14-3話 手を引いて、劇場の外へ歩を進め
開斗からギャラの取り分の変更という予想外の申し出に、困惑する鉄太。
もし、ここで、『ハイ』と返事をすると、何だか自分の方が金に執着しているみたいで、人としてどうかと思わぬでもない。
これまでの彼であったなら、尻込みして話がうやむやで終わってしまっていただろうが、昨今の経験から、もっと自分を主張すべきであると思い至ったので、ここは、強い態度に出てみることにした。
「じゃあ、ワテが6で、カイちゃんが4や。絶対やで!」
ネタを作っているのは自分なのだ。今までがおかしかったのだ。そのような気迫を込めて返事をすると繋いだ手にも力が入る。
すると、開斗も力を入れて握り返してきた。
「テッたん……強なったな。──でもな、セット壊した借金が1000万円あるやんか。それも6:4で分けるから、テッたんがマイナス600万円で、ワイがマイナス400万円やで」
彼の顔には、右の口角を上げた微笑みが浮かんでいた。
「えええええええ!? ちょっと待って、それおかしいって」
「おかしないって。よう考えてみ。元々の借金が、ワイが600万円で、テッたんが400万円やんか。さっきの足したら、それぞれ1000万円づつでピッタリやん」
「せやな──って、〈喃照耶念〉」
珍しい鉄太の乗りツッコミに開斗は吹き出す。そして、一呼吸をおいてからギリギリ聞き取れる程度の声でこう言った。
「……それはそうと、済まんかったな……連絡せんかって」
開斗はそっぽをむいて親指で鼻の頭を掻いている。
彼の性格からしてありえない言葉に、今度は鉄太が吹き出した。
「そこ笑うとこちゃうやろ」
「だって、カイちゃんが人に謝るとか初めてちゃうか?」
「そんなワケあるか。人のこと何や思うてんねん。 ──いや、真面目な話、もっと早よテッたんに連絡しとったら、あのオッサンに変な借り作ることも無かったかもしれへん思うてな」
目の見えなくなった開斗が金島を頼ったばっかりに、鉄太たちは彼がこれから作るお笑い事務所に入らねばならなくなったのだ。
「あんな胡散臭いオッサンの事務所で働かされるとか、どないやねんちゅう話や。それに、せっかく優勝したのに、笑林寺の件、幻一郎兄さんに聞きそびれてもうたしな」
お先真っ暗だと言わんばかりに、開斗は溜息を吐いた。
しかし鉄太は大きく息を吸い込んだ。
「ま、何とかなるやろ。アテは無いけどな」
そう笑い飛ばすと、開斗の手を引いて劇場の外へ歩を進めた。
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第二部は5月3日月曜日からアップいたします。
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