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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第七章 打ち合わせ
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7―4話 どうやら意識が飛んでいた

「今、何を買うと言うたんじゃ?」


 金島に正面から見据えられ、鉄太は仰け反りながら答える。


「け、け、携帯電話です」

(おどれ)のような借金持ちが携帯電話じゃとぉぉぉぉ?」


 金島は煙草の煙を鉄太の顔面に吹きかけると、開斗の方を向いた。


「どーゆーつもりじゃ? 霧崎」

「いや、何でワイに聞くねん。ワイは携帯電話なんか欲しないし」


「何でやカイちゃん! 必要かもしれへん言うてたやん!」

「言うてへんわ。言うたとしても普通の電話や」


「じゃかぁしぃ! 黙れ!」


 口論を始めた鉄太らを一喝した金島は、上長席に戻ると電卓を叩き始めた。


 何を計算をしているのか分からないが、借金の依頼を前向きに検討しているようだ。


 一安心した鉄太だが、収まらないのが開斗であった。


「おい、何勝手に決めてんねん」

「別にええやん」


「ええワケあるか! ワイらの借金は一本化されとんのや。テッたんが借金したら、ワイまで払わなアカンやろが」


「別にええやん。元々カイちゃんのが借金200万多かったやろ」

「うぐっ」


 そうなのである。去年コンビを再結成した折、鉄太が400万、開斗が600万の借金があったのだが、知らない内に一本化したとか言われたのだ。よくよく考えてみれば詐欺以外の何モノでもない。


 珍しく開斗を言い負かすことができ、気分が良くなった鉄太であったが、すぐに落胆(らくたん)させられることになる。


「おいコラ。立岩! ダメじゃ。審査落ちじゃ」

「えぇ!? 何でですの?」


「これ以上貸すと(おどれ)らが破産するかもしれん」


 驚いたことに、金島が善意のような理由で借金の申し込みを断ってきたのだ。


「オッサン。まさか貸す金が無くなったんとちゃうか?」


 ダン!!


 開斗の軽口に金島は拳を机に叩きつけた。


「ダボが。(おどれ)らの稼ぎが悪すぎるんじゃ! ワシかて本当は貸しとぉて貸しとぉて(たま)らんのじゃ! じゃが、(おどれ)らはウチの事務所の唯一の金ヅルじゃき内臓を担保にもできん」


 なんのことはない。貸せない理由は自分が1円も損したくないからのようだ。ただ、諦めきれないのか、金島はしばらく電卓を叩いていた。


「実家から土地の権利書でも持ってこれば貸してやれるんじゃがのぉ……いや、よぉ考えてみれば、(おどれ)らは漫才でサングラスかけとったな。じゃったら片目が無くなったところで問題ないか……のぉ立岩? 目ん玉担保にするか?」


 悪魔がするような取引を持ち掛けられ、鉄太はフリーズした。


 断るべきと頭では分かっているのだが口が動いてくれない。もし携帯電話を買えなければ、朝戸に口だけの男だと軽蔑されるかもしれないのだ。


 思考は無限ループに陥り、心拍と呼吸が加速度的に増加する。


「どうした? 契約すんのかせんのかどっちじゃ?」

 

 パニックになった鉄太が思わず「はい」と言いそうになった時、

「そんなコトよりオッサン。ライブどうすんのや? リハの会場押さえてあんのか?」


 突然開斗が、極めて緊急性の高いテーマをぶち込んだため、話しがそちらに流れて行った。


 リハ用に会場を押さえていないと言う金島に、噛みつく開斗。


 怒号を飛ばしあう彼らを余所(よそ)に、鉄太は深く長い溜息を吐いてソファーに沈み込んだ。


 助かったと安堵感もあれば、どうしたらいいのだという絶望感もある。さながら海難事故で助かったものの漂着したのが絶海の孤島であったというような気分であろうか。


 あまりの精神的疲労に眠気がもよおしてくる。


 事務所内で繰り広げられている喧々諤々(けんけんがくがく)とした騒々しさも、ねんねんころりよのような子守歌に聞えてしまう。


「立岩!! 何寝とんじゃ!! ダボがーーーーー!!!」


 耳元で、突如浴びせられた罵声に鉄太は飛び上がった。いつの間にか目の前に金島がいた。


「寝てないです! ちょっと目ぇつむっただけです!」

「言い訳するな。殺すぞ。立っとれ」

「ハイ!」


 ほんの少し目を閉じていただけなのに殺すとか、余りの理不尽さに(いきどお)りを禁じえない。席に戻って行く金島の背中に向かって心の中で悪態を吐く。


 また、危険がが近づいて来ることを教えてくれなかった相方と後輩に腹が立った。


 一言文句を言おうと隣に目をやると、不思議なことに開斗しか座っていない。


 月田はどこに消えたのかと辺りを見渡して見れば、何と壁際のホワイトボードの前でペンを片手に立っていた。おまけにさっきまで壁際に立っていたヤスが見当たらない。


 月田とヤスは瞬間移動の能力に目覚めたのだろうか? と、一瞬思った鉄太であったが、そんなこと有るはずがない。


「カイちゃん。ワテ、ホンマに寝とった?」

「ホンマにって何やねん? イビキ掻いとったで」

「マジで!?」


 どうやら意識が飛んでいたようだった。


 そしてその間、リハ会場の件はすでに終わっており、今は舞台構成の打ち合わせをしているみたいだ。ホワイトボードには、舞台、3時間、3部構成と書かれていた。


 3部?


 鉄太は軽く疑問を感じた。この事務所に所属する芸人は、満開ボーイズと月田ヤスのコンビであるゴールデンパンチの2組だけなので部を分けることなどできそうにない。


 そんな鉄太の心配をよそに、開斗は構成の内容を述べてゆき、月田がホワイトボードに書きだした。


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、7-5話 「確実に成長している後輩に」

つづきは11月24日の日曜日にアップします。

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