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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十章 ライブ
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10-4話 真っ先に反応したのは彼の母

(また、楽屋見舞いかぁ?)


 ややウンザリしながら鉄太は「どうぞ」とドアに向かって声を発した。


「おじゃまします~~」

「あ!! これは、これは!」


 鉄太は反射的に立ち上がる。

 ドアが開いて現れたのは年配の女性一人と若い男女二人。それは鉄太の良く知っている人たち、開斗の母親と弟妹であった。


「お久しぶりやな、てっちゃん」

「オバチャン、まさ君、(ふみ)ちゃん、お久しぶり! ほれ、カイちゃん、カイちゃん!」


 家族の来訪を伝えるべく振り返ると、開斗は明らかに渋い表情をしていた。


「オカン。何しに来たんや」

「何やその言い草は。てっちゃんと再結成後の初ライブいうから楽屋見舞いに来ったんや」

「アホか。楽屋見舞いなら終わってからにせぇ。舞台前は色々忙しいから迷惑なんや」

「何もしてへんやん」

「精神統一しとんのや。てか、楽屋は関係者以外立ち入り禁止や。なんで入って来てんねん」

「パンチパーマのオッチャンに挨拶したらココ教えてくれたで」

「あのオッサン……」


「まーまーまーまー。立ち話も何やから座って下さい」


 鉄太は強引に割り込んで会話を止めると、3人に着座を促した。幸いにもテーブルには5脚の椅子があり、鉄太の(はす)向かいに開斗の母親、鉄太の正面に開斗の弟、開斗の正面に開斗の妹が座った。


 開斗の母は、ラッピングされた箱が入った紙袋を差し出して来た。 


「鉄太ちゃん。これ、差し入れな。後でみんなで食べてな」

「あ、ありがとうございます」

「お久しぶりです。鉄兄さん」

「ホンマやな。10年ぶりぐらいか? それにしても、まさ君も(ふみ)ちゃんもしばらく見いひん内にメッチャ大人になったなぁ」

「鉄兄さんもお元気になられたようで何よりです」

「いつも兄がお世話になっております」


 二人の挨拶に妙なよそよそしさを感じるのは年月のせいか、はたまたオーマガTVを見たからなのか判別はつかないが、相方がソッポを向いて黙しているので、鉄太は一人で彼の家族を応対せざるえなかった。


 開斗の母親の名前は文代。パーマの髪には白いものが混じっており、授業参観日を思わせるようなブラウスに黒ジャケットといった服装である。


 開斗の弟の雅史。霧崎家の末弟で確か今年成人するかしないかぐらいの歳である。スーツに眼鏡といった真面目そうな出で立ちで分かるようにかなり勉強ができる子であった。


 そして、開斗の妹の文香。年齢は自分と開斗の2つ下。本の好きな大人しい子であった。確か事務機器会社のOLになったという話を聞いたことがある。

 華やかな芸能界を見て来た鉄太からすれば見るからに地味な女の子だが、ナシかアリかと問われればナシ寄りのアリ。正直、相方の妹だけに顔がやや似ているのは大きなマイナスポイントである。とは言え、その辺は電気を消すなどの工夫で対処できる範中であろう。


 鉄太はピュアな恋愛観の持ち主ではなかった。朝戸に熱を上げつつも状況が厳しいことは理解している。保険はあるに越したことはないと思っている。


 だが、彼女の体のラインを眺めながら談笑していると、突然脇に激痛が走る。開斗が親指で肋骨の間をグリグリ(えぐ)って来たのだ。


(クソッ! 笑気で考えを読まれたか?)


 悶絶(もんぜつ)する鉄太を余所(よそ)に、家族に対して開斗がぶっきら棒に言い放った。


「用事済んだやろ。早よ帰れ」

「早よ帰れは無いやろ。アンタが連絡一つ寄越さんから、楽屋見舞いついでに顔見に来たったんや」


「知るか。文句があるならオトンに言え」

「お父ちゃんかて分かってはるわ。アンタが頭下げれば済む話やろ」

「うっさい、知るかボケ。謝るのはアッチや」


(やっぱりこうなるか)鉄太は嘆息した。

 これまでのやり取りで分かるように開斗は父親と上手くいっていなかった。その原因は開斗の父がお笑い文化に理解していないことが大きい。


 この国はお笑い文化が隆盛しているのだが、それでも地域差や個人差がある。


 開斗の父親は、お笑い文化がさほど根付いていない東北地方の出身の国家公務員で、転勤によって大咲花(おおさか)にやって来たと聞いている。


 開斗曰く「世界中で、お笑いが一番嫌いな人間」とのことである。


 見る番組はいつも野球かニュースのみ。開斗も幼少期は純朴な野球少年であったのだが、小学4年生に鉄太と出会ったことで人生が変わった。


 そして、漫才師への道に進むことにより父親との確執を生み今日に至っている。


「ホンマこの子は親不幸モンやな。てっちゃんの爪のアカでも飲ませてやりたいわ」

「〈喃照耶念(なんでやねん)〉! 言うとくけど家に連絡してへんのはコイツも一緒やで」


「いや、コイツて。オカンとはこの前、会うたやろ」

「たまたまやんけ」


「ところで、兄ちゃん! ……目が見えへんようになったってホンマ?」


 急に流れをぶった切るように妹が兄に問い質した。おそらく、これだけはあらかじめ聞こうと思っていたのだろう。テーブルの上に置かれている握りしめた両手から彼女からは曖昧な返答は許さないという気迫を感じた。


 それに対して開斗は、一息ついた後に簡潔に答えた。


「ホンマや」


「どないすんねんアンタ!」

「どうないもこないもないわ! 普通に暮らせとる。大きなお世話や」


 開斗の返答に真っ先に反応したのは彼の母だった。親子の言い争いがまた始まった。


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、10-5話 「袋にエジプト文明堂」

つづきは3月2日の日曜日にアップします。

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