8-2話 合コンが舞台で喋れるキカッケに
とりあえず、一番の厄介者が消えたのであるが鉄太の心はそれほど軽くならなかった。
女性陣らの合コン相手に対する期待値の異常な高さを改めて知り、身の危険を感じているからである。
とはいえ、行かないわけにはいかない。
逃げたら逃げたでヒドい目に遭いそうだというのもあるが、一方で怖い物見たさという気分もある。
今回、鉄太はあくまで幹事であり合コンのメンバーではない。なので、あの濃すぎる面々の合コンを特等席で見物できるというのは、かなり面白いのでは?との思いが浮かんでいる。
まるで賞レースの結果発表前のような不安と期待が入り混じったような気持ちで、鉄太は待ち合わせ場所へ向かった。
待ち合わせ場所は難波である。
しかし、難波には地下鉄、私鉄、JRの6つの路線が集中しており、駅の出入り口を待ち合わせ場所にするとすれ違いの原因となるので、老舗百貨店の多嘉島屋の正面入り口前を待ち合わせ場所としている。
多嘉島屋の前は待ち合わせスポットになっており、相手を見つけられるかやや不安があったものの、夜9時ともなれば思ったほど人もおらず、それに、特徴のある連中ばかりなので遠目からでもすぐ分かった。
鉄太は「おばんです~~」と言いながらまず向かったのが、金髪と野球帽を被った老人2人組の元であった。
「おーおー、待っとったで」そう手を揺りながら応じたのは、金髪のカツラに付け鼻をしたドブ芸人、靴下クンカクンカである。そして、その隣で「よろしゅうな」と声をかけてきたのがクンカの元相方にして、現ウヒョヒョ座の支配人、下須一郎である。しっとりとした光沢を放つジャケットは咲神の野球帽にマッチしていないが、ヨレヨレのポロシャツの元相方とは対照的だ。
ちなみに下須は藁部の実父らしい。さきほど、藁部が態度を急変させて帰ったのだが、その原因は合コンに父が来ることを察したからと思われる。
まぁ、子供からしたら、父が合コンではしゃぐ姿を見せられるとか地獄でしかない。
とは言え、別れ間際に見せた彼女の顔から、帰ったのにはもっと深い理由があるかもしれないと鉄太は思っている。なにしろ彼女の両親は離婚しているのだ。
「立岩どん。立岩どん」
関西なまりのエセ鹿児島弁に振り返ると、そこには白スーツで決めた、いがぐり頭の巨漢がいた。えーびーすーラジオ、ディレクター兼作家の島津正太郎である。
「あ、ごわっさん。おばんです~~」
「おばんでごわす」
「おお、ディレクターはんやないかい。ごっつめかし込んどるやんけ。アンタも今日の合コンに呼ばれたんか?」
「えぇ、まぁそうでごわすが、……ところで、そちらの方はどなたでごわすか?」
鉄太が島津と挨拶していると、後ろからクンカがしゃしゃり出て来た。クンカと島津は変態球技を通じて既知であったが、この中で面識がないのが島津と下須であった。
「ワシはウヒョヒョ座の支配人の下須や」
「これは失礼したでごわす。おいどんはえーびーすー放送の島津と申します」
島津はスーツの内ポケットから名刺入れを取り出すと、下須もそれに応じて名刺交換をする。
「そう言えば、えーびーすーに島津というなかなかの漢がおるとワシの部下が言うておったが、お主やったか」
「難波にその人ありと謳われたウヒョヒョ座の支配人にお褒めの言葉を頂けるとは汗顔のいたりでごわす」
「ダハハハ、よかったら今度店に遊びに来いや。サービスするで」
「実は、お店には何度も通い勉強させていただいているでごわす」
出会ってすぐに意気投合する彼らの様子に、さすが変態同士気が合うななどと鉄太が考えていると、今度は横から名前を呼ばれた。
振り向くと2人の不審者がそこにいた。上下緑のジャージの男はチューリップハットにマスク。もう1人の男はグレーのトレーナーに紺のスエット、そして、トレーナーのフードを被って黒ブチメガネといった出で立ちである。
どやら変装のつもりらしいが、鉄太には誰だかすぐに分かった。
「第七兄さん。おばんです」
「いや、おばんですやあらへんがな。オレら4人だけの打ち合わせちゃうかったんか? ってか開斗はドコや?」
実は、先日事務所の打ち合わせの折、合コンのメンバーとして月田とヤスを呼ぼうとしたのだが結局秒で断られ、途方に暮れたところに事務所の電話が鳴った。それは、ライブ直前にも関わらず何の連絡も寄越さない満開ボーイズに対してシビレを切らせた第七艦隊、セーラー利根からのクレーム電話であった。
応対をした開斗が機転を利かせてくれ、今丁度連絡しようと思っていたところだと、白々しいウソをついて、打ち合わせをすると称して、合コンの待ち合わせ日時と場所を彼らに伝えたのだった。
「すんまへん。打ち合わせはウソです。兄さんらにはこれから合コンに行ってもらいます」
「フザけんなタコ!」
「オレら普段着やぞ!」
両名とも普段着と言うより部屋着である。
「ナメくさりやがって」
「やってられん。帰る」
「兄さんらはイップス治したないんですか?」
「何やと!?」
鉄太の投げた言葉は、怒って踵を返そうとする彼らの足を縫い留めた。
「ワテもイップスやったのはご存知やと思いますが、どうやって治した思います?」
「ま、まさか!?」
「そうです。合コンで体を慣らして行けばええんですよ」
以前、鉄太もイップスで舞台に立てなかったの本当であるが合コンで直したのはデタラメだ。今言ったことは開斗からの入れ知恵である。
悪質なやり口であるが、鉄太にしても背に腹は代えられない。
それに、合コンが舞台で喋れるキカッケになる可能性もなくはないかもしれないではないか。
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次回、8-3話 「彼女らの、余りのワガママ放題に」
つづきは12月15日の日曜日にアップします。