11-11話 右手を高く振りながら舞台袖から踏み出した
キャプテン本村が大オチを言い終えたところで、拍手が沸き上がった。
ところが、「キャプテーーーーーン! キャプテーーーーーン!」
誰しもネタが終わったと思ったのだが、セーラー利根が続けて声を張り上げた。客席がざわめく中、キャプテン本村は動揺しながら対応する。
「な、な、何やぁぁぁぁぁ!!」
「漫才師のクセにーーーーー! 舞台で喋られへんヤツらがいてますーーーーーー!!」
「そ、そ、それは……それは、俺らやぁぁぁぁぁ!!」
「大漫で優勝してへんのに優勝したことになってる漫才師がいてますーーーーーー!!」
「それは、俺らやぁぁぁぁぁ!!」
「大漫の優勝賞金1000万貰うたことにされてるけど、ホンマは100万しか貰うてない漫才師がいてますーーーーー!!」
「それは、俺らやぁぁぁぁぁ!! クソがぁぁぁぁぁ!! こないなゴミ、いなくなった方が世のためやぁぁぁぁぁ!!」
引退するかのようなことを絶叫するキャプテン本村。
息を飲む客席。
しかし数瞬後、「そんなことないでーーー!」「やめたらアカンーーー!」などの声援が次々あがる。
「おおぎに……ホンマおおぎに……ギャプデーーーーーン! ギャプデーーーーーン! ごれがらも世界の平和を守っで下ざいーーーーーー!!」
セーラー利根が声を詰まらせながら嘆願する。
すると、キャプテン本村は、心の膿を吐き出したからなのか、これまでのヤケクソで怒鳴っていたトーンから一転して、諭すように答えた。
「皆さまの応援、お前の気持ち、めっちゃウレシイわ。でもなぁ、世界平和よりもっと大事なことあるやろ」
「何がですがぁ? そんなん言わんどいて下ざい。世界平和より大事なことなんでないです」
客席からも「その通りや」と同調する声が乱れ飛ぶ。
しかし、キャプテン本村は「あるやろ!!」一喝した。
静まり返った劇場で彼はこう言った。
「まず、明るいとこで喋れるようになることや」
キャプテン本村の決意を聞いて、拍手が満場に鳴り響いた。
鉄太も腿を使って右手で拍手した。
「おい、ネタ終わってもうたぞ。まだ分からへんのか?」
「あっ……」
開斗から指摘されて鉄太は我に返る。
「オイコラまさか、探してへんかったんとちゃうやろな?」
「いや、探してるって」
サラリと嘘をついた鉄太は、改めて調光盤に向かい必死に目を凝らす。しかし、圧倒的に光量が不足しており見つけられる気がしない。
と、そこへ意外な助けが現れた。
「己ら何やっとんじゃ?」
金島だ。彼は鉄太らのそばまで来ると明かりを灯した。タイムキーパー用に持っていたペンライトだ。
「しゃ、社長はん! ありがとうございます!」
さして強くない光であったが、マスターフェーダーを見つけ出すには充分だった。
鉄太は赤色のツマミを一番上まで押し上げた。
すると、電球の光が調光盤を照らし、客席の方からはどよめきと拍手が届く。
胸をなでおろす鉄太であったが、「せ、先輩! 時間過ぎてます!」月田が血相を変えて時計を指さした。
そう言えば、自分たちにはもう1ステージ、漫才をする予定だった。しかし────
第七艦隊が掃けたか確認するためにちょっと覗いてみたら、なんと十数ぐらいの人が舞台上に集まっていた。
「カ、カイちゃん。何や板の上にメッチャ人おるで」
「あぁ、漫才師たちやな」
「マジで?」
暗闇の中でも笑気を感じ取れる開斗は、舞台上の様子を把握できてたようだ。
言われてから、よくよく観察してみれば、確かに、舞台上にいたのはストラトフォートレスを始めとする漫才師たちだった。
彼らは泣いていたようで、鼻水が垂れている者もいる。
ひょっとすると、暗闇の中、舞台に上ってキャプテン本村とセーラー利根を励ましてたりしたのだろうか?
笑林寺卒業直後から売れっ子になった鉄太らは孤高であった。ゆえに、自分たちにはない仲間との強い絆は羨ましくもあった。
だが、それはそれとして、現在この状況は悩ましい。すでにフィナーレみたいな雰囲気なのだ。これから漫才する空気に換えるにしても時間が足りな過ぎる。
「カイちゃん。どうする?」
「どうもこうもないやろ。────なぁ、オッサン。このまま終わってもええやろ? 延滞料払ってくれるなら別やけど」
「しょーもないこと聞くな。さっさとシメて来い」
ペンライトを煙草のように持っていた金島は、ぶっきらぼうに言い放った。
「ほな、行こか?」開斗が鉄太の肩を叩くと、鉄太は月田とヤスに付いて来いとアイコンタクトを送る。
そして、鉄太は右手を高く振りながら舞台袖から踏み出した。
第三部最終回です。
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