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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十一章 開演
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11-10話 空港のお土産屋で売ってます

「カイちゃんは明かり無くても笑気の反射で物の形分かるんやろ? やったらカイちゃんが戻してくれへん?」


「しゃーないな。じゃあ、テッたん。笑気張れ」

「自分の笑気飛ばせばえーやん」


「お前のミスやろ。口答えすな」

「うぐっ……分かったわ」


 渋々ならが鉄太が笑気を張ると、開斗が両手で、鉄太の背後から胸に手刀ツッコミを連続で叩きこんできた。さながら二人羽織りでゴリラのドラミングをしているかのようである。


 手刀ツッコミを打ち続けながら開斗が尋ねる。


「で、どこらへんのツマミなんや?」

「いやあああ、覚えてえええへんよおおおお。ああああ、でもでもおおお、赤色のおおおツマミやねんんんん」


「色なんか分かるか!」


 そう叫んだ開斗は、鉄太の頭に強めの手刀ツッコミを入れた。


 そうしている間に、客席からは怒号が湧きだす。早く対処しないと収集が付かなくなりそうだ。


 しかし、どうしようもない。


 暗闇の中、途方に暮れていると一筋の光が差し込んだ。


 それは比喩(ひゆ)などではなく、開かれたドアから廊下の蛍光灯の明かりが、舞台袖の床に光の道を照らし出したのだ。


 広がった光の道に人のシルエットが現れる。


 月田とヤスが戻ってきたのだ。


 月田は客席からの(ざわ)めきに驚いたようで、「何があったんすか!?」と、声を張り上げて問うてきた。


 だが、今はそれに答えている時間はない。


「月田君、ちょっと、そのままドア開けといてくれる?」

「へ? はい」


 (いぶ)りながらも月田は、いわれた通りドアを保持する。


「テッたん。もしかして、廊下の照明、生きとるんか?」

「せやねん」


 当たり前の話だが、調光盤は舞台周りの明かりを制御しているだけなので、劇場の廊下の明かりには影響を与えないのだ。


 ただ、残念なことに、廊下の明かりは舞台に入り込まないよう、暗めの乳白色だった。しかもドアは調光盤から対角の位置にあるので、直接光が当たらない。


 鉄太は調光盤の赤いツマミを見つけようと目をこらすが良く分からない。


 すると、開斗が何か(ひら)いたように指をならした。


「ヤス。お前、ライター持っとるやろ? 悪いがコッチ来てライターつけてくれ」

「火気厳禁って聞いてやすが……」


「緊急事態や。分かるやろ」

「ナイスやカイちゃん」


 ヤスは言われるまま鉄太の横に来てライターの火を灯した。


 ところが、ライター弱々しいオレンジ色の炎で赤色を識別することは至難の技だった。


 やはり、係員を呼んだ方がいいと鉄太が思ったその時、『ヴァ、ヴァ、ヴァァァァァァァァ』と、まるで地の底から誕生した怪物の産声のような叫びが劇場に(とどろ)いた。


 息を飲み静まる客席。


 スピーカーから荒々しい呼吸音がしばし繰り返し流れた後、


「ま、ま、まいどぉぉ……まいど、おおきにぃぃぃぃぃ……第七艦隊ですぅぅぅぅぅぅ!! きょ、きょ、今日も……世界の……平和、守りますぅぅぅぅぅ!!」


 キャプテン本村が、だとたどしく絶叫で挨拶すると、満場の拍手が鳴り響いた。拍手が小さくなったところでセーラー利根がキャプテン本村のテンションとテンポに合わせた声量でネタに入る。


「キャプテーーーーーン! 大変ですーーーーー! 世界の平和が大変ですーーーーーー!!」


「何や騒々しいぃぃぃぃ!!。何が大変なんやぁぁぁぁ!!」


「あれ見て下さいーーーー! あの男、車から空き缶、ポイ捨てしてますーーーーーー!!」


「何やとぉぉぉぉぉ!! それは許せん!! ファイヤーーーーーー!!」

「ファイヤーーーーーー!!」


「キャプテーーーーーン! あれ見て下さいーーーー! あの店、酢豚にパイナップル入れてますーーーー!!」


「何やとぉぉぉぉぉ!! それは許せん!! ファイヤーーーーーー!!」

「ファイヤーーーーーー!!」


 彼ら第七艦隊は、軽快なテンポで笑いをかぶせる〈プゲラーの法則〉を用いていたのだが、今は見る影もないほどのスローテンポだ。


「キャプテーーーーーン! あの女、見て下さいーーーー! 焼き鳥を串から抜いてますーーーー!!」


「何やとぉぉぉぉぉって、それ、別によくないかぁぁぁぁ!?」


「よくないですーーーー!! レモン汁もかけてますーーーーーー!!」


「じゃあ、ファイヤーーーーーー!!」

「ファイヤーーーーーー!!」


「キャプテーーーーーン! あの男、見て下さいーーーー! 満員のエレベーターですかしっ屁してますーーーー!!」


「何やとぉぉぉぉぉって、お前、エレベータの中のすかしっ屁なんか見えるわけないやろーーーーー!!」


「すんまへーーーーん!!」


「それに、さっきから事件が小さすぎるぅぅぅぅ!! もっとデカイ事件持ってこいぃぃぃぃぃ!!」


「分かりましたーーーーー!! ほな、ハワイのタコ焼き屋の話しますーーーーー!!」


「ハワイのタコ焼き屋!? とりあえず言うてみいぃぃぃぃぃ!!」


「ハワイのタコ焼き屋はーーーーー、タコ焼きに、タコ入れてへんのですーーーーーー!!」


「何やとぉぉぉぉぉ!! タコ入れずに何入れてんねん?」


「マカダミアナッツですーーーーーー!!」


「それは許せん!! 全艦攻撃準備ぃぃぃぃ!!」


「しかも、小麦粉やのうて、チョコレート使ってますーーーーーー!!」


「アホかぁぁぁぁぁ。それ、マカダミアナッツチョコやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「しかも、丸やなくて、細長い形してますーーーーーー!!」


「それ、マカダミアナッツチョコやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「しかも、空港のお土産屋で売ってますーーーーー!!」


「マカダミアナッツチョコや言うてるやろぉぉぉぉ!!」


「キャプテーーーーーン! 攻撃命令を!!」


「お前に、ファイヤーーーーーー!!」


 キャプテン本村が大オチを言い終えたところで、拍手が沸き上がった。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、11-11話 「右手を高く振りながら舞台袖から踏み出した」

つづきは6月1「日の日曜日にアップします。

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