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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第四章 満開ラジオ
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4-2話 見え見えのおべっかなのに上機嫌

「ははははは。そりゃ、とんだ災難でごわすな」


「笑いごとやあらへんで。オープニングトークでこの話してもええか?」


 ラジオ収録の打ち合わせ。


 開斗は、事務所でのやり取りを一通り語ると、ラジオ収録のネタとして使ってよいかを島津に尋ねた。


「そら、かまへんでごわすが、なんなら、PT出すでごわすか?」


「金の話になると、すぐには返事でけへんわ。あとどっか、ええイベンター知ってたら教えて欲しんやけど」


 PTとは、パーティシペーション。番組内で流すCMの一種である。


 また、イベンターとはイベントを専門に取り仕切る業者である。ラジオ局はイベントを行うことが多いので、紹介してもらうのは良い考えである。


 鉄太は横で話を聞いていて、開斗はスゴイなと思った。グラビアアイドルの話が出た時点で、ライブのことなど頭から無くなっていた自分が恥ずかしい。


 鉄太の羞恥をよそに、話の流れは番組の打ち合わせになる。


「じゃあ、今回はコレでごわす」


 島津は、机の上に置かれていた書類の中から、ホチキスで閉じられた冊子を鉄太の前に差し出した。


 その冊子は、数枚のA4のコピー用紙をホチキスで綴じたもので、2部あった。表紙には、〈満開ラジオ〉と大きく印字されていることから分かるように、これはラジオの台本であった。


 もちろん目の見えない開斗には意味のないもので、2部あるのは本日収録する第7回分と第8回分の台本である。


 満開ラジオは今年の四月から始まった週1、30分の深夜番組だ。


 読者投稿を読んだり、音楽を流したりと、いたって普通の作りである。


 収録は約1か月前に行い、本日の収録分が流れるのは5月下旬である。


 ということは、番組内でライブの告知ができるとしても今回収録する分だけだろう。


「ゲストの収録は第8回分でごわす。写真集の宣伝しますんで、よろしくでごわす」


 島津は自分用の台本をめくりながら鉄太に告げる。鉄太は台本に挟まれていたゲストのプロフィールを一瞥する。


 朝戸イズル。ディアボロスプロモーション所属。

 出身地 神戸、生年月日 11月26日

 B91、W60、H82。年齢非公開。


 ただ、島津によると、グラビアとしてはそこそこ古株にあたり、24、5ぐらではないかとのことだ。


 そう言われてみると、昔、雑誌のグラビアで見た気もする。


 鉄太が手にしているA4用紙1枚のプロフィールは、FAXで送られてきたものをコピーしたらしく、字が潰れ気味で非常に読みづらい。


 それはいいとしても、モノクロ2諧調のため、顔写真が凶悪犯のような人相になっているのはいかがなものか。


 もっとちゃんとした参考資料が必要ではないのか? 


「ところで……その……写真集無いの?」


「無いでごわす。というかまだ物がないとのことでごわす」


 鉄太の問いに、唇をかみしめるように答える島津。写真集の発売は6月とのことなので、現時点で見本すらないのはよくある話であった。


「ただ、放送日は発売日間近なんで、出来てる(てい)で宣伝したいとのことでごわす」


「じゃあ、ワテが写真集見て興奮して、それをカイちゃんに伝える感じでええ?」

「OKでごわす」


 鉄太はガッカリした様子を悟られないように、あくまで、仕事のために聞いたという雰囲気を醸しながら、台本に赤ボールペンで注意事項を記入していく。


 すると、今度は開斗から島津に質問が出る。


「そーいや、まだ写真集の名前、聞いてへんのとちゃうか?」


「前、聞いたときはまだ決まってへんとのことで、今日来た時に教えてくれるとのことでごわす」


「マジか。もし決まってへんかったら、写真集見てる振りでけへんで」


「まぁ、その時はその時で」



 打ち合わせが終わり、3人で雑談をしていると、楽屋のドアがノックされた。島津が「どうぞでごわす」と返事をすると、ドアが開かれ、ショッキングピンクのスーツを着た中年女性が現れた。


 かなり恰幅がよく、スカートスーツがミチミチである。

「失礼するざます。ディアボロスプロモーション、マネージャーの座枡(ざます)と申します。本日〈満開ラジオ〉の収録のためお邪魔しました」


 教育ママのような中年女性が挨拶すると、彼の背後から小柄な女性が現れた。


 大きめの帽子、黒ぶち眼鏡に、体形が出にくいダボダボの服を着ているのは、ちょっとした変装のつもりだろう。


 彼女はマネージャーの前に出ると、


「朝戸イズルで~~す。本日わぁ、よろしくお願いしま~~す」


 初対面の相手に帽子も取らず馴れ馴れしい口調で挨拶をした。ラジオ収録だからって、こちらを一段低く見ているのだろうか?


 しかし、彼女がお辞儀し、やや緩い胸元から谷間がビミョーに見えたり見えなかったりすると、彼女に対する感情が、礼儀を知らない女からカワイイ女の子へと、変換されるから不思議なものである。


 鉄太と開斗も立ち上がりお辞儀を返す。


 島津はマネージャーと名刺交換し、朝戸に名刺を渡す。彼女は島津の「ごわす」という語尾に「おもしろ~~い」などと女子高生のようなリアクションをした。


 見え見えのおべっかなのに、上機嫌になる島津。


 彼は、部屋の隅に畳まれていたパイプ椅子を用意して二人に着席をうながす。


 机はオフィス用の折りたたみテーブルを2つ横に並べられており、それぞれ、開斗の前に朝戸が座り、鉄太の前にマネージャーがすわる。


 そして、島津は朝戸と開斗の斜め向かいの場所に陣取った。


次回、4-3話 「振り返える仕草をしながら尻を突き出し」

つづきは6月26日の土曜日、昼12時にアップします。

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