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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第九章 合コン
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9-1話 美少年とはワシのこと

 合コン会場は、なんば駅からやや歩いたところにある〈宇宙の海ちゃん〉であった。


 宇宙海賊をコンセプトにした居酒屋であり、メニューなどもツッコミ要素が多く、初対面の相手とも盛り上がりやすいのでデートや合コンには打ってつけの場所だ。事実どこのシマもテンションが非常に高い。


 しかし、例外が1つあった。


 鉄太らのシマである。


 テーブルを2つ連結させ、左右の列に男女に分れて座っているのだが、まるでヤクザの手打式かのような一触即発の緊張感が漂っている。


 唯一、場の空気が読めないクンカが「何や、みんな緊張してんのか? しゃーないなー」などと言いながら店員を呼んで勝手に人数分のビールを注文しようとする。


 鉄太は慌てて横槍を入れる。


「師匠、師匠。ワテ、アルコールあかんので、ウーロン茶でお願いします」

「しょーもない()っちゃなー。じゃあ、アンドロメダビールを11と暗黒星雲ウーロン茶1つ頼むわ」

「はい、喜んで」


 顔にマジックでサンマ傷を書いた、宇宙要素のない海賊コスプレ店員は注文を受けて去って行く。


 ぶっちゃけ飲んで飲めないこともないのだが、この連中相手に万が一にも間違いを犯したくない。


 鉄太は断固飲まないことにした。


 程なくすると、海賊コスの店員たちが普通のグラスに入った普通のビールと普通のウーロン茶を持ってきた。アンドロメダだの暗黒星雲だのは店が勝手に付けた接頭詞みたいなものであり、この全てのメニューには宇宙的な言葉が付いているのだ。


「ブラックホール冷奴(ひややっこ)とビックバンボテサラです」


 店員らがコース料理の品をつぎつぎ運んできてテーブル上だけは大いに賑わう。

「じゃあ、カンパイ行こか」


 クンカが立ちあがると、グラスを掲げて音頭を取る。


「え~~それでは、この素敵な出会いを祝しましてーーカンパーーイ!」


 しかし、他の者たちは申し訳程度に持ち上げた程度であり、誰もグラスを合わせたりしなかった。


 クンカのグラスは虚しく宙を泳いだ。


「おいおい、みんなどうしたんや? こんなベッピンさんら前にして失礼やろ。とりあえず自己紹介いってみよか。ほれ、立岩からや」


 なぜだかクンカが場を回し始めた。本来であればそれは幹事である鉄太の役目だ。とはいえ別にやりたい仕事でもないので、ありがたくはある。


「立岩鉄太、25才。満開ボーイズというコンビ名で漫才師やってます」


 鉄太は最低限の自己紹介だけして島津にバトンを渡した。すると白スーツの巨漢は立ち上がる。


「えーびーすーラジオのプロデューサー兼構成作家でごわす」


 相手に対してマウントを取りたいのか、プロデューサーの部分にわざわざアクセントを付けているのが鼻につく。


 だが、そんな彼の自尊心にヤスリをかけるかの発言がサバトの()せている方のウィッチ根民(ねたみ)から発せられる。


「え? ラジオ?」

「────どういう、意味でごわすか?」


 ヤバイ。と鉄太は思った。


 島津はテレビ局に対してコンプレクスを持っているのだ。


 鉄太は横目で、拳がギリギリと音をたてるかのように握りこまれているのを見ながら、背筋に冷や汗が流れるのを感じた。


 ウィッチ根民(ねたみ)は、空気を察したようでメニュー表を手に取ってビールを飲みだした。


 しかし、事態は収まらない。

 

「どういう、意味でごわすか?」島津は重ねて問いかける。


 このままでは収集が付かない事態になりそうである。


 さっきまで威勢のよかったクンカはオロオロするだけで役に立ちそうにない。だからと言って、進んで地雷処理をしたくないので、鉄太は「自分は置物や」と念じることにした。


 だが、島津が息を吸い込んだ時、武松子(たけまつこ)が動いた。


「どうやら、こちらの者の発言に不快のご様子。しかし、それは我らとて同じこと。我らはそこの片端(かたわ)から、合コンにテレビディレクターが来ると(たばか)られておったのだ」


「だから、そんなん言うてへんわ!!」


 鉄太は思わず叫んだ。


 なるべく関わらない方針であったが、降りかかって来た火の粉は払わねばならない。島津からの冷ややかな視線を受けながら反論する。


「ワテはディレクターとしか言うてへん」


「テレビ局から出て来た所で、ディレクターと言われればテレビのディレクターと思うのが普通であろう。こちらに勘違いさせるためにあえて言わなかったのではないのか?」


「いや、別に……そんなつもりは……」


「まぁ、その件については百歩譲るとしてもだ。問題はディレクターの他に金髪の外人と美少年も来ると大法螺(おおぼら)を吹いたことよ。そこのカツラと付け鼻の老爺(ろうや)やロン毛のデブが金髪の外人とか詐欺であろう。しかも美少年は影も形も見当たらぬ。あんまりではあるまいか」


 一気に捲し立てて肩で息をする武松子(たけまつこ)に、さしもの島津も気圧されたようで立ち尽くす。


「松子。その件については、先ほど話がついたであろう」

「分かってはいるのです。されど、されど姉者!」


 林冲子(はやしおきこ)武松子(たけまつこ)に自制を(うなが)したが割り切れないようである。


 その時、下須がおもむろに立ち上がった。


「すまんな。美少年とはワシのことじゃ」

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、9-2話 「すべては下須の手の平で」

つづきは1月5日の日曜日にアップします。

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