9-4話 ゲヒゲヒと、イヤらしい笑みを浮かべつつ
「御堂筋線だ~~れ?」
「わ、私です」
おずおずと手を上げたのはでサバトの痩せた方、ウィッチ根民である。
鉄太が引いた割り箸の太い側にはボールペンで〝タニマチ〟と書かれていた。
普通の王様ゲームでは番号が用いられているのだが、鉄太がトイレに行っている間に地下鉄の路線名にしようということになったそうだ。
ただ、参加者12名に対し、地下鉄には8路線(御堂筋線、堺筋線、四つ橋線、千日前線、谷町線、中央線、長堀鶴見緑地線、南港ポートタウン線)しかないため、残り4つは、欣鉄から難波線、道明寺線、大咲花線、奈良線が追加されたとのことである。 ※この時代、今里筋線は開業していない。
非常に嫌な予感がする。
番号であれば選ばれる可能性はランダムに近いが、路線になると馴染みの高い路線が選ばれる可能性が果然高い。故に堺筋線、四つ橋線、谷町線、中央線は超危険牌と言える。
祈るように割り箸の文字が書かれた部分を握りしめる鉄太。
しかし、不安は的中してしまう。
「じゃあ、中央線は谷町線と、で、電話番号交換してください」
「ぎゃああああああああ……って、え? 電話番号?」
無難な命令に胸をなでおろす。
そう言えば、彼女らに電話番号を取得するミッション与えていたことを鉄太は思い出した。
なるほど。男とロクに会話したことないこの連中が、トークで電話番号を聞き出すのはハードルが高すぎるというものだが、このゲームにかこつけて聞き出すのであれば可能であろう。ただし、彼女らが取得すべきは鉄太以外の男の電話番号であるが。
一方、中央線を引いたのは〝ブタバラ〟の虎顔の服を着た方、ケツカル・ド・高貴であった。彼女は割り箸の袋に電話番号を書くと、箸袋と共にボールペンも鉄太に突き出して来た。
「ほれ、お前も書け」
「すんまへん。実はワテ電話持ってまへんねん」
「カス!」
「ボケナス!」
「ダボが!」
「あかんたれ!」
「甲斐性無し!」
鉄太に対し一斉に罵詈雑言が降り注いだ。
そして、ゲームは再開される。
割り箸が入れられた湯呑をクンカが持って席を回る。各々は割り箸をゆっくり引上げ、文字が書かれている根本の部分をもう一方の手で隠しながら取る。
しかし、隻腕の鉄太はそれができない。なので、動体視力の限界を超えるように素早く割り箸を引いてテーブルの下に持って行く。持って行った後は、先の部分をテーブルの裏面に押し当て文字部分が手の中に納まるようにするのだ。
鉄太は自分の目の前に持ってきた右手の人差し指と中指を広げて中を覗き見る。
割り箸には逆さの向きで〝ポート〟と書かれていた。南港ポートタウン線のことであろう。鉄太は咲州にある金島屋に行くために使うが、非常にマイナーな路線である。安全牌と言っていい。
安堵する鉄太。
「御堂筋線だ~~れ?」
「某である~~!」
名乗りを上げたのは松武子だ。顔色は変わっていないもののまあまあ酔っているらしく怪しい呂律で命令を下し始める。
「道明寺線と~~南港ポートタウン線は~~」
「喃照耶念!」鉄太は思わず叫んでしまった。
「コラ~~! まだ命令しておらぬだろうが」
「いやいや、2回連続ワテとかおかしいやん」
「2回程度おかしくはなかろう」
「でも、ポートタウン線なんか普通言わへんやろ。もしかして、みんなで示し合わせてる?」
「下郎が! ポートタウン線がウヌと知っておれば、むしろ選ばぬわ。己惚れるな」
「ぐぬぬぬ」
彼女のターゲットになっていないことはありがたいと言えるものの、無用に傷付けられた感があり鉄太は唇をかみしめた。
「道明寺線と~~南港ポートタウン線は~~え~~と……う~~んと……あ、あ、握手を……」
気を取り直して松武子は命令を告げたのだが、肝心の部分で照れてしまったのか、ヘタレたことを言い出した。
すると、使い捨てカメラを構えていた島津がクレームを入れる。
「何でごわすかそのしょうもない命令は! 小学生でごわすか?」
「ごわっさん! 余計なこと」
「引っ込んでおれ下郎!! おい、そこの白スーツ。我らはこの様なゲームをするのは初めて故、作法が分からぬ。どのような下知を下せばよいのか言ってみるがよい」
「そりゃ、ハグとかオッキーゲームとかが定番でごわすが、せっかく御堂筋線ゲームという名前にしているんでごわすから正面衝突とか連結とかに言い換えてもいいでごわすなぁ」
島津はゲヒゲヒとイヤらしい笑みを浮かべつつ、おかしな企画をねじ込んできた。
「不埒者!!」
突如、怒号が響き渡った。怒号の主は林冲子である。
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次回、9-5話 「眼差しに畏敬の念が含まれて」
つづきは1月26日の日曜日にアップします。