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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十一章 開演
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11-7話 4人で上がってトークとか

「すんまへん。第2部はトークとお伝えしましたけど、なんやお客さんが後から後から遅れていらっしゃってるみたいなんで、予定を変更して漫才をお送りいたします」


 マイク前に立った開斗は開口一番、観客に向かってそう告げた。


 劇場に拍手が湧き上がる。


 横で聞いていた鉄太は相方の機転に舌を巻いた。


 トークから漫才に変更した理由は完全にこちらの事情であるのだが、それを後から来た客のためと言い張ることで、プログラム変更というトラブル臭を完全に消したのだ。


 拍手が収まると、開斗が「ワイら」と声を張った。


 鉄太は本日5度目の満開ポーズを行った。


 鉄太はポーズの最中、どのネタで行くのか判断を迫られる。


 第2部は50分。


 舞台袖にいるときに、10分のネタと15分のネタを交互に1本ずつの計4本という所まで決まった。

 ただ、そこで時間切れとなり、何をチョイスするかは完全に任された形だ。


 求められている事はとにかく劇場を笑気で満たすことなので鉄板ネタで行くしかない。


 自分たちのネタで鉄板ネタ筆頭は〝宇宙漫才〟なのだが、これは最後の最後、第七艦隊がしくじってキンキンに()て付かせた時の保険として取っておきたい。


 鉄太が導き出した1本目のネタは〝1日警察署長〟であった。これは1日警察署長になってどんな悪さをするかというブラックユーモア寄りのネタである。


 公権力の批判が含まれておりテレビでは使われづらく、知っている人が少ないというのが選んだポイントだ。


 果たして、ネタが進むにつれ、鉄太の意図したとおり新鮮な笑いが湧き上がった。


 おおむね目論見通りに進行していたが、ネタの終盤に差し掛かった頃、鉄太はとある問題が発生していることに気が付いた。


 その問題とは、金島のタイムキーパーとしての役目である。


 あの男には、時間の1分前にペンライトを1回点滅、時間丁度でペンライトを2回点滅するようにお願いしていたのだが、一向に時間を気にする様子が(うかが)えなかった。


(しまった!)鉄太は自分たちのミスに気が付いた。


 プログラムを変更する話し合いをしたのは金島が去った後であり、また、変更を伝えるようヤスに指示してもいなかった。


 無論、幾度となく行ったネタなので、タイムキーパーからの合図がなくともおおよその時間には終わることはできる。ただ、4本連続となると誤差は積み上がっていく。


 時間を気にしながら行うのとそうでないのとではパフォーマンスに影響が出てしまうものだ。


 自分の腕時計はズボンのポケットの中。


 隻腕の鉄太にとって、腕時計の着脱は結構な難事なので、常日頃からそのようにしている。


 腕にはめていればさりげなく確認もできたのだが、と後悔しても後の祭りである。


 鉄太は不安を抱えながら、舞台袖に()けることなく4連続ネタを行った。


〝1日警察署長〟に続いて〝ドーナツ〟、〝野球拳〟、〝ナゾナゾ〟と、鉄板ネタのオンパレードであった。


 ところが、思ったように劇場に笑気が満ちない。


 鉄太はネタに集中できていないからかと思ったがそうではなかった。なんと、さらに客が増えているのだ。


 4本目のネタが終わる頃には、劇場の客席の半分ぐらいが埋まっている状況になっていたので、第2部が始まってから大体2.5倍ほど増えたと思われる。


 お湯を沸かそうと火を焚いても途中で水の量を継ぎ足されれば湧きにくくなるのと一緒だ。


 3分ほど時間をオーバーして粘ってみたが、当初狙っていたのとは程遠い結果となった。



 第2部と第3部の間の休憩時間。


 上手(かみて)の舞台袖で鉄太は、客数が500人ほどになっていること、まだまだ増えそうなこと、そして劇場を笑気で満たせなかったことを第七艦隊に報告し謝罪した。


 キャプテン本村は無言で、セーラー利根は「左様(さよ)か」と短く応じた。


 重苦しい空気が漂う中、雰囲気を変えようと思ったのか月田がおどけた感じでこう言った。


「それにしても大八車の兄さんたちスゴイっすね。自分なんて何日も頑張って数十枚がやっとなのに、たった1時間で400枚とか脱帽しますわ」


 だが、彼の気遣いは何の効果ももたらさなかった。


「少しは顔が売れた漫才師が大勢で呼び込みしとんのや。それぐらい売れるやろ」


 開斗がぶっきらぼうに応じた。


 確かに、大八車、大三元(だいさんげん)、第二次性徴、安全第一を合わせれば9人もいるので、それなりの数は(さば)けるだろう。


 鉄太は算数が苦手なので、400/9が何枚なのかは計算できない。ただ、仮に400/10とすれば、40枚になるので、1人あたりの売上が40枚以上というのはなんとなくわかった。


 また、自分と開斗で売ったチケットが約80枚だったことを思い出した。ただし、その内、50枚は藁部(わらべ)、五寸釘、島津、ストラトにまとめて買ってもらったことを考えれば、実質は30枚程度と言える。しかも、何日も掛けてである。


 今度、井手駒(いてこま)に会った時、チケット売りのコツでも聞こうかなと思った。


 長い沈黙の中、開斗は先輩らに遠慮がちに提案した。


「今回はやめときますか? なんなら、ワイらと一緒に4人で上がってトークとかにしてもええですし……」

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次回、11-8話 「取り出したピンク色のアイテムを」

つづきは5月11日の日曜日にアップします。

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