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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第二章 再開
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2-2話 なんぼで買うてくれるんや

 鉄太の数歩前の砂地があたかも蹴り上げられたように砂を巻き上げた。


 開斗が手刀ツッコミを放ったのだ。


 硬直して動けない鉄太の左肩を開斗の右手がつかむ。


「逃げんなや」

「カイちゃん、堪忍や~~。もう痛いの嫌やあああ」


 砂地にペタンと座り込む鉄太。


 そして注射を打たれる前の子供のように泣きながら駄々(だだ)をこね始める。


「痛いことあるか。なんのための特注の防具や」


 開斗は鉄太の横に座り、なだめる。


「ちゃんと手加減するから心配すな」

「ホンマ?」


「それに(いく)使(つこ)うたんや? 自分の払った金を信じい」


 開斗は鉄太が若干落ち着いたのを見計らって、立たせるふりをしながらシャツだけ引っ張ってうまいことそれを脱がしにかかる。


「テッたん。動いたらかえって危ないでぇ」


 扉をノックするようにショルダーパッドの胸の辺りを軽く叩きながら注意を促す。


 二人は海に向かって横に並んでいる。


 シャツを顔に巻き付けられ目が見えないようにされた上半身裸の鉄太は、これから銃殺される捕虜のようである。


 実際、今の彼の心情もそれと似たようなものであろう。足がワナワナ震えている。


 しかし無常にも執行は開始される。


「はい、カウントダウン行きまーす。……十、九、八、〈喃照耶念(なんでやねん)〉!」


 お約束と言えばお約束であるが、開斗はカウント途中で、手刀ツッコミを叩きつけた。


タン!

 

 打撃を受けショルダーパッドはくぐもった低い音を発した。


 鉄太は断末魔のような叫びをあげ背中から砂浜に倒れた。


 付近を通りがかっていた二、三人が動きを止めてこちらを注視している。


「はい、何でもあらしませんよー。大丈夫ですー」


 開斗は自分たちの安全性をアピールしながら「早よ立て」と、つま先で鉄太の尻を小突く。


「カイちゃん、ヒドいやん!」


 とりあえず、上半身を起こした鉄太は、頭に巻かれたシャツをなんとか右手だけで()ぎ取ると、涙目で抗議する。


「スマンスマン。でも何ともあらへんやろ?」

「まぁ……そうみたいやけど……」


 鉄太のショルダーパッドは、開斗の斬撃に耐えられるように設計されたもので、それに用いられている素材はセラミックである。


 ただ、セラミックは硬度は高いが(もろ)いという側面があるので、衝撃吸収をするため高分子素材で挟み込み、なおかつ防弾チョッキにも使われているケブラー繊維で包み込んだ複合構造となっている。


 理論的には開斗の斬撃を完全に防げるとされているのだが、問題は開斗本人による実証実験がなされていないということだ。


「ほら、テッたん。さっさと立たんかい。次はもうちょい(つよ)いくで」


「無理や……もう、心臓バクバク言うて立たれへんねん」


「……なら座ったままでええわ」

 開斗は鉄太の隣に腰を下ろす。


「もう、嫌や……ほっといてーな」

 鉄太は座ったまま、尻をいざらして開斗から少し離れる。


「アホ。ほっとかれへんわ!」

 開斗は同じく尻をいざらして距離を戻す。


「三年前、テッたんがワイに黙っていななったんは、テッたんがワイと漫才したなくなったとからやと思っとった。――でも、最近、金島はんの世話んなって、テッたんのこと聞いたわ。400万の借金あること」


「……だから何なん……」


「若手漫才師のギャラなんてカスみたいなもんや。普通、そんなアホみたいな借金せえへんやろ。しかも、それが義腕に付けるための特注防具や。ワイとの漫才する以外にこれっぽっちも必要ないやんけ」


「……発注ミスったんや」


「もし……、もし、テッたんが本当に漫才したないんやったら、ちゃんと言うてくれ。ワイがその防具買いとったるわ」


 開斗は立ち上がった。


 空に雲はなく、太陽は彼のシルエットをクッキリ浮かび上がらせる。


 揺るぎない意志を感じさせるその姿に鉄太は鼻の奥をツーンとさせた。


「……なんぼや……なんぼで()うてくれるんや」


 鉄太が鼻声で問いかけると、開斗は右手で口元を覆い親指で鼻の頭を擦りながら答えた。


「せやな……特注品でテッたん以外使えんから、せいぜい1万円ってとこやな」

「アホ――――。安すぎるわ、アホ――――!」


 鉄太は泣きながら、開斗に砂を投げつけた。


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

つづきは明日の7時に投稿します。

次回 第三章 笑林寺 3-1話「スキンヘッドの同期生」


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