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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第八章 予選
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8-2話 ルールが改訂されたから

 十月某日の朝。


 スーツに、パナマ帽というギャングスタイルの二人が、予選会場である大咲花(おおさか)ハッスルホテルの前に現れる。


 鉄太と開斗である。


 ただ、前と違って、彼らの着ている服と帽子とネクタイの色は桜のような淡いピンク色で統一され、ワイシャツとベルトと靴は茶色でキメている。


 借金が増えることに渋る鉄太を説き伏せて、開斗がオーダーしたのだ。


 オーダーメイドなので、鉄太のショルダーパッドや義腕の違和感を無くすように仕立てられており、知らない人が見たならば、随分いかり肩な人だと思う程度であろう。


 彼らはアパートからこの格好で来た。予選会場は大勢の漫才師であふれかえるが、ロッカーなどは用意されていない。


 よって舞台衣装のまま会場入りするのが普通なのだ。


 そんなワケで、ずっと周囲からの好奇な視線にさらされてきたのであるが、駅のホームを出てホテルに着く頃には、ちょっとした違和感を覚えるようになった。


「なぁ、カイちゃん。なんか人少なない?」

「……せやな。前ん時より少ないな」


 彼らは笑林寺を卒業してから〈大漫才ロワイヤル〉の予選には二回参加していたのだが、その時に比べて参加者と思われる派手なペアルックをした連中が少ないのだ。


 もしかして、時間を間違えたと思い、バッタ物のデジタル時計で確認したが、そんなことはなかった。


「ひょっとすると、二日に分けてんのかもしれへんな」


 開斗がいい加減な見当をつけた時、後ろから否定を告げる声がした。


「コイツらアホじゃ。注意事項を読まずに参加しよるのか?」


 鉄太は、その、おかしな語尾の話し方をする者が、誰であるかすぐに分かったため、振り返るのがためらわれた。


 しかし、人が少ない理由は知りたいような気もする。


 目くばせをすると、開斗がうなずき、相手をすると買って出た。


「久しぶりやな。〈オロチ〉」

「〈オロチ〉じゃないのじゃ。〈キングバイバー〉に変わったと、前に言うたのじゃ」


 振り返ると、やはりそこには、スキンヘッドの大男二人組がいた。蛇沼と錦である。今日の彼らは勝負服である蛇皮柄のスーツを着ている。


「で、何の用やスネオ」


「別に用事などないのじゃ。ただ、(なん)も知らんと予選に来たアンポンの顔でも見てやろうと思っただけじゃ」


 昔から蛇沼は、開斗に対して強烈なライバル心を持っており、何かにつけて絡んでくる。


 また、粘着質(ねんちゃくしつ)な性格なので、慕う者は相方の他にいない。


「言いたいことがあるなら、さっさと言え。ほんでもって、さっさと消えい」


「何じゃ。それが、人に教えてもらうヤツの態度か? 教えてやらんぞ」


「アホゥ。いつ誰が教えて欲しいなんて言うた。オマエに聞かんでも、他のヤツに聞けば済む話や」


 開斗は蛇沼に対して、犬でも追い払うかのように手を払う。


 すると、すぐに蛇沼はしかめっ面になる。彼は見かけによらずナイーブなのだ。開斗が蛇沼のことをスネオと呼ぶ所以である。


「まあええわ。同期のよしみ。特別に教えてやるのじゃ。人が少ないんは去年から審査方法が変わったからじゃ」


「何やと!」


 蛇沼の話によれば、今まで自由だったネタが、去年から『審査の10分前に出されるお題を含めた漫才をしなければならない』とのことである。


 なぜそうなったかと言えば、テレビ局側からの要望らしい。


 実のところ、彼らが求めているのは漫才のスペシャリストではなく、バラエティー番組などで使い倒せる芸人なのである。


〈大漫才ロワイヤル〉で優勝した漫才は大変クオリティーが高い。しかしそれは、時間を掛けて作り込むことが出来るからと言える。


 一方、バラエティー番組で求められる才能は瞬発力である。


 大金を渡した優勝者がその後、期待したほど活躍していないという現状を変えるべく、ルールが改訂されたとのことである。


「マジか~~~……」

「ど、どないしょうカイちゃん」


 鉄太は必勝の漫才を準備してきたのだが、それがまったく無駄になってしまったことを知り動揺する。


 彼らが〈大漫〉に出場しようと決意したのは一か月ぐらい前であり、ネタ作りに懸命で情報集めまでは手が回らなかった。


 いや、過去に二回挑戦し、一回は決勝まで進んでいたため、無意識に行わなかったのかもしれない。


 そんなうろたえる様子の二人を見て、蛇沼は愉悦の表情を浮かべ、舌をチロチロ出し入れする。


「要するにじゃ、漫才職人どもが出場を断念したから参加人数が少なくなったのじゃ」

「兄者!」


 他人の不幸を喜ぶような言動をした蛇沼を錦がたしなめる。彼はなんで漫才師になろうと思ったのか不思議なほど真面目な男である。


 ともあれ、蛇沼のもたらした情報は大変重要なものであった。


 知ると知らないのでは天地の差があったと言っていい。鉄太は素直に感謝を述べる。


「蛇沼君ありがとう」

「お、おう……」


 感謝されるのが予想外だったのか、蛇沼は面食らったような表情で返事をした。


「あとな、ワテらもコンビ名変えたんや。今は〈満開ボーイズ〉やで」


つづきは来週月曜の7時に投稿します。

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