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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第四章 満開ラジオ
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4-3話 振り返える仕草をしながら尻を突き出し

 島津は、<満開ラジオ>第8回分の台本を朝戸とマネージャーの2人に渡し、オープニングトークでゲスト紹介、エンディングトークで写真集の宣伝するという、収録の大まかな流れを説明する。


 ただ、おさまりが悪いのか、たまに椅子の位置をガチャガチャ変える。


 そんな座りにくい場所を選ばずとも、折りたたみの机は、まだ部屋の隅にあるのだから、もう一つ出して、机の配置をコの字型にすればよかったのだ。


 それをしないのは、少しでも彼女の近くに寄って、あわよくば胸チラを拝見しようとする下心のなせる技であろう。


 しかも、椅子をガチャつかせるたびに微妙に彼女に近づけてるようで、いつのまにか、体の大半が2つの机の境界線のあちら側に領域侵犯していた。


 しかし朝戸は古株だけのことはあった。


 このような手合いには慣れっこのようで、セクハラクリーチャーがにじり寄って来ているのに動じる様子はない。


「そう言えば、写真集のタイトルを教えて欲しいでごわす」


 息のかかりそうな距離から質問を浴びせられるが、彼女は笑顔のまま答える。


「小悪魔将軍で~~す」


 部屋の空気が微妙な感じになった。


「え!? 小悪魔……将軍? 将軍って征夷大将軍の将軍でごわすか?」


「そうで~~す。ヘンなタイトルでしょ? でも、実は~~私、写真集10冊目なんですよ~~。それで、さすがにネタが尽きちゃって~~」


 10冊目のタイトルで、将軍を選ばなくてはならないほど、国語辞典にのってる単語は少なくないいはずだ。


 鉄太はマネージャーの方を横目で見てみたが、薄っぺらい台本を見続けており、特に何も言う様子がない。


 これは、なかなかのワケあり物件のようだ。


「なんや、その写真集は鎧とか着とんのか?」

「チョーうける~~。それありかも~~」


 開斗がいい感じのツッコミをしてくれて場が和んだ。島津は気を取り直したように、打ち合わせを再開する。


「では、その写真集〈小悪魔将軍〉の、宣伝するくだりでごわすが、そちらの立岩どんが、写真集の実物を見ている(てい)で、隣りの霧崎どんに伝えるという小芝居をするつもりでごわす。それをしても問題ないでごわすか?」


「ないで~~す」


 朗らかに返事をする朝戸。彼女らには、開斗が目が見えないということを、打ち合わせの冒頭で伝えている。


「一応確認するでごわすが、写真集出来てへんでごわすか?」

「出来てませ~~ん」


「サンプルとか……」

「ないで~~す」


 取り付く島もないその返事に、露骨にガッカリする島津。


「困ったでごわす。さっき立岩どんとも話してたのでごわすが、どんなポーズがあるのか分からないと小芝居が難しいのでごわす」


 鉄太は眉を(ひそ)める。

(いや、そんな話してないし)


「台本書き直しすると、プロデューサー(P)の承認に時間がかかるかもしれんでごわす。もしよかったら、どんなポーズがあんのか、ここでやって、立岩どんに見せてやってくれへんでごわすか?」


 島津が鉄太に同意を促すように視線を送って来た。


(嘘つけ)と鉄太は思った。


 過去収録の打ち合わせで、台本の変更したことは数回あったが、プロデュサーに承認してもらっている様子など見たことなかった。


 島津は、あくまで鉄太がそれを望んでいるというニュアンスを漂わせている。ここで同意などしたら、彼女にネガティブなイメージを持たれるかもしれない。


 ここは、必要ないと言うべきか?


「お願いします」


 しかし、鉄太の口からでた言葉は、真逆であった。


 やっぱり、どんなポーズがあるか知っていた方が収録しやすい。だってこれは仕事なのだから。


「ん~~。ど~する~~?」


 鉄太にお願いされた朝戸は、そう言いながらマネージャーを見る。それまで沈黙を貫いてきたマネージャーが口を開いた。


「それはNGでお願いするざます」


 断られることを想定していなかった鉄太は「え!?」と聞き返して固まってしまった。これでは、イメージを悪くしただけの丸損だ。


「……ですが、その代わりに私が写真集のポーズを説明するざます」


 あっけに取られる鉄太たちをよそに、スカートスーツのマネージャーは立ち上がり後ろを向くと、「まず表紙のポーズはこれざます」と言い、両腕で自分の胸部を抱えた後、振り返える仕草をしながら尻を突き出した。


「ちなみにビキニの水着で色は黒です。そして、小悪魔をイメージさせるために矢印状のシッポを水着に取り付けているのがポイントざます。そして、宣伝に使って頂きたいのが、まず6ページと7ページの見開きの雌豹(めひょう)のポーズざます」


 彼女はパンプスを脱いで机の上に(あが)ろうとする。


 身長はそれほど高くないため、足を上げると膝までしかないスカートスーツの奥から何か見えそうになる。


 ついつい視線がそちらに向いてしまうのは悲しい男の(さが)だ。


 しかし、横目でこちらの様子を(うかが)っていたマネージャーと目が合ってしまった。


 すると、彼女は何処を見ているか分かっていると言わんばかりの()らしい笑みを浮かべた。


 なんという屈辱。


 会議テーブルにギチギチと悲鳴を上げさせながら、4つん這いの彼女は尻を高く持ち上げ、上目遣いに鉄太を見るとこう言った。


「ちゃんとメモを取るざます」


 隣りで開斗は笑いをかみ殺している。


 鉄太は目の見えない開斗を始めて(うらや)ましく思った。

次回、4-4話 「雌豹のポーズって言うんやろ」

つづきは6月27日、日曜日の昼12時にアップします。

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