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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第四章 満開ラジオ
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4-4話 雌豹のポーズって言うんやろ

<満開ラジオ>本日2本目の収録。


 ブース内の机の前には4人が座っている。鉄太の左隣に開斗、向かいに島津、そして斜向(はすむ)かいに朝戸である。


「はい、本番いきます。5秒前、4、3、2、1」


 ミキシングルームにいるディレクターよりイヤホンを通してのカウントダウンが終わると、


「〈満開ボーイズ〉の満開ラジオー」


 ブース内のスピーカーからタイトルコールと共にBGMが流れる。しばらくしてBGMの音量が下がり島津からキューが出る。


 鉄太は目の前に置いてある〝カフ〟と呼ばれるマイクの音量を調整するレバーを上げ、足で開斗に合図を送った。


 それを受けて開斗はしゃべりだす。


「みなさんこんにちわー。満開ラジオ。パーソナリティーを務める〈満開ボーイズ〉霧崎です」


「同じく〈満開ボーイズ〉立岩です。早いものでこのラジオも、もう8回目。季節もなんだかジメジメしてまいりましたね」


「そーですかね。ワイはあんまり気にならんけど。テッたんが太ってるからとちゃうか? もう少し痩せい。ダイエットしろ。ダイエット」


「いや、言うほどワテ太ってへんし。てか、ダイエットって意味あんの? ダイエットして痩せた人見たことないわ」


「そんなことないやろ。たまにテレビでも何かのダイエットに成功して何十キロ痩せたとか、やってるやろ」


「カイちゃん。あれはな、ツチノコとかカッパとかと一緒や。『ダイエットに成功した人を発見しました。珍しいでしょ』って見世物にしてるんや」


 鉄太の正面に座っている島津が指をクルクル回してきた。


 普通、パーソナリティーが二人いたら進行役とタイムキーパー役をそれぞれ分担するのだが、目が見えない開斗にはどちらも難しいため島津がタイムキーパーを行っている。


 普段の彼は鼻クソでもほじりながらやっているのであるが、今日に限っては出来る男感を漂わせているのがイラっとする。


 鉄太は、開斗に足で合図を送り、それを受けて開斗はオープニングトークを締める。


「〈喃照耶念(なんでやねん)〉。怒られるわ。そんなことより、言わないかんことがあるやろ」


「そうでした。先週もお伝えしましたが、本日はなんと、この番組にゲストが来てくれはりました」


 鉄太は、ひとボケ入れたくなるのをガマンする。一本目のトークでは散々ライブの件を扱き下ろして時間オーバーしていたのだが、今回の主役は自分たちではないのだ。


「初ゲストですね」

「初ゲストです。それではお呼びいたしましょう。それでは本日のゲストは、この方です。お願いします!」


 鉄太が呼び込みをすると、島津がストップウォッチを凝視しながら、朝戸にどうぞというゼスチャーをする。


(それ、いらんやろ)と、鉄太が心の中で島津にツッコミ入れる。


「朝戸イズルで~~す。ディアボロスプロモーションから来ました。よろしくお願いしま~~す」


 彼女は帽子とメガネを取り深々とお辞儀をした。


「……はい、グラビアモデルの朝戸イズルちゃんです~~」


 ウェーブのかかったセミロングの茶髪からシャンプーのフローラルな香りが鉄太の鼻孔を直撃し、次のセリフがワンテンポ遅れる。


 すると島津は顔を上げて鉄太をグッと睨みつける。


(ウッザ)


 必死すぎる島津に辟易する鉄太。


 しかし、これ以上気を取られるとミスをしてしまいそうだ。


 鉄太はこの収録では、なるべく彼の方を見ないようにしようと思った。


「テッたん。グラビアモデルってことは女の子か?」


「当たり前やがな。表紙が男の裸になってる週刊誌とか見たことないわ」


「いや、イズルって言うから、ワイはてっきり男やと思ってたわ」


「それ、よく言われます~~」


 その後、本名なのか芸名なのかとか、なんて呼べばいいのか。どのような容姿なのかというやり取りを行い、写真集の宣伝へと移る。


「ところでイズルちゃん。今日、ゲストに来たんは、お知らせしたいことがあるんですよね?」


「そうで~~す。実は、私の10冊目の写真集〈小悪魔将軍〉が来月6月に発売されま~~す!」


「え? 待って待って、悪魔将軍て何やそのタイトル!?」

「待つのはお前や。小悪魔言うてたやろ」


「そうですよ立岩さん。〝小〟を抜かないで下さ~~い。〝小〟大事です~~」


 タイトルをイジっていいことは確認済みなので、この下りは打ち合わせ通りだ。そして、次に写真集の内容を開斗に伝える流れに移る。


「ありがとう。これがその写真集か~~。うわ~~ごっつエロいわ~~」

「何やそれ全然伝わってこんわ。ワイは目が見えんのや。もっと具体的に説明してんか」


「じゃあ、カイちゃん説明するわ。ええか? まず、表紙。黒いビキニの水着着て、お尻プリーーンて突き出してるで。ほんで、その水着から矢印みたいなシッポが生えてとんのや。

 次にえ~と、6ページと7ページの見開き。これ雌豹のポーズって言うんやろか? あと水着が網みたいになってめっちゃ肌見えてるわ!」


 もちろん、鉄太は写真集など見ていない。


 彼がいま頭に思い浮かべているのは、恰幅(かっぷく)のよい中年女性マネージャー座枡(ざます)のセクシーポーズであり、見ているのは自身が台本に書いたメモである。


 ブースのみんなや、ミキシングルームの連中がニヤニヤしているのが気に障る。


 鉄太は屈辱に耐えながら、写真集の紹介を続けた。


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、第五章「下楽下楽げらげら

5-1話「そしたらチャラにしてやるわ」

つづきは7月3日、土曜日の昼12時にアップします。

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