11-2話 カラフルな、フライトジャケット着た二人
双子の漫才師に行く手を遮られ月田は手刀を構えて威嚇する。
「何やオマエら。そこどかんかい」
「オマエ、月田やろ」
「人違いや。ワイは霧崎開斗や」
「ウソこけ」
「相変わらず往生際の悪いやっちゃな」
左右から追及される月田。やっぱりバレていたようだ。
楽屋の中には金島がいた。
彼は新聞を読みながら煙草を吸っている。
鉄太は助けを期待したが、一向に金島から動く気配はしなかった。開かれたドアから確実に外の状況は伝わっているにも関わらずである。
一体この人は何が目的でここにいるのだろうか?
「オマエらええかげんにせんと、いてまうぞ」
「ええんか、オレらに、そんな態度取って。スタッフに言いつけんぞ!」
「せやせや。ここは、オマエの来るトコちゃうねん!」
二人に責め立てられた月田はボクシングのファイティングポーズを取っており、ゴングが鳴るのも時間の問題かと思われた。
暴力事件を起こしたうえでの身バレとか最悪すぎる展開と言わざるえないのだが、鉄太はもう出場停止処分になってもいいか、ぐらいの気持ちになっていた。
賞金の1000万円は魅力的だが、どうしても自分たちが優勝するイメージが湧かないのだ。
しかし月田が啖呵を切った時、介入者が現れた。
「やかましいのじゃ。何騒いどんのじゃ?」
蛇沼と錦である。
あまりの騒々しさに注意しようと思ったに違いない。不機嫌な顔をした二人が隣の楽屋から出てきて、月田と双子の前に立つ。
「ちゃいますねん。聞いてくださいよ蛇沼兄さん。コイツ、人に成りすまして〈大漫〉に出ようとしとるんですよ」
「兄さんらからもガツンと言うたって下さい」
〈ウルフ〉の二人と蛇沼たちは、先輩後輩としてそこそこ付き合いのある仲のようだ。
マズイ状況に拍車が掛かりそうである。しかし、蛇沼の口から出たのは彼らの期待を裏切る言葉だった。
「言うって何をじゃ? ワシ、そいつのオカンちゃうぞ」
「そんなこと言うてるんとちゃいます。こんな成りすましみたいなインチキ許してええんですか?」
「せやせや。コイツ昔っから、ズッコいヤツなんですわ」
「関係あらへんのじゃ。自分らより前のヤツだったらともかく、後ろのヤツのことなんかどうでもええのじゃ。肝心なんは、自分らがパーフェクトの漫才がでけるかどうかじゃろ?」
〈大漫才ロワイヤル〉のルール上、満点が出れば優勝となり、その時点で大会は終了する。
つまり蛇沼が言いたいことは、自分に自信があるのならば出演順の早い〈ウルフ〉が気にするような問題ではないということだ。
蛇沼の言葉に双子は納得がいかないようであるが口を噤む。これ以上、先輩に口答えするのが躊躇われたみたいだ。
だが、ここで〈ウルフ〉に援軍が来た。
「蛇沼さんにしては、甘いこと言うやないですか」
「せやな。甘すぎて虫歯になりそうですわ」
蛇沼と錦の巨体に遮られて気づかなかったが、カラフルなフライトジャケットを着た二人がいつの間にか通路にいた。
もう一つ奥の楽屋から〈ストラトフォートレス〉の鈴木ナパームと小林ボンバーが出て来ていたのだ。
「何が言いたいのじゃ? 気に入らんのならヌシらがスタッフにチクってこればええじゃろ」
「勘違いせんどいて下さい。自分が甘い言うたんは、舞台でパーフェクトの漫才が出来るとか思っとることですわ」
「なんじゃ!? ケンカ売っとんのか?」
一旦、冷めかけたかに思えた廊下の温度が、新たな燃料投下によりぐっと上がる。
大柄で筋肉質の蛇沼から発せられる威圧感は、相当なものであった。
だがそれは、青いフライトジャケットの小林ボンバーが張る〈笑壁〉を侵すことができず、二人は涼しい顔のままである。
そして赤いフライトジャケットの鈴木ナパームが問いを発する。
「ところで、蛇沼さんらは、去年の決勝出場した人らから、決勝戦の話聞いてます?」
「……それが、どないしたのじゃ」
蛇沼が明確な返答をしなかったのは、相手の意図が分からなかったからであろう。
でもそれは、鈴木ナパームに確証を抱かせるに十分だったらしく、彼は軽く笑いながら次のように言う。
「オレらを待ち受けとんのは、正真正銘の地獄ですよ」
「地獄? 何がどう地獄やねん」
「ククク……そう焦らんでも、あと3時間もすれば分かることですわ」
不気味な含みを残して、〈ストラトフォートレス〉の二人は楽屋に帰投した。
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つづきは明日の7時に投稿します。