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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第四章 満開ラジオ
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4-1話 大咲花の風土が産んだクリーチャー

 大咲花(おおさか)市、笑比寿(えびす)橋を拠点とするラジオ局〈えーびーすー放送〉。


 その局の楽屋の一室。


 普段よりずいぶん早い時間に鉄太と開斗は訪れた。


 1か月後に控えた彼らのライブについて話し合いをするためである。喫茶店やファミレスを使わないのは金が惜しいからだ。


 ちなみに、月田は収録の見学を(あきら)めたのでここには来ていない。ライブ開催に必要な作業の洗い出しと、ヤスとのネタ合わせをするために事務所に残ったのだ。


 さて、楽屋入りした鉄太と開斗であるが、まずは昼食を取る。


 鉄太は開斗の隣に座る。


 そして、ショルダーバックからタッパーとペットボトルを2つづつ取り出し、それぞれの前に並べる。タッパーの中身は耳パンのサンドイッチでありペットボトルの中身は水である。


「3時間かぁ……どないしよか?」


 開斗はサンドイッチを食べながら移動中にも幾度かした言葉を発する。3時間というのは公演時間である。


 5月29日火曜日(仏滅)19時開演、22時終演。


 金島からは集客の他に舞台構成も丸投げされていた。


「せやなぁ……」


 ため息交じりに相槌(あいづち)を打つ鉄太であるが、別に彼らは3時間という時の長さだけに悩んでいるのではない。


 もし、これが〈満開ボーイズ〉の単独ライブであったなら、ここまで悩みはしなかっただろう。問題は月田とヤスのコンビと共にライブを行うことである。


 あの二人では前座はおろか前説すらできるかどうか怪しい。


 そのことは、事務所で金島に宣告したのであるが金島はヤスが舞台にでることにこだわった。


 現在、金島屋には〈満開ボーイズ〉の一枚看板で回しているので他の育成が急務であることは理解できなくもない。しかし、それにしても強引すぎではないだろうか?


「カイちゃん。もしかして、隠し子ちゃうか?」


「は!? 何の話や?」

「いや、ヤス君が社長はんの子どもやないかって話や」


「いやいやいや、苗字がちゃうやろ」

「ワテもオトンと苗字ちゃうで」


 鉄太の現在の本名は立岩鉄太であり彼の父の本名は亞院鷲太(あいんしゅうた)と言う。


 だがそれは、漫才専門学校である笑林寺を立ち上げたのが、彼の父、亞院鷲太(あいんしゅうた)であったからだ。


 鉄太は笑林寺に入学するにあたり、無用なトラブルを避けるために鉄太は母の実家の養子となり苗字を変えた。


「ヤス君も似たようなもんちゃうか?」


喃照耶念(なんでやねん)。ってか年回りが合わんやろ。オッサンは30ぐらいで、ヤスは20ぐらいや。まだ弟の方が納得でけるわ」


「それホンマ? ワテ、社長のこと40ぐらいやと思っとったわ」

「いや、知らんけど。そないに気になるなら自分で聞いてみい」

「無理や。そんなん聞いたら多分シメられるわ」


 鉄太らが話し合いというか雑談に興じているとドアがノックされ、返事するより早くドアが開かれた。


「失礼するでごわす」


 現れたのは、いがぐり頭の巨漢であった。


 彼は鉄太らがパーソナリティーを務める〈満開ラジオ〉の放送作家で、島津正太郎(しまずしょうたろう)といった。


 ただし、苗字こそ島津であるが、大咲花(おおさか)生まれ大咲花(おおさか)育ちである。


 なので、彼のしゃべりは、丸出しの大咲花(おおさか)弁の語尾に「ごわす」を取って付けただけの非常に違和感のあるものだ。


 島津という苗字のため、小さいころから渾名(あだな)が〈ゴワス〉であり、さらに自らそっち方向に寄せて行ったという。


 言わば大咲花(おおさか)の風土が産んだクリーチャーであった。


「おはようございます。ゴワっさん」


 鉄太と開斗はそろって挨拶する。彼らは島津のことを〈ゴワっさん〉と呼ぶ。


「おはようでごわす。霧崎どん、立岩どん。二人とも今日はえらく早いでごわすな。そないにゲストに合うのが楽しみでごわしたか」


 楽屋に入った島津はそう言うと机の上に書類を置き、鉄太らの前に腰かけた。


『ゲスト?』


「あれ、言うてへんでごわしたか? 今日はゲストに朝戸(あさと)イズルちゃんが来るでごわす」


 訝る二人に島津は告げる。写真集の宣伝にグラビアアイドルがゲストに来ることを。そして、「げへへ」と笑いながら、たわわな胸を表現するように両手を自分の胸に当ててゆすって見せる。


「あ、せやったっけ」


 などと、とぼけた返事した鉄太であったが実はちゃんと覚えていた。


 鉄太はモデルみたいな美人が好きなのだ。


 ただ、妙なプライドがあって女にガッツイていると思われたくはないらしい。


 具体的には「自分が漫才をしているのは、女にモテるためではない」というスタンスを取っている。


 自分の面白いトークで、相手が自分を好きになるのはOKだが、下心丸出しで口説きに行くことは格好悪いと思っているのだ。


 今、鉄太が懸念していることは、開斗がゲストのグラビアアイドルに興味を持つかということだ。もし、開斗がその気になったら、チビでデブの鉄太では勝負にならないからである。


 幸いにも、開斗が島津の話に乗ることはなく、その代わりに「ちょっと、ゴワっさん聞いてんか」と、ライブの件を話しだした。


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

次回、4-2話 「見え見えのおべっかなのに上機嫌」

つづきは6月20日、日曜日の昼12時にアップします。

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