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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十一章 開演
218/228

11-1話 よっぽど家におれない事情

 前説で月田とヤスは観客らにポケベルの電源を切ってくださいなどの注意事項と、ライブ時間割(プログラム)の概略を説明していく。


 なお時間割(プログラム)は以下のとおりである。


 第1部

  1 開演の挨拶 19:00~ 満開ボーイズ

  2 漫才 19:10~ 満開ボーイズ

  3 漫才 19:20~ ゴールデンパンチ

  4 漫才 19:25~ 満開ボーイズ

  6 漫才 19:35~ 満開ボーイズ

  7 漫才 19:45~ ゴールデンパンチ

  8 漫才 19:50~ 満開ボーイズ

  9 休憩 20:00~

 第2部

  10 トーク 20:10~  満開ボーイズ

  11 休憩 21:00~

 第3部

  11 漫才 21:15~ 特別ゲスト

  12 漫才 21:25~ 満開ボーイズ

  13 終演の挨拶 22:45 全員



「おぅ、もう始まっとったか」


 振り返ると舞台衣装に着替えたキャプテン本村とセーラー利根がそこにいた。名前から分かるようにキャプテン本村は海軍将校が着るような白い軍服であり、セーラ利根は水兵の軍服である。


「社長はんは?」

「客席やろ?」

「一緒やなかったんですか?」

「まあな」


 その返答に若干の違和感を感じたが、この2人はずっとここにいるつもりなのかどうかが気になった。


 彼らの出番は21時20分、つまりあと1時間20分先なのだ。


「兄さん楽屋にいてください。時間来たら呼びに行きますんで」

「元々そのつもりや。ここに来たんはツラ見せと客入りの確認のためや」


 鉄太は会話の流れで客入りについて報告しようとしたがデリケートな部分なので思いとどまった。が、開斗は「安心して下さい。予定通り客ほとんど入っとらんですわ」と鉄太が敢えて言わなかったことを口にしてしまった。


 案の定、彼は顔をこわばらせる。ただ、殺気めいた波動を一瞬放つもそれ以上の反応は見せなかった。


 キャプテン本村は「一言余計や」と吐き捨てると相方と共に立ち去った。




 ほどなくして、月田とヤスが舞台袖に戻って来る。

「前説終わりました」

「お疲れお疲れ」


 鉄太は、その場で座り込みそうなほどヘトヘトになっている彼らを(ねぎら)う。


 正直な所たった5分でこれほど疲れているのは不甲斐(ふがいない)ないとしか言いようがないが、説教している時間などない。


 次は自分たちの番なのだ。「ほな、カイちゃんいこか」

 特に相方からの返事もないが鉄太は歩み出す。後輩たちに背中を見せつけるように。


 音響スタッフがいないので出囃子(でばやし)もアナウンスもない。まぁ、そんなのは場末の笑パブで慣れている。


 ステージ前で一旦立ち止まることもなく2人は「どうも~~」と声を張ってゆっくりと進む。


 少ないながらも湧き上がる拍手。


 鉄太は手を上げて(こた)えようと客席に目を向けた時、本当に思わず悲鳴を上げそうになった


 それというもの数こそ少ないが1000人分を煮詰めて()したのかと思うほど濃すぎる面々が最前列に集まって座っていたのだ。


 藁部(わらべ)と五寸釘、金島、開斗の家族、その他ストラトや第六魔王など、第七艦隊にゆかりのある漫才師たちは当然として、日茂(ひも)を筆頭とした藁部(わらべ)の手下どもは想定内としても、島津率いるショッキングピンクのシャツを着た大咲花(おおさか)アイアンズの変態老人たちや、林冲子(はやしおきこ)を始めとする笑天下(しょうてんした)過激団の連中、その上、クンカ、西錠、下須といった(やから)は精神的にキャパシティーオーバーである。


 今更ながら藁部(わらべ)や島津にチケットを売ったことが悔やまれる。


(てか、なんで前に固まってんねん。もっとバラけて座ってくれ)


 鉄太は圧力団体のようなこの連中を前にして5分も前説をした月田とヤスのことを感心しつつ舞台中央の38(サンパチ)マイクの右側で立ち止まった。


 そして一呼吸後、マイク左側の開斗が「ワイら」と叫んだあと、例によって「満開、ボーイズ~~~」と叫び、満開ポーズを行った。


 アイアンズやアパートの住人たちは満開ポーズを初めて見るのであろう。失笑のような反応を示している。


 鉄太は小っ()ずかしさを()み殺しつつ挨拶に入る。


「皆様、金島屋の初ライブにお越しいただきまことにありがとうございます。こんな雨の降りしきる中ワザワザのご来場……もしかして家におられない事情があったのでしょうか?」

喃照耶念(なんでやねん)。失礼やろ!」


 鉄太の口上に間髪入れずに開斗の手刀ツッコミが炸裂し一笑(ひとわら)い起きる。


「見ての通りお客さん少ないんで、こんな前の方に固まらんと、もっと広く使って下さいね」


 鉄太は観客らに分散を促した。自分たちはいいとしても月田とヤスにはキツかろうし、第七艦隊ならばなおさらだ。


 ところが冗談と(とら)えられたのか誰も移動してくれなかった。


(ド畜生が)


 ほとんどが身内のような連中なのだからもっと強めに言ってもよかったかなと思ったが、考えてみれば客が分散すれば笑気の密度も薄くなる。それでは逆に月田とヤスの漫才で笑わせることが難しくなるというジレンマがある。


 ただ、鉄太には、そんなことより気がかりなことが有った。


(それはそうと、イズルちゃんいてへんな。遅れてんのかな?)


 少し前の話になるが、鉄太は朝戸にライブのチケットを手渡しており、その時、必ず行くとの返事も聞いた。


 ドタキャンの可能性を疑ったが、このライブには彼女が思いを寄せる開斗が出ているのだ。来ないということはないだろう。

 

 しかし、よくよく考えてみれば、彼女は芸能人であって定時で上がれるOLではなかった。しかも自分たちは電話も持っておらず連絡を取れる手段もない。

 

 しょうがないので、鉄太はこのことは一旦置いておいてトークに専念することにした。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、11-2話 「出来ることなら己の意思で」

つづきは3月30日の日曜日にアップします。

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