表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第二章 笑月パレス
67/228

2-2話 グラスに酒を注ぎ始め

 笑月町のボロアパートにつく頃には、辺りはすでに暗くなっていた。


 築30年以上、木造二階建てのその集合住宅には〈笑月パレス〉という名前がついている。造りとしては、ホテルのように屋内の廊下に各部屋のドアがあるタイプで、全10室。風呂なし、トイレは共同である。


 ちなみにパレスとは英語で宮殿を意味する。


 鳥羽は玄関の引き戸を開けると、「みんな出て来んかい!」と大声で叫びながら廊下を進み、通りかかったドアを乱暴にノックする。そして、顔を出した者には、宴会するから8号に集まれと告げる。


 8号とは、このアパートの2階の、鉄太らが住んでいる部屋番号である。


 自分たちの部屋を勝手に宴会場にされて迷惑この上ないのだが、藁部(わらべ)の彼氏候補を集めてくれていると考えれば我慢するしかない。



 開斗に腕を持たれながら、8号室の前まで来た五寸釘はドアをノックする。


 ドアの隙間からは部屋の明かりが洩れれおり、すでに同居人の月田が帰ってきていることが伺える。


「何んや? うわっ! 何すか!? 誰っすか霧崎先輩!!」


 ドアが開かれると部屋の中から軽くパニックを起こしたような声が上がる。


 月田が、同伴の五寸釘を見てビックリしたようだ。


「この人は〈丑三つ時シスターズ〉の五寸釘さんや。オマエも〈大漫〉で()うたことあるやろ」


五寸釘桐(ごすんくぎきり)と申します。よろしくお願いします」


「あぁ、はい。月田満作(つきたまんさく)言います。よろしくお願いします」


 開斗の紹介で、互いが挨拶し部屋に入ったところで、鉄太も藁部(わらべ)を連れて入り同じように紹介する。

 

 するとまた、さっきの繰り返しみたいに月田から驚きの声があがる。


 月田は鉄太に話しかける。


「立岩先輩。自分、外した方がいいっすか? 2、3時間ぐらいブラついてきますよ」


「いや、その必要はないで。月田君には、いてもらわんと困る」


 女を連れ込んだ先輩らに対して、気を回して出て行こうとする月田であったが、鉄太としては生贄候補No1の彼を逃がすワケにはいかない。


 鉄太は藁部(わらべ)と月田を両手で押すようにして部屋の中に誘導する。また、そうこうする内に、鳥羽や他の住人らが集まって来た。


 当然部屋の中には全員入れないので、入り口前にあるキッチンから部屋の外の廊下へと列をなすように座っていく。


 鳥羽の呼びかけで集まった者は4人。


 まず、金髪のみるからにチャラそうな中年男が1号室の住人で、名前は日茂茶羅彦(ひもちゃらひこ)。職業はホスト。


 続いてチェックのシャツにジーパンを履いている若者が2号室の新戸風太郎(にいとふうたろう)。特に仕事はしてないらしい。


 そして、紫のローブを纏っており、左手首にガラス玉の数珠をしている男が3号室の鷺山冷観(さぎやまれいかん)。年齢不詳、職業は霊媒師らしく、怪しげな開運グッズを販売している。


 4、5、6号室の住人は来ないようだ。また、9号室の住人は不在らしく、7号室には現在入居者はいない。そして、10号室は鳥羽の部屋である。


 集まった連中はそれぞれ酒と肴を持参している。それが貧乏人ばかりが住む、このアパートでの酒盛りルールだ。


 居間では丸いちゃぶ台が設われ、その周りを鉄太、開斗、五寸釘、藁部(わらべ)が座り、月田が宴の準備をする。


「スマンスマン。ちょっと通してや」


 キッチンにいる月田や他の者たちの間を縫いながら、鳥羽がやってきた。


 自室に戻って持ってきたのであろう、両手にはそれぞれ一升瓶とスルメを持っており、一升瓶の首のところには、プラスティックのコップが逆さにして引っ掛けられている。


 彼は、居間とキッチンの間に陣取った。


「そこに座られると、中入られへんっすわ」


「大丈夫やガンバレ」


 月田が、お盆を持っており、そこに伏せられたグラス5つが落ちないように、狭い隙間を跨ごうとするが、鳥羽が月田の足をつかんで邪魔をする。


「こっち貸して」

 見かねた五寸釘が立ち上がり、月田の持つお盆に手を伸ばす。


「ありがとうございます。姉さん。ってかいつまでやってんねん、オッサン!」


 月田は彼女に礼をいうと、いまだ足から両手を離さない鳥羽より逃れるべく格闘を始めた。


 月田からお盆を受け取った五寸釘はグラスを配る。そして、すでに運ばれていた一升瓶の蓋を取ると、グラスに酒を注ぎ始めた。


 一方、藁部(わらべ)は動く気配がまるでない。


 やはり、人間的に数段劣っているようだ。


 鉄太は数時間前まで、開斗のお世話係に、彼女ら二人が加わることによって、自分の負担が大幅に減ったらいいなと考えていた。


 しかし、家に帰ってくるまでの間に、気が回らない藁部(わらべ)が、目の見えない開斗の世話をすることなど出来ないだろうと思い直した。


 鳥羽を振り切った月田が鉄太と開斗の間に座ろうとする。


「いや、月田君はこっちや」

「いや、そこは……」

「ええねん、ええねん」


 鉄太は、月田を自分と藁部の間に座らせる。


 睨んでいるような顔の藁部(わらべ)が視界の端に映ったが気にしない。

次回、2-3話 「吸盤を一つづつむしり取る」

つづきは5月29日土曜日の昼12時にアップします。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ