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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十三章 決戦
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13-4話 イップスが、再発をしてネタが飛ぶ

 ヤバイ! と思った時にはもう遅かった。


 鉄太の脳内でブレーカーが落ち、今から何を言うべきか、何をすべきかが完全に分からなくなっていた。克服したと思っていたイップスが再発し、ネタが飛んだのだ。


 だがその時、


 隣りから鋭い笑気が鉄太に浴びせられた。


〝何しとんねん〟とツッコミでも入れるかのように。


 そして、次の瞬間、開斗が「ワイら!」と声を張る。


 この言葉を合図として、停止してしまった鉄太の体に、自動的にスイッチが入った。


 続いて「満開」の掛け声で、無意識に右手を顔の隣で開いて、同時に左足を軸にして右足が伸びた。そして、最後に「ボーイズ~~」の所で、右腕と右足を使ってアルファベットのBを形作った。


 彼らの自己紹介ギャクである。


 時間にして約5秒。


 日常であれば、あっという間だが、ステージ上では思考が加速するので、時間感覚は何倍にも引き延ばされる。


 あたかもブラックホールに引き込まれる物体を観測するように。


 その間に、鉄太は心の中で一つ一つ確認した。


 自分の名前。

 相方の名前。

 現在の状況。


 5秒とは、我を取り戻すに十分なインターバルであった。


 自己紹介ギャクの導入を強行に主張したのは開斗であったが、そこまで考えていたのかは分からない。


 聞いてみたところで、違っていてもその通りだと主張するに決まっているのだ。


 ともあれ、救われた形となった鉄太であったのだが、観客にとって〈満開ボーイズ〉とは、初めて聞くコンビ名である。この自己紹介ギャクにヒモ付けられている記憶がない以上、目にしたところで笑いは起きない。


 ただ、そんなことを気にしている場合ではない。我を取り戻したといってもネタが飛んでしまったことには変わりがないのだ。


 現在、彼がかろうじて覚えているのが、お題の『遠足』とラスト〝海〟でツッコませることだけだ。開斗と何をどのように打ち合わせたのかまるっきり覚えていなかった。


 さっき10分使って考えたネタをリアルタイムで再構築しなければならない。


 ただ、開斗には話している。


 とりあえず相方を信じることにして、鉄太は話のマクラに天候の話題を出した。


 同じようにマクラに、雪について話したコンビはすでに二組いた。普通であれば避けたいところだが鉄太はあえて挑む。


 まず、『お題』が『遠足』になっているので、冬の話題から遠足の季節の春に移行するのが自然であることと、なにより開斗から新幹線が雪で止まったとの情報を覚えいたので、それが使えると判断したのだ。


 おそらく会場にいる観客らは、その情報を知ってる者は少ないはずである。鉄太が降雪による鉄道情報を口にすると、思惑通り多くの観客の関心をつかむことができた。


 ここで、ひとボケ入れるために、鉄太はさりげなく右腕を前に突き出して開斗にサインを送る。


 ただ、サインをを送ってから、しまったと思った。

 開斗は目が見えないのだ。


 しかし、その後悔もつかの間である。


 開斗は鉄太の願い通りに、新幹線の話題を引き継いで遅刻しそうになった話をしてくれた。


 それに対して鉄太は、「新幹線降りて後ろから押せばよかったやろ」とボケると、開斗に<喃照耶念(なんでやねん)>と手刀ツッコミを打ち込まれる。


 すると、派手な打撃音が炸裂し、その予想外の力に鉄太は倒れそうになる。


 開斗の笑気の力は、格段に上がっていた。さらに以前の斬るような鋭さから、叩くような衝撃へと質が変化している。


 笑打(しょうだ)が重くなっているのだ。


 久々のツッコミを受けて、鉄太は二つのことに安堵した。


 一つは開斗の手刀ツッコミがマイクにぶつからなかったこと。


 もう一つは、ちゃんと〈どつき漫才〉になっているということだ。


 そしてさらに、開斗が人の形を認識できるまでに笑気を感じ取れていることに驚いた。鉄太も目をつむっていても笑気は感じ取ることはできるが、それは、熱を感じるような感覚であり、近いか遠いかが分かる程度でしかない。


 これならば、安心して、いや、もっと集中して漫才が行えそうである。


つづきは来週月曜の7時に投稿します。

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