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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第九章 失踪
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9-1話 そんなんする人、いてへんわ

〈大漫才ロワイヤル〉の予選結果は、合否の如何に関わらず郵送の通知表で知らされる。


 一応、実行委員会からは十月下旬にとアナウンスされているが、開斗は知り合いから通知表の発送日を聞き出すことができたのでアパートへ郵送される日を特定することができた。


 そして今日がその日である。


 ボロアパートの六畳の一室に鉄太と開斗が座っている。


 彼らはバイトを休んだ。


 月田は早朝からドヤ街と呼ばれる日雇い労働者の寄せ場へ行ったので不在である。


 鉄太は足を投げ出し壁にもたれて虚空を見ている。


 開斗は刀の手入れを行っている。棒の先にピンポン玉ぐらいの大きさの白い球体が付いたヤツで、刀をポンポンする打ち粉と呼ばれる作業である。


 二人の間には会話はない。


 ただ、時折アパートに近づく原付バイクの音に反応し立ち上がろうとするが、バイクが通過するのが分かるとまた元に戻る。


 時間はすでに午後になっている。

 午前中の配達はなかった。


 午後の配達は午後三時ぐらいなので、あと一時間ぐらいで結果が判明するハズである。


「アカン。カイちゃん。耐えられへん。ちょっと玄関まで行ってくるわ」


「落ち着かんかい。玄関に行って何が(かわ)んねん」


 開斗は鉄太を注意するが、10分後には彼も玄関にいた。


 そして、その10分後には彼らは玄関の外に出ており、さらにその10分後には門の付近にいた。


(おっそ)いな。同じ府内やから、今日の朝に配達されるはずやと思ったんやけどな」

「もしかして、配達のおっちゃん、事故にでも()うたんかも」


「縁起でもないこと言うなや……いや待てよ~~。ワイらの合格通知を狙ろうて襲撃って線もなくはないかもな」


「そんなんする人、いてへんわ」

「いや、一人おる。スネオや。アイツならやりかねんやろ」


 開斗は手刀を構える。あながち冗談で言っている顔つきでもない。


 すると、門の外から声がした。


「いい加減にするのじゃ。黙って聞いておれば好き放題ぬかしおってからに」


「その声は!」


 鉄太と開斗は、まさかと思って門の外に顔を出すと、やはりそこには蛇沼と錦がいた。


 図体のでかい彼らは塀から頭が出ないように屈んでいた。


「……なんのマネや。まさかズッとそこで盗み聞きしとったんかい。笑気が薄すぎて存在に気ぃつかんかったわ」


「何ぬかしとるんじゃ。オマエが笑気感じる取るのが下手クソなのじゃ」


 芝居がかった物言いをしながら、蛇沼は立ち上がり、舌をペロペロと出し入れする。


「この時間になっても合格通知が届いておらんとか、気の毒すぎてさすがのワシもヌシらにかける言葉が見つからんのじゃ」


 そのセリフとは裏腹に蛇沼の顔は満面の笑みである。それは自分たちには合格通知が届いたことを逆説的に伝えている。


「スマンな、ポン、タテ。悪気はないんじゃ」


 霧崎の剣呑な雰囲気を察した錦が、蛇沼を後ろから抱えて後ずさっていった。


「それが、悪気やないんなら悪気なんて言葉はこの世に存在せんわ!」


 開斗は悪態をついて、ブロック塀を蹴り飛ばす。蛇沼たちは去っていったが険悪な空気はそのまま残ったままだ。


「ってか、なんでアイツらワイらの住所知っとんねん」


 実は予選会場のホテルで開斗がトイレに行った際に、鉄太はギャラの話のついでの雑談で自分たちの住所を蛇沼らに教えていた。


 しかし今、その話はとても言えそうにない。いたたまれなくなった鉄太は、開斗に提案する。


「なんならワテが郵便局まで行ってこよか?」


「別にそこまでせんでええわ。もうすぐ三時や」


 果たして、午後三時を過ぎた頃、郵便局のバイクがやって来た。


 ところがところが、バイクは彼らの目の前を通りすぎアパートに郵便物を届けることはなかった。


「カイちゃん、もしかして……」

「まだ決めつけんなや。不合格でも通知は来るんや」


 鉄太の背中を開斗が平手で叩く。


「今日は仕舞(しま)いや。部屋に戻るで。ま、明日になっても()おへんかったら実行委員会に直接行って来るわ」


 二人は部屋に戻った。


 とはいえ、戻ったからといってやることもない。仮にあったとしても手に付かなかっただろう。


「しゃーない。だいぶ早いけど、笑パブ行こか」


 開斗の誘いに鉄太が応じ彼らが階下へ降りた時、来客を告げるブザーが鳴った。


 鉄太は、結果通知の郵便かと思ったのだが、開斗が言うには直前のエンジン音から来訪者は車で来たに違いないとのこと。


 とすると、例え郵便関係だったとしても小包の受け渡しだろう。合格通知の封筒ということはないと言った。


「邪魔臭いのう」


 外出の出鼻をくじかれたのが(かん)に障ったようで開斗は舌打ちをしながら玄関へ向かう。


 しかし、鉄太は戸の外の気配を敏感に感じ取り、それが誰であるかを感知した。


「カイちゃん……」


 鉄太が開斗に警告を与えようと声をかける。


 ただ、開斗も引手に手を掛けたところで遅ればせながら異変を察知し、引き戸を叩きつけるような勢いで開けた。


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。

つづきは明日の7時に投稿します。

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