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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十章 当日
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10-4話 何言うとんのか分からんわ

「自分らで付けたんちゃうで。勝手に付けられるんや」


 鉄太は香盤表に記されたコンビ名に添えられた〝花咲かギャング〟というキャッチコピーについて、月田に言い訳するように説明する。


 基本的にキャッチコピーはテレビ局の人が付ける習わしだ。でなければ誰が好き好んでこのような恥ずかしい名乗りをするだろうか。


 笑戸(えど)のいい大学を出た連中が長時間に及ぶ会議の末、深夜のテンションで決められたそれらは大咲花(おおさか)の笑いのセンスとはかけ離れたものになる。


「道理で酷いキャッチコピーばっかになるワケっすね。『七転八倒の神経毒』なんて、ただの毒の説明ですやん」


「せやな。それにしても知らん子ばっかりやねんけど……」


 つい最近までお笑い関係からドロップアウトしていた鉄太には見覚えのない名前ばかりが並んでいたので、さりげなく月田に説明を求めてみる。


 すると月田は外したサングラスでパンフレットを叩きながら心得ましたとばかりに出場者の解説を始めた。


「こん中で要注意なのが、三番の〈ウルフ〉と、六番の〈ぶろーにんぐ〉と、八番の〈ストラトフォートレス〉っすかね。

〈ウルフ〉は、兄の太狼が〈理論タイプ〉、弟の次狼が〈感性タイプ〉のクセに双子ならではのシンクロナイズド漫才してきます。その上、次狼が〈浪花狼転念(なにわろうてんねん)〉の使い手なんで、客いじりで簡単に爆笑を取ってきます」


 通常、理論タイプと感性タイプの異種コンビは即興漫才で息を合わせるのが難しいのだが、双子という強すぎる(えにし)が相反する特性を融合させ、唯一無二の持ち味を生み出しているとのことである。


「次に、〈ぶろーにんぐ〉は、東の(もん)で、ウチらの笑いとは質がちゃぁうんですけど、〈笑準《しょうじゅん》〉ちゅう(スキル)使(つこ)うて、審査員をピンポイントで笑わかしますんで、賞レース荒らしと言われとります。

 ほんで、今回の大本命と自分が思っとんのが、〈ストラトフォートレス〉です。

 二人とも理論も感性も強いという反則級のハイブリッドコンビですし、特に鈴木ナパームの(スキル)、〈笑夷弾(しょういだん)〉は、辺り一面を〈笑土(しょうど)〉と化しますんで、まぁ鉄板ですわ。

 正直、〈満開ボーイズ〉まで順番が回ってくるか(・・・・・・)は怪しいとこっすね」


〈大漫才ロワイヤル〉が他の賞レースと大きく異なる点は審査員はただ一人であること。しかもその審査員が満点を出した時点で優勝が決まってしまい、後の漫才師は舞台に上がることすらできなくなることである。


 それゆえ〈大漫才ロワイヤル〉に二位とか三位とかはない。


 優勝者とそれ以外。


 正に、漫才のバトルロワイヤルなのである。


 それから月田は偉そうに論評を続けるが、肯定的な言葉を口にしたのは先に挙げた3組だけで、後は辛口コメントばかりだった。


 曲がりなりにも決勝まで駒を進めた者たちに対してその言い方はどうなのかと、鉄太は首を傾げたくなるほどだった。


 もしかしたら、同年代の漫才師が檜舞台に立っているのに比べ、相方すらままならない自分への苛立ち(いらだ)がそうさせているのだろうか?


「……でもなんか、今年、やたら若い連中が多くないっすか?」


「う~~ん、去年から『お題』が出されるようになったからちゃう?」


 月田の言う若いヤツとは、制限年齢である25才に比べてという意味である。25才のコンビは、〈満開ボーイズ〉と〈キングバイパー〉の2組だけだ。


 確かに以前の記憶と比べると平均年齢が若くなっているように思える。


 やはり、蛇沼たちから聞いたように去年から直前に出される『お題』を含めた漫才をしなければならなくなったため〈理論タイプ〉が様子見に回ったためだろうか?


「にしてもですよ。去年出たヤツが誰もおらんなんてヘンちゃいます?」


 月田によると、去年決勝戦に出ていた〈感性タイプ〉の実力派漫才師すらいないとのことだ。


 もし、その話が本当であれば蛇沼から聞いた以外の要因があるのではないか?


 鉄太の中で不安の種が一つ増えた。


 しかし、それを口にしてもしょうがない。鉄太は話題を変えるために開斗の到着はいつぐらいになりそうなのか金島に聞いてみた。本来ならとっくに着いている時間なのだ。


「ほうじゃのぉ。ちぃと確認してみるか」


 吸っていたタバコを灰皿に押し付けた金島は、持参した黒カバンから、縦長の弁当箱みたいな物を取り出した。


「おっ、社長。それもしかして、電話機っすか?」

「おお、よぉ知っとるやないけ」


 金島は自慢げに取り出したそれは、一般人が所持するにはまだまだ敷居が高い携帯電話であった。


 少し前までは肩から下げなければならないほど巨大なものであったが、この頃はなんとか片手で持てるぐらいまでには小型化されている。


 そして、金島はアンテナを伸ばし手早くボタンを押すと、見るからに重そうなそれを普通の受話器のように耳に当てた。


「おう! ワシじゃ!」


 しばしの後、相手が出たのであろう。金島が大声で携帯電話に話しかけた。


「はぁ!? 何言うとんのか分からんわ! ダボが!!」


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

つづきは来週月曜の7時に投稿します。

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