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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十章 当日
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10-3話 『花咲かギャング』ってなんですの?

 それから金島は、新大咲花(しんおおさか)駅にヤスを配置すると言って車で出て行った。開斗と駅で合流させ心咲為橋(しんさいばし)劇場まで連れて来るためらしい。


 アパートには鉄太と月田の二人が残された。


 逃げ出すチャンスが出来たと思いきや、すっかり金島の手下に成り下がった月田が、監視を買って出ておりとても逃げられそうになかった。


 それはそうと、なんのためにヤスと開斗と合流させるのだろうか?


 開斗も子供ではないのだから一人で心咲為橋(しんさいばし)まで来られないはずがない。


 となると、実は開斗を捕まえに行ったのではないだろうか?


 今日の昼、新大咲花(しんおおさか)駅に開斗が現れるという情報を掴んだ金島たちが、大咲花(おおさか)から逃亡する前にその身柄を拘束しようとしている。


 いかにも、ありそうな話だ。


 だとすると自分は、開斗にとっての人質ではあるまいか。


 ひょっとしたら、開斗と示し合わせてトンズラすると思われているのかもしれない。


 いやいや、開斗が逃げるということは、借金1000万円を全部自分に押し付けるという話になるのでは?


 人質と言うより逃げられた場合の保険の可能性もある。


 果たして開斗はそんなコトする男であろうか?


 しないとは言い切れない。

 借金の一本化を言い出したのは開斗なのだ。


 鉄太が益体もない妄想していると、あっという間に一時間が経ち、金島が戻ってきた。



 心咲為橋(しんさいばし)劇場とは笑林興行が所有する最も古い劇場で、1階520席、2階180席、収容人数は700人と中規模である。


 昔からテレビ収録にも使われることが多く、鉄太と開斗も相当お世話になった場所である。ただ、戦後まもなく建てられただけあって設備が古く、建て替えが検討されているらしい。


「よし、準備はええか? 行くど」


 手提げの黒カバンを持ち、トレンチコートの金島が、ゴテゴテした金色の腕時計に目を走らせ、後ろに控えている薄ピンクのギャング二人に声をかける。


 パナマ帽を目深に被り、サングラスをした彼らは無言で頷く。


 時間は12時50分。〈大漫〉決勝戦受付時間ギリギリである。


 堅気には見えない三人の男たちは、雪がチラつき始めた中、心咲為橋(しんさいばし)劇場の裏にあるスタッフ用の出入り口へと向かった。


 開斗は間に合わなかった。

 おまけに未だ連絡も取れない。


 そこで、金島の立てた作戦は、月田に開斗の身代わりをさせて、受付を誤魔化すというものである。受付時間ギリギリを狙ったのは、他の演者と接する時間をなるべく少なくするためだ。


「オウ。今日、〈大漫〉決勝戦に出る〈満開ボーイズ〉じゃ!」


 マネージャー役の金島は、守衛を威圧しながら合格通知を受付台に叩きつけた。


 守衛は合格通知を確認すると、首から下げるタイプの許可証を三つ取り出し、用紙にサインするように説明をし、演者用のパンフレットを手渡した。


 劇場の受付は顔写真の確認もなく、拍子抜けするほど簡単に突破できた。


 ピンクのスーツという外見だけで本人と判断されたのか、はたまた金島の見るからにヤバげな風体がそうさせたのか微妙なところである。


 なお、全体ミーティングは一時半から始まるとのことなので、それまでは楽屋待機だそうだ。


 彼らは割り当てられた楽屋へ移動した。


 そこは年季の入った八畳の畳敷きで、部屋の中央には座卓があり、壁には全身鏡が取り付けられている。


 決勝戦では、各コンビに対して個別の楽屋があてがわれるのだ。座卓の一番奥に金島が座り、向かいに月田が座り、鉄太は出入り口に近い席に座っている。


「案外ちょろかったのぉ」

「ホンマっすね」

「ちょっと、二人とも声デカいですわ」


 楽屋に入った金島と月田は緊張が緩んだのか、妙にテンションが高くなっている。


 鉄太は口の前に人差し指を立てて声を抑えるように二人にジェスチャーする。ここの楽屋の壁は薄いので、大きな声を出せば隣に筒抜けになるのだ。


 パンフレットには全出場者とその楽屋が記載されている。それによると、鉄太らの隣には〈キングバイパー〉が割り当てられていた。


 開斗に強烈なライバル心を持つあの蛇沼がいるだ。もし彼に身代わりの件が知られたらどうなるだろう?


 最悪、実行委員に密告され出場停止処分になる恐れがある。


 いやそれどころか、そのような不名誉な事実が広まれば、今後大咲花(おおさか)の笑パブで仕事が出来なくなる可能性もあるかもしれない。


 大咲花(おおさか)のお笑い界は、縦にも横にも繋がりが強い世界なのだ。


 しかし、金島と月田は意に介する様子もなく生返事をしながらパンプレットを見ている。


 金島はタバコを取り出しながらこう言った。


「〈満開ボーイズ〉は最後(トリ)じゃけぇ、多少の時間稼ぎにはなりそうじゃのぉ」


「……おおきに。まあ、年齢順なんで……」


 開斗が到着するまでの時間的猶予が大きくなるのは、ありがたいことであった。


 ただ、〈大漫才ロワイヤル〉の出演順序は、コンビの年長者を基準に生年月日順で並べたものと決められている。故に今年がラストイヤー(25才)である鉄太らの出演順が後の方になるのは当然なのだ。


 パンフレットに記された出場者の香盤表には次のように記されている。


一番  

微笑みのイタズラ小僧〈ピンポン・ダッシュ〉   所属・浅草連合

  出場者名1………ピンポン史郎   20才  男 出身地 笑戸(えど)

  出場者名2………ダッシュ大樹   20才  男 出身地 笑戸(えど)


二番  

笑いの拷問係〈アイアン・メイデン〉       所属・笑林興業

  出場者名1………アイアン村井   20才  男 出身地 大咲花(おおさか)

  出場者名2………メイデン小林   22才  女 出身地 大咲花(おおさか)


三番  

愉快な肉食獣〈ウルフ〉             所属・笑林興業

  出場者名1………狩山太狼(かりやまたろう)     22才  男 出身地 大咲花(おおさか)

  出場者名2………狩山次狼(かりやまじろう)      22才  男 出身地 大咲花(おおさか)


四番  

爆笑泥棒〈空巣(あきす)〉                所属・浅草連合

  出場者名1………空巣ピッキング  22才  男 出身地 笑戸(えど)

  出場者名2………空巣サムターン  23才  男 出身地 茨喜(いばらき)


五番  

笑う連続殺人鬼〈さいこぱす〉          所属・大笑戸(おおえど)

  出場者名1………さいこぱすA   23才  男 出身地 笑戸(えど)

  出場者名2………さいこぱすB   22才  男 出身地 采玉(さいたま)


六番  

一発必笑の狙撃手〈ぶろーにんぐ〉        所属・()(しま)

  出場者名1………すないぱー山下  23才  男 出身地 呵奈川(かながわ)

  出場者名2………すぽったー谷上  23才  男 出身地 呵奈川(かながわ)


七番  

午前二時の高笑い〈丑三つ時シスターズ〉     所属・笑天下(しょうてんした)過激団

  出場者名1………シスター五寸釘  23才  女 出身地 剽庫(ひょうご)

  出場者名2………シスター藁人形  24才  女 出身地 大咲花(おおさか)


八番  

抱腹絶倒の絨毯爆撃〈ストラトフォートレス〉   所属・笑林興業

  出場者名1………鈴木ナパーム   24才  男 出身地 大咲花(おおさか)

  出場者名2………小林ボンバー   24才  男 出身地 呵川(かがわ)


九番  

七転八倒の神経毒〈キングバイパー〉       所属・笑林興業

  出場者名1………バイパースネーク 25才  男 出身地 三笑(みえ)

  出場者名2………バイパーパイソン 24才  男 出身地 和呵山(わかやま)


十番  

花咲かギャング〈満開ボーイズ〉         無所属

  出場者名1………霧崎開斗     25才  男 出身地 大咲花(おおさか) 

  出場者名2………立岩鉄太     25才  男 出身地 笑媛(えひめ) 


 パンフレットを見ていた月田が噴き出して、ニヤけた顔で鉄太に聞いてきた。


「先輩、この『花咲かギャング』ってなんですの?」


つづきは明日の7時に投稿します。

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