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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十章 ライブ
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10-7話 結婚式のスピーチか

「ところで、第七兄さんも一緒やった?」

「はい、楽屋見舞いに来た大八車さんらも誘いはってみんなで会食したっす」


「み、みんな!? みんなって何人?」

「えっと……第七艦隊さん、大八車さん、大三元(だいさんげん)さん、第二次性徴さん、安全第一と、社長と俺らなんで全員で14名っすね」


 指を折りながら人数を確かめていた月田の報告を聞いて、鉄太の心が(ざわ)めいた。


「何やそれ。ズッこい」

「はい?」

「いやいや。何でもないで」


 ついつい本音が漏れ出てしまった。


 先ほど、金島を前にして食べても味などしないから誘われなくてラッキーとか思っていたが、10人以上いるなら話は別だ。それだけの人数がいたら金島から遠くの席に座ることが出来るのだ。


 というか、なんで主役である自分たちを差し置いて全くの部外者にご馳走するのか? いや、もうぶっちゃけた話をするなら、全然金島の前の席でもいいからタコライスが食べたかった。


 何であのタイミングで楽屋見舞いに来たのか。心底、開斗の家族が(うら)めしかった。


 大きなため息を()く鉄太。


「ま~~た、しょーもない事考えとるんやろ?」

「は? はぁ? 何のことや?」


「……まぁええわ……つーか、ホンマあのオッサン金の使い方にセンスないな。そんな金があるならライブに金を掛けろっちゅーねん」


 その発想はなかったが、「せやな」と相槌(あいづち)しようとした時、ヤスがこちらを(にら)んでいることに気が付いたので鉄太は慌てて口を(つぐ)んだ。


 告げ口などされたらたまったものではない。なので話題を逸らす。


「カイちゃん。そー言えば社長はんがロビーに祝い花2つ来てる言うてたやん。1つは丑三つ(うしみつ)からやけど、もう1つは誰からやと思う?」


「ストラトとちゃうか?」

「ブーーーーー」


「チッ。あと……可能性があるとすれば、肥後Dか、テッたんの義理のお父さんぐらいか?」

「義理のお父さんって何や! ちゃうわ! 大八車兄さんたちからや!」


「マジか!? ナンバーズとしてじゃなくて? 大八車だけでか?」

「せや」


「何で……ってこともないか……あの人ら自分らのことしか考えてへんしなぁ」


 笑林興業(しょうりんこうぎょう)でコンビ名に数字がつく者たちが集まってナンバーズというユニットを結成したということは以前述べたが、当初は〈第七艦隊〉、〈第六魔王〉、〈第四帝国〉の3組が、第+数字という繋がりから合同ライブを行うだけの集まりであった。


 ところが、ナンバーズがテレビなどで注目され始めると井手駒(いてこま)が自分たちも入れろと会社の上層部に掛け合った。


 会社側としては地方営業の集客に使える駒が増えるので、その提案を受け入れユニットを強引に拡大させたという経緯がある。


「大方、今日来たのも第七兄さんらをダシに他メンバーを引き連れて、テッたんにアピールするためやろな」

「え? ワテに!?」


「いや、テッたんにというか、テッたんにしたことを幻一郎兄さんやテッたんのオカンにアピールするためかな」


 鉄太が「なるほど」と、開斗の見立てに感心していると、月田とヤスが何か言いたげにソワソワしていた。


「どうしたん?」

「兄さんすいません。そろそろ時間なんで……」


 おしゃべりに夢中になっている間に、いつの間にか開演10分前の19時50分になっていた。


「がんばりや」

「よろしく頼む」


 鉄太と開斗はエールを送ると彼らは「はい」と返事して袖幕(そでまく)前に小走りで向かった。彼らが位置についたのを確認し鉄太は操作盤に向かう。


 操作盤には(おびただ)しい数のボタンがあるが、このライブで使うのは緞帳(どんちょう)の昇降だけである。鉄太は教えられたボタンを押した。その後はもう何もする必要がないので操作盤から離れる。


 巻き上げ機のモータ音が静かに響く中、緞帳(どんちょう)は裏に縫い付けられた〝火の用心〟と書かれた大きなラベルと共に、ゆっくりとせり上がっていく。


 月田とヤスの後姿を眺める鉄太。


 そして、1分も経たない内に幕は完全に上がり切った。


 だが、2人は動かない。


 踏み出すタイミングがつかめないのか踏ん切りがつかないのかは分からない。


 声を掛けるか、肩を叩くか、それとも彼らに任せるべきか。


 じれったい。


 巣立ちを見守る母鳥とはこのような気持ちであるのだろうかと、鉄太がヤキモキしていると会場から大きな咳払いが1つ聞こえた。


 それが引き金になったのか2人は舞台袖から駆け出す。


 舞台中央のマイク前に立った月田は相方に行くぞと目くばせしてから口を開いた。


「本日は足元の悪い中ご来場いただき、誠にありがとうございます。今回、前説と進行を務めさせていただきますのは、ゴールデンパンチの月田と」

「ゴールデンパンチの安生(あんじょう)でやす」


 まばらな拍手の中、彼らは注意事項の説明を始めた。


 舞台袖で聞き耳を立てていた開斗が「ガッチガチやな。結婚式のスピーチか」と小声でつぶやいた。


 鉄太は拍手の音から大体の客数を察する。


「お客さんメッチャ少ないで。50人ってことはないけど100人はいてへんやろな」

「な、言う通りやろ。でも、逆に第七兄さんらにはええことかもしれん」


 照明はいじらないので客席のライトは点けっぱなしであり、ステージに立てば客席の後ろの人の顔まで分かるであろう。


 第七艦隊の2人はに舞台で(しゃべ)ることが出来なくなるというイップスに悩まされている。その苦しみが一番理解できるのは、かつて同様の経験をしたことがある鉄太だった。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、第十一章 11-1話 「よっぽど家におれない事情」

つづきは3月23日の日曜日にアップします。

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