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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十四章 エピローグ
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14-2話 そないに金が欲しいんかい

 その後、救急車が到着し、幻一郎は病院へ搬送され、鉄太と開斗は彼らの楽屋へ戻った。


 楽屋には金島とヤスと月田がいた。


「優勝おめでとうございます!」


 起立した月田が祝辞を述べ拍手をする。彼は丈の長い黒コートに白シャツといった姿になっていた。

 多分、開斗が着て来た服なのだろう。


 また、ヤスは座ったまま拍手をしてくれるが、金島は視線を向けようともせず煙草を吸っている。


 この男にしてみれば1000万円を回収しそこなったワケだから機嫌が良いとは思われない。


 まず鉄太は月田に礼を言うと、開斗を導いて座卓を挟んで金島の前に二人で座った。


「社長はん、ホンマすんまへん。借金の返済、もうちょい待って貰えまへんやろか?」


 座卓に頭を付けて頼み込み鉄太。


 借金を返すどころか倍増させてしまったのだ。返せないと思われたら目ん玉どころか内臓全て差し出せと言われかねない。


 だが、震える鉄太を前にして、金島は煙草の煙をくゆらせながら返答する。


「前にも言うたじゃろ。別に急いで返してもらう必要はないんじゃ。 ──それに、最近サラ金への風当たりが強うなって、金融業は潮時じゃと思っとったとこじゃけぇ」


「え!? 兄貴、サラ金辞めてどうするんでやすか!?」


 ヤスが仰天したような声を出す。彼も初耳だったようだ。


 金島は煙草を灰皿に押し付けて消すと、衝撃的な一言を放った。


「そうさのぉ……お笑いの事務所でも始めるかのぉ」


「ええええええええ!!」


 一瞬の間を置いて、ヤスが驚きの声を上げる。


 月田は金島たちの生業を知らないためか疑問を顔に浮かべている。


 ただ、鉄太は金島の意図を察した。金島が開斗を海の家に連れて来た時に真っ先にその可能性を考えたからだ。


 金島は〈満開ブラザーズ〉を使い、第三次漫才ブームに乗って一儲けしようと(たくら)んでいると見て違いない。


 そしてそれは、開斗も同じようで彼は金島に問い(ただ)す。


「まさか、ワイらのことアテにしとるんやないやろな?」


「嫌なら1000万円、早よう返せや。──安心せい。己らだけやのうてコイツらにも働かせる」


 そう言って金島が、ヤスと月田を親指でさすと楽屋内に二度目の絶叫が上がる。


「ちょ、ちょっと、待ってくだせぇ兄貴!」


「社長! いくら何でもこんな素人と」

「誰が素人じゃ!」

「オマエや!」


 月田とヤスが言い争いを始めたところで、楽屋のドアが開かれる。


「まったく、騒々しいのじゃ」

「兄さん、祝勝会しましょう」

「デートの日取りキメに来たで」


 蛇沼と錦の他、鈴木ナパーム、小林ボンバー、シスター五寸釘、シスター藁人形が楽屋の外にいた。


「ヌシら、賞金どころか借金で金がないんじゃろ。ワシが(おご)ってやるから安心するのじゃ」

「アホか! 何勝手に仕切っとんのや。ワイらの祝勝会はワイらの(おご)りに決まっとるわ!」

「ちょっとカイちゃんヤメテ~~!」


 ──ドン!


「じゃかぁしい、ガキ共!」


 金島が座卓を殴りつけて大喝(たいかつ)した。楽屋は一瞬にして静まり返る。


 続いて、立ち上がり一同を(ねめ)め付けるとこう言った。


「今日はワシの(おご)りじゃけぇ。(おどれ)ら全員ついて来い」


『うおおおおおおおおおおおおお』


 思いもよらぬ金島の言葉に、若き漫才師たちから歓声が上がった。


 そして、金島とヤスが楽屋を出ると、ヤスの後を追って月田が続き、楽屋前にいた〈丑三つ時シスターズ〉、〈ストラトフォートレス〉、〈キングバイパー〉と続き、最後に鉄太と開斗という順序で列をなして廊下を進む。


 鉄太は右手で開斗の手を引いて歩いている。


 立ち位置的にはいつもと逆である。


 前を進むコンビたちは、大舞台からの解放もあってか非常に騒がしい。鉄太は開斗から話しかけられる。


「もしかして、このまま外行くんか? 外、雪やろ? 結構汗かいたから着替えんと風邪引いてまうで」


「いや、色々あって着替え持ってきてないねん」

「マジか!?」


 大量に汗をかいたのは鉄太も同様だが、月田の身代わりを誤魔化すために舞台衣装で劇場に来たから着替えはないのだ。また、あの時はリタイアする気持ちの方が強かったし帰りのことなど考える余裕もなかった。


「あ~~ぁ。……1000万貰っとったら風邪ぐらいなんぼでも引いてもええけど、マイナス1000万やで。当分病気になられへんわ」


 開斗が愚痴ると、鉄太も同意を示す。


「せやな。それにしても、あの社長はんホンマに(おご)ってくれるんやろか? 後でワテらの借金にツケるかもしれへんな」


「テッたん、セコいこと言うな。ホンマはワイらが奢るとこやぞ」


 冗談めかして言ったつもりだが、開斗の説教くさい返答に鉄太は鼻白(はなじろ)んだ。


 表彰式からのドタバタですっかり忘れていたが一時はコンビ解散まで考えたのだ。


 開斗への不満が再びムクムクと頭をもたげてきた。


「セコいのはカイちゃんの方やんか。蛇沼君から聞いたの思い出したわ。ギャラの取り分、ツッコミとボケで決まってへんって」


 開斗にギャラの取り分は、ツッコミとボケで6:4が当たり前だと聞かされていたが、その後、蛇沼に確認したところウソだと判明していた。


 鉄太の追求に、開斗は信じられないことを言い出した。


「何や。そないに金が欲しいんかい」

「イヤイヤイヤ。その言い方、メッチャ感じ悪いわ。それ、こっちのセリフやで」


「ほなら、ワイが4で、テッたんが6にするか?」


「え!?」


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

つづきは来週月曜の7時に投稿します。


次回 第一部最終回 14-3話 「手を引いて、劇場の外へ歩を進め」

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