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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第六章 キャッチボール
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6-2話 野球部でエースナンバー背負ってた

 開斗が給料の前借りについて切り出すと金島が呆れる。


(おどれ)は金が無いクセに、あのガギに小遣いやったんか」


「芸人はそういうもんや」


「借金も返せんようなヤツが言うセリフじゃないじゃろが」


 金島の苦言に不貞腐れたようにそっぽを向く開斗。


「まぁええわ。ちょっと待っとけ」


 金島は応接室を出て行った。


「芸人でないヤツに何が分かるんや」


 そう(うそぶ)く開斗であったが、この件に関しては鉄太は金島と同意見であった。


 確かに、芸人は食べていくのが難しい商売なので先輩は後輩に対して色々面倒を見る風潮がある。


 しかしそれは懐が豊な芸人に任せればいいことだと鉄太は思っている。


 偉大な漫才師、亞院鷲太(あいんしゅうた)を父に持つ鉄太は、物心ついたときには裕福な環境であり父親の影響で金銭的に野放図に育っていた。


 ところが、将来漫才師になる意思を示したことから、亞院の苗字を変えるため母親の実家に養子に出された。


 祖父母から鉄太は甘やかされてはいたが、所詮庶民なので自然と一般的な金銭感覚に矯正されていったのだった。


 応接室に戻って来た金島は借用書2枚と朱肉を持っていた。


 投げるように机の上に置かれた借用書を見ると、それには借入金、壱万円云々と記載されていた。


 鉄太と開斗が月田に与えた金額は、それぞれ4000円ずつなのであるが多くて困ることはない。


 鉄太と開斗が借用書に拇印を押すと金島は財布からから2万円抜き出し、テーブルの上に置いてソファーに座った。


 なんとなく不安を覚えつつ鉄太は「おおきにと」礼を言って、自分と開斗の財布に1万円ずつしまう。


「かまわん。それは(おどれ)らの借金じゃけぇ」


「え!?」


 よくよく話を聞くと、今出した金は給料の前借りではなく借金の積み増しという形にするとのことである。


 違いは借金なので金利分の負担が生じることだ。


「そんなんズルイやん!」


「ちゃんと借用書に金利も書いてある。借金に利息が付くのは当たり前じゃろ」


 借用書をロクに読まなかった鉄太が悪いのだが、給料の前借りという話の流れだったのに借金の契約になっているのは納得がいかない。


 ならば、借りるのは1万でいいと開斗は1万円返そうとしたが、すでに契約が終わっているから今返されても金利分は貰うと言われる。


「借金漬けにするつもりか? オッサン、なんか新しい仕事ないんか」


 開斗は噛みつくようにに尋ねた。


「人聞きの悪いコト言うな。金利は出資法で定められとる範囲内じゃ。それに、金受け取って感謝もなしにその言葉か?」


「前借やのうて借金ならワイらは客やぞ。感謝するのはそっちの方や。大体、ロクに仕事も取ってこられん事務所やからこんな目に()うとるんやろ」


「ぬかせ。(おどれ)らの仕事取って来るんがどれだけ大変か分かっとんのか」


 金島のいう事にも一理ある。


 開斗は目が見えないし鉄太は右腕がないという特殊事情から、仕事はなんでもいいというワケにはいかないのだ。


 ピリピリした空気が応接室を包み、鉄太は仲裁に入るかどうか迷っていると金島が思い出したように言った。


「ところで(おどれ)らは欣鉄(きんてつ)のファンなんか?」


「は?」


 脈絡(みゃくらく)のない質問に意味を図りかねる鉄太と開斗。


 欣鉄(きんてつ)と言えば、一昨日野球観戦したばかりだが、もしかしてあの時、金島も球場にいたのだろうか?


 金島は、開斗から「何の話や」と問われ説明を始める。


(おどれ)らに欣鉄(きんてつ)ジャクヤークから始球式の依頼が来とる。 格安のギャラでのぉ」


「格安? ギャラ交渉とかせえへんかったんか?」


「ギャラ交渉なぞ貧乏球団相手にするだけ無駄じゃろ」


 欣鉄(きんてつ)ジャクヤークとは、欣喜(きんき)鉄道をオーナー企業とする野球チームである。一昨日〈丑三つ時シスターズ〉らと観戦したチームであり、人気の無いパ・リーグのなので運営状況は非常に厳しいのだ。


 開斗は金島に、野球は咲神(しょうじん)のファンであること、欣鉄(きんてつ)は嫌いではないがファンではないこと、それと、一昨日欣鉄(きんてつ)対オーイェーの試合観戦に行ったことを告げた。


 すると金島は自分は広島のファンであると応じ、タイミング的に考えて、二人が球団職員に見かけられたのだろうと推論をした。


「もし、ファンならギャラが安くても引き受けてくれると思ったんじゃろ。交通費引いたら足が出るようなギャラじゃ。断るか?」


「足が出るんは、オッサンがピンハネするからやろ。やるに決まっとるわ」

「え!? ちょっと、待って待って!」


 断わる流れかと思いきや、まさかの展開に鉄太はたまらず会話に割って入る。


「始球式て、カイちゃん目ぇ見えへんのに投げられへんやん」


「目ぇ見えへんでもボールは投げられるやろ。大体、始球式なんてアイドルみたいなド素人がベースまで届きもせんクソボール投げても成立しとんのや。あんな野球を知りもせんカスどもより、ワイのが絶対上手く(うま)投げられる」


 酷い言い草だが、開斗は高校時代、野球部でエースナンバーを背負っていたのだ。


 野球に対する思い入れは並々ならぬものがあるようだ。


「でも、交通費引いたら赤なんやろ?」


「定期持っとるからタダみたいなもんやろ」


 鉄太は確かにと思ったが、金島から「大咲花(おおさか)スタヂアムとは限らんじゃろ」と指摘された。


 彼が言うにはまだ場所も日付も決まってないとのことだ。


「だったら、条件として、大咲花(おおさか)スタヂアム以外なら、交通費別でもらうよう言うてくれ……それともう一つ……」


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次回、6-3話 「逃げずにちゃんと受け取りや」

つづきは7月31日、土曜日の昼12時にアップします。

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