7-3話 これを機に、改名しろと無茶を言い
そんなわけで鉄太らは無事、出場権を譲ってもらえたと思ったのだが事はそう単純に進みそうになかった。
ちゃぶ台の上に広げられた〈大漫才ロワイヤル〉の予選通知書を、彼ら三人が頭を寄せ集めるようにして見つめている。
その予選通知書はA4サイズの印刷用紙で、いくつもの細かい折り目が付けられていた。
折り目がついているのは月田が予選通知書をお守りの中に折り畳んで仕舞いこんでいたせいである。
だが、問題は折り目ではない。
予選通知書には、予選開催場所、エントリーナンバー、日時の他に以下の項目が記された。
出場コンビ名……満開ボーイズ
出場者名1……霧崎開斗(二十五才) 芸名……ほーきんぐカイ
出場者名2……月田満作(二十二才) 芸名……ちゃんぴおん月田
これを見た者は当然ある疑問が浮かぶだろう。
名前が書いてあるのに出場権の譲渡は可能なのだろうかと。
今の世であったならスマホとかでググればチャッチャと調べられるかもしれないが、この当時、グーグルは無かった。
インターネットはあるにはあったが、まだ画像を表示できるものではなく、使っている人は学者と好事家ぐらいである。
ネットで調べものをしようと思えば、せいぜいパソコン通信の掲示板なのだが、それで望む回答が得られるかどうかは甚だ疑問だ。
ただ、それ以前の問題として彼らは固定電話の回線すら持っていなかった。
「……なぁ、カイちゃん。これ、もしかしてやけど……」
「よし! 分かった!」
鉄太が全てしゃべり終える前に開斗が大きく手を打った。
「改名や。改名しよ」
「ええっ!? それって、〈ほーきんぐ〉から〈満開ボーイズ〉にコンビ名変えるっちゅうことか?」
「それだけやあらへん。テッたんの芸名も月田満作に変える。――まぁ、漫才師のコンビ名や芸名なんてコロコロ変わるから上手いこと誤魔化せるやろ」
こともなげに宣言する開斗であったが驚いたのは月田だった。
「ちょっと待って下さいよ。立岩先輩が月田満作になったら自分はどうなるんすか?」
「何か適当に芸名変ええ」
「月田満作は芸名ちゃいますて。本名です。芸名は〈ちゃんぴおん月田〉ですわ」
「マジか!? オマエようそんな『万策尽きた』みたいな縁起の悪い名前で生きてこれたなぁ。これを機に改名した方がええんちゃうんか?」
あきれたように言い放つ開斗であったが、鉄太としては、その縁起の悪い名前を相方に名乗らせようとしている相方の神経にあきれた。
一方月田は、慕っていた先輩に名前を憶えてもらえてなかったばかりか、ことさらに名前をイジられて相当むくれてしまった。
「余計なお世話ですわ。満月みたいでええ名前です。勘弁してください」
「月田君、これ食べ。はい、あ~~ん。あ~~んやで」
鉄太は、話がこじれると面倒臭いことになると思って、月田に饅頭を食べさせて機嫌を取ろうとした。
それから色々考えてみた結果、
『月田満作の都合が悪くなったので、代役として立岩鉄太と入れ替えたい』
というお願いを、実行委員会本部にしてみることになった。
小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。
つづきは明日の7時に投稿します。