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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第七章 出場権
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7-1話 いつまで脱線してんねん

 笑月町(しょうげつちょう)のボロアパート。


 墓参りをしたその日の夜中、開斗の発案で急遽(きゅうきょ)作戦会議が行われることとなった。


 月田は作戦会議のために追い出すのも可哀そうなので、議長役で参加させることになった。ちゃぶ台の上には、いつもと違って饅頭(まんじゅう)やら果物やらが置かれている。


「それでは、〈ほーきんぐ〉の今後の活動方針を決める会議を開催します。私、議事進行役を務めさせていただく月田と申します。――何かご意見のある方、挙手お願いします」


 手慣れた感じで司会する月田。

 もしかして、鉄太がここに来る以前に、二人でよくこのような会議をしていたのかもしれない。


「はい。霧崎先輩」


 月田に指名された開斗は、合成酒の水道水割りを一気飲みしたあと、いつになく高いテンションで表明した。


「〈大漫〉にエントリーすべきやと思います」


 鉄太の心が〈大漫〉というワードに拒否反応を示す。


「今更、別に出んでもええんとちゃう?」


 鉄太が不同意の言葉を口にすると、月田がグラスのフチを、使い込まれた割りばしでコンコン叩いた。


「鉄壁先輩。発言するときは、挙手、お願いします」


 月田は設定を大事にするタイプだった。


 仕方なしに鉄太は右手を挙げ、月田に指名されてから改めて言う。


「別に出んでもええんとちゃう?」


「幻一郎兄さんに、笑林寺つぶされてもええんか?」


「え? 笑林寺つぶされるって、どういうコトっすか?」


 月田はその件について初耳だったらしく聞き返す。が、同じように挙手せずに発言した開斗を(とが)めないのは、驚いたからなのか、はたまた鉄太が開斗に比べ軽んじられているならなのか。


 おそらく後者ではないかと鉄太は思っている。


 出会った当初から、鉄太は月田に対して〝なめられてる感〟があるなと思っていた。先輩と敬称を付けて呼んでくれる以外は、ほぼ後輩に接するような態度であった。


 彼の中で、序列的に最下位に置かれているのは間違いないだろう。しかし、開斗が墓参りでの一件を簡潔に説明すると、月田は驚愕する。


「え――-っ! 鉄壁……いや、立岩先輩、亞院先生のお子様ってマジすか!? しかも、連籐(れんとう)校長のこと、を兄さんって呼ぶ仲とか……ってかなんで、墓参り誘ってくれへんかったんすか!」


「今、そんな話ちゃうやろ」


 冷静に開斗は突っ込むが、月田は興奮を隠せない様子でまくし立てる。


「亞院先生の隠し子が笑林寺にいたって話は耳にしてたんで、てっきり霧崎先輩がそうだとばっかり思ってたんすが、まさか、立岩先輩だったとは、そらビックリしますわ。

――だって、亞院先生の手刀ツッコミは、霧崎先輩が使(つこ)うてますやん」


 月田が勘違いするのも仕方がない。亞院鷲太(あいんしゅうた)は漫才師時代、手刀ツッコミで名を馳せたのだ。


「なんで、立岩先輩は、ツッコミやのうてボケなんです?」


 月田は正座をし、無垢な子供のように目を輝かせている。明らかに、先ほどまでより声のトーンが一オクターブ高いし、鉄壁先輩から立岩先輩に呼び方が変わっている。


「月田君は、亞院鷲太(あいんしゅうた)好きなん?」


 態度の豹変(ひょうへん)した月田に、戸惑った鉄太は質問を質問で返してしまう。しかし、待ってましたとばかりに月田は答える。


「そら、亞院先生はツッコミで大岩を砕いたとか、笑理学を作ったとか伝説の人ですから。自分も先生のように伝説になりたいんすよ!」


 月田の熱い気持ちに、こそばゆさを感じるものの、霧崎以外に自分の父親をこれほどまでに信奉してくれる若手がいることに鉄太はちょっと感動する。


 なぜなら、亞院鷲太(あいんしゅうた)が漫才師として活躍していた時期は、月田が小学生に上がる前であり、〈笑林寺漫才専門学校〉の校長から退いたのは、月田はおろか、鉄太や開斗が入学するより前なのである。


 おまけに今は、どつき漫才の時代でもない。


「ありがとうな月田君。ワテがツッコミやのうてボケなんはな、子供の頃にオトンと漫才したかったからやねん。――自分でネタ作って、オトンと二人でオカンの前で漫才したら、オカンがメッチャ笑ってくれてな……」


「か――――っ! 亞院先生と漫才してたとか、立岩先輩うらやましすぎますわ――――っ!」


 月田は突っ伏して、拳で畳をドンドン叩く。


「静かにせい。下のモンに迷惑やろ」


 開斗が月田に注意するのだが、月田はおざなりな返事をするのみだった。どうやら、彼の中での鉄太と開斗に対する尊敬度が逆転したらしい。


「なるほど~~。亞院先生は立岩先輩のボケの才能を見抜いてたんすね。流石っすわ――」


「そんなんちゃうで。ただの親バカや。今思えば、ネタかて丸パクリやったしな」


「オマエら、いつまで脱線してんねん。今は〈大漫〉に出るっちゅう話やろ」


 鉄太が思い出話を月田に、しんみりと語っていると、開斗が口を挟んで来た。若干のけ者のようにされていたからか、彼の声は苛立(いらだ)ち気味だ。


「ちょっと待って、カイちゃん。〈大漫〉に出るのはええとしても、何でワテらが出たら笑林寺がつぶれんくなるとかよう分からんわ」


「ええか。よう考えてみい」


 開斗は一呼吸おいて話を続ける。


つづきは明日の7時に投稿します。

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