鉄太と開斗の食べる速度は非常に遅い。


 開斗は目が見えないし鉄太は片腕である。


 その上、鉄太は目の見えない開斗が熱々の石箱を触らないように気を配ってないといけないのだ。


「いつまで食ってんねん。そんなペースで食ってたら夕飯になるで」


 早くも食べ終えた肉林は、肘をついてアクビ交じりに文句を言ってきた。


「じゃあ肉林兄さん、すんまへんけどカイちゃんに食べさせてやってくれます?」


 鉄太は冗談半分にお願いしてみると、肉林は「お前マジか!?」と驚きつつも、開斗に食べさせる係を引き受けてくれた。


 テーブルの対面の肉林は立ち上がり上体を伸ばして、開斗に「ほれ、ア~ンや」と言って食べさせはじめた。


 まさかやってくれるとは思わなかった。


 鉄太に替わり開斗に食べさせる係となった肉林に対して、鉄太はお礼を言い自分の食事に集中する。


「こんなん、自分の女にもしたことないわ」


 愚痴をこぼしつつも給仕役をこなす肉林。


「そう言えば、兄さん。女の方は相変わらずですの? まさかまたスタッフの女に手ぇ出してませんやろな?」


 食べさせようとする肉林に対して開斗が手で待ったをかけて問いかけた。

 肉林欲造は芸名が示すように女癖が悪いことで有名であった。


 ぶっちゃけ、肉林がいまいち売れていない理由はそのあたりに原因がある。


 鉄太は、撮影スタッフに純朴そうなADの女の子がいたことを思い出した。もし彼女が肉林の毒牙に掛かっていたのならば、やるせないことこの上ない。


 しかし肉林は否定した。


「アホか。スタッフに手ぇ出すんはコリゴリや。お前らも気ぃ付けぇ。〈大漫〉優勝程度で調子に乗ってスタッフに手ぇ出したらあっちゅう間に干されるで」


 実感のある言葉を聞いて鉄太はホッとした。

 肉林は思い出したように付け加えた。


「あ、そう言えば、さっきの撮影隊で女が一人おったやろ。あれDのコレやで」


 肉林はいやらしい笑みを浮かべ、鉄太に小指を立てて見せる。


 Dとは赤ブチ眼鏡の肥後(ひご)ディレクターのことか。


 知りたくもないことを知ってしまった鉄太は最悪の気分になった。



 ヤンキーハンバーグセットを食べ終え、追加注文のデザートが来る。


 鉄太はレアチーズケーキ。開斗はコーヒーアイスクリーム。肉林はアップルパイである。

 レアチーズケーキを細かく切り分けながら鉄太は、肉林に先ほど聞けなかったことを尋ねてみた。


「肉林兄さん。第七回のこと聞いていいですか?」


「ああん? 何んやねん。もうさっき話たろ。まだ何かあんのか?」


「いや、第七回でワイらがいなくなってからのこと教えて欲しいんですけど……」


 腕を切られて退場してからのことを鉄太は知らない。普通に考えれば大会は中止であり、やれと言われても漫才ができる空気ではない。


 断っても文句は言われないはずだ。


「なんで漫才を続けれたんですか?」


 その問いかけに、肉林は腕を組んで俯いた。


 そして、2分が過ぎようとした頃、ゆっくりと顔を上げて語りだした。


「鉄棒とかの競技で、落ちて骨折したらまず1回技をさせてから病院に連れてく話知っとるか? それと一緒や。……誰が言うたか覚えてへんけどな。このままお客返したら、2度と漫才見られんようになるんちゃうかって話で流れが変わったんや。

 別に〈大漫〉なんか無くなっても()まへんけど、漫才好きで見に来たお客が、漫才見られへんようになったら可哀そすぎるやろ」


 肉林の話に鉄太と開斗は静かに聞き入る。


「あん時の舞台裏は激熱やったな。漫才師だけやない、運営や局の人らも覚悟決めて一丸となったんや。みんな必死に繋いでお客が笑って帰れるように全力出して、そして成功した。だから優勝が誰とかどうでもええ話や」


 そして肉林は、鉄太に向かってこう言った。


「あと、テレビで腕切られたトコ流して、大騒ぎになったけどな、現場知っとる人間からしたら、どうしてもカットできんかったんやろうな。許したってや」


 肉林は、もうお仕舞だと言うように、コップの水をゆっくり飲み始めた。


 正直、その話に鉄太はハンマーで殴られたような衝撃を受けた。


 今まで腕を切られた下りを放映したのはテレビ局員が視聴率が欲しいがための行為だと思いこんでいたのだ。


 すると突然、開斗がテーブルに両手をついて立ち上がった。そして頭を深く下げると店内に響き渡るような声を上げた。


「肉林兄さん! ホンマ有難うございました!」


 店員や他の客らがあっけに取られてこちらを見る。


 鉄太もビックリして仰け反ったものの、慌てて立ち上がると開斗に負けじと大声で「ありがとうございました」と肉林に礼を言った。


「何や何や気持ち悪い。座れ座れ! 迷惑やろ」


 肉林の指示によって、鉄太と開斗は席に着き、店内は再生ボタンが押されたかのように人が動き出した。


 開斗は座ると鉄太に話しかける。


「テッたんも病院運ばれる前に、もう1回漫才やっとったらイップスならんかったんとちゃうか?」

「死んでまうわ」


 2人のやり取りに肉林は爆笑した。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、第八章 オーマガTV

「8-1話 今までで、最高視聴率でした」

つづきは、8月21日、土曜日の昼12時にアップします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ