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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第八章 待ち合わせ
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8-4話 そいつにはドコでやるか言うてない

「ええかげんにせぇ!愚弄(ぐろう)してんのはそっちやろ!!」


 鉄太はそう叫ぶと、頭を(つか)武松子(たけまつこ)の手を振り払い、さらに言葉を続けた。


「何やその服は? やる気あんのか?」


 島津が仮装パーティーと揶揄(やゆ)したが、言い得て妙であった。


 黒のワンピースが2人、ニッカポッカ、迷彩ズボン、あと、極めつけは大咲花(おおさか)のオバハン丸出しのヒョウとか虎の顔がデカデカとプリントされた服である。


 鉄太には合コンの経験はないのだがナンパの経験は豊富にあった。ナンパスポットでナンパ待ちをしている女性は誰しも着飾っていた。異性に声を掛けてもらいたいと思うのであれば当然の身だしなみである。


 (しか)るに何故コイツらは化粧すらしていないのか?


「もしかして照れ隠し? オシャレしたら負けとか思ぉてる?」


 図星を指されたのか武松子(たけまつこ)は歯を食いしばり、グラスに注がれたワインのように顔が赤くなる。


「黙れ黙れ黙れぃ!! 我らにオスどもに媚び(へつら)えと申すか?」

「何お高くとまってんねん。お前らも芸人やろ。芸人は恥かいてナンボや」


「ぐぬぬぬぬ……だとしても、あの(やから)はあるまい。ウヌはどういうつもりで老人を連れて来たのだ」


「いやもう、正直言うわ。あそこにおる連中がワイが用意できる限界や。チェンジしたところでレベルが下がってくだけやで」


 本当のことである。他に鉄太が呼べそうな男はアイアンズの変態老人かアパートの奇人変人しかいない。


「もっとマシなの欲しいと思うなら、あそこの連中の誰かに次の合コンの幹事頼んでくれ」

「無責任すぎるであろう。約定を(だが)えればどうなるか忘れたか?」


「もう好きにせぇ」


 鉄太は吐き捨てた。合コンをセッティングできなければ、鉄太と藁部(わらべ)、開斗と五寸釘の仲を全力で邪魔するとの脅しらしいが別に問題はなかった。


 開斗と五寸釘には気の毒であるがガンバってくれと願うほかない。


 交渉決裂かと思われたその時、「パン」と手を打つ音がした。


 それまで後ろで腕組みをして静観していた林冲子(はやしおきこ)が動いたのだ。


「相分かった。あの(やから)と合コンを行うこと了解した」


 彼女の一言は噴火しそうな場をとりあえず鎮めたのだが、納得できない武松子(たけまつこ)が地に伏して泣訴する。


「姉者! このような騙し討ちごとき話を飲むとはあんまりではござらんか!」

「聞け松子。干し殺しの話を知っておろう」


 うずくまる妹分に対して林冲子(はやしおきこ)は屈みこみ、彼女の肩に手を置いて語り掛けた。


「干し殺しから解放された者は胃が縮こまっており、飯をたらふく食った者は死ぬ。死にたく無くば空腹を我慢し、一杯の(かゆ)半時(はんとき)ほどかけてゆっくり食わねばならぬ。今の我らと通ずる所があると思わぬか?」


「なるほど、するとあの(やから)は我らにとっての(かゆ)であると?」


(しか)り。悔しいが今イケメンと相対(あいたい)しても、我らになす(すべ)がないのも事実。千里の道も一歩からと申すではないか。分かってくれるな、松子よ」


「委細承知。姉者の深慮遠謀(しんりょえんぼう)には感服(つかまつ)りました。(それがし)はあの(やから)と合コンをいたしまする。皆もそれでよいか?」


 立ち上がった武松子(たけまつこ)の問いかけに他の4人は「応」と答えた。



 鉄太には彼女らが何を言っているかほとんど分からなかったが、合コンに応じたことだけは理解できた。


「ほな、こっち付いてきてや」


 それにしても、いちいち芝居がかったやり取りにウンザリする。コイツらと比べればまだ藁部(わらべ)の方がマシと思ってしまった自分が怖い。


 すでに始める前からクタクタである。鉄太は重い足を引きづって男性陣の所へ彼女らを連れて行く。



「遅かったでごわすな。婿、殿」


 極悪な笑みを浮かべた白スーツの巨漢が鉄太を出迎えた。笑天下(しょうてんした)の連中を連れて来るのに手間取っている間に、下須から藁部(わらべ)の話を聞いたに違いない。


 一番知られたくない男に隠し事を知られ舌打ちをする鉄太。上機嫌の島津は「さぁさぁ、会場に行くでごわす」と歩き出そうとする。


 ところがその時、ある重大なことに鉄太は気付いた。


「ちょ、ちょっと待って。1人足らん!」

「はぁ? 男6人、女6人、ちょうどピッタリでごわすが?」


「ちゃうちゃう。ワテは幹事やから人数外や。別にあと1人呼んでんねん」


 実は、鉄太は足りない面子を補うためアパートの住人、九頭阿久太(くずあくた)に前金千円を渡してここへ来るように言っていたのだが、道に迷っているのかバックレたのか、見渡した限りでは目に入らなかった。


「ちょっとそこら辺探してくるから先に始めといてくれる?」


 駆けだそうとする鉄太。しかし、その前に武松子(たけまつこ)が立ちはだかった。


「どこへ参る?」

「せやから、まだ1人来てないから探しに行くねん」

「不要。子供でもあるまいし遅れてるのであらば1人でこれよう」

「いや、でも、そいつにはドコでやるか言うてないねん」

「もしかして逃げるつもりでごわすか? そうは問屋が卸さんでごわす」

「逃げへんわ!」

「逃げるヤツは皆そう言うでごわす」


 抵抗虚しく、鉄太は右の腕を島津にガッチリとホールドされ、引き摺られるように連れていかれる。


 こんなことなら前金を払わなければよかったと思ったが後の祭りであった。

小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、第九章 合コン 9-1話 「美少年とはワシのこと」

つづきは12月29日の日曜日にアップします。

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