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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第六章 面子
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6-3話 師匠には、金髪のヅラと付け鼻で

 島津から5千円せしめた後、満開ラジオの収録を終え、〝えーびーすー放送〟を後にした鉄太と開斗は、通りを挟んで向かい側にある〝えーびーすーテレビ〟に向かった。

 

 オーマガTVに出演するためで、先日の始球式のプレーバックにコメントする役目である。


 どんだけ(こす)るつもりだと思う鉄太であったが、これも開斗と五寸釘の明るい未来のため、そして何より朝戸イズルに会うためだ。


 番組では、肉林(にくばやし)の下品なイジリに辟易(へきえき)したが、前と同じく段ボールに張り付けた手書きのポスターでライブの告知も行い、スタジオを後にした。


 エレベータを降りてロビーを歩いてる所で開斗から話しかけられた。


「テッたん。肉林(にくばやし)兄さんかスタッフ誘う言うてへんかったか?」


「あ~~そやったけ? 忘れとったわ~~」

「何やそのヘタな芝居は。人見知りでもあるまいし」


「芝居ちゃうし」


 抗弁する鉄太であったが、テレビスタッフを合コンに誘わなかったのは意図的であった。


 深い意味はない。


 ただ単に自分が合コンを催していることが朝戸の耳に入る可能性があると、ふと思ったからである。


 彼女に〝あんなの〟と合コンするなど知られては、女なら誰でもいい色魔というイメージを持たれかねない。


 特に肉林の口から流される話であれば、どのような尾ヒレが付けられるか分かったのもではない。


「カイちゃん。他に誰か誘える人知らん?」

「アパートの連中でも誘えばええやろ」


「無理や。アイツらが3千円払えると思うか?」

「さっき、ゴワっさんからがめた2千円があったやろ。最悪、自腹で千円足して全額奢ると言えばホイホイ来るやろ?」


 確かに日銭に事欠いているアパートの連中ならば、食事を奢ると言えば二つ返事で応じるとは思う。だが、あの連中に3千円払うのはもったいないと思った。何しろ鉄太は先日財布の中身を空にしているのだ。


 そう言えば、林冲子(はやしおきこ)は責任を取って自分たちに合コンに参加しろと言っていたことを鉄太は思す。


「カイちゃん。合コンに出てくれる?」

「アホぬかせ。自分が行け」

「そう言わんと。千円あげるから」

「1万でも無理や」


 言い合いをしながらビルの外に出た二人。


 日の入りまではまだ1時間ほどあるのだが、周囲に林立するビルに阻まれて、街には一足早く夜が訪れている。


 彼らは次の目的地である金島の事務所に向かうため、地下鉄なんば駅に目指そうとする。


 ところが、突如、「あいや待たれよ。そこの御仁」と後ろから呼び止める声がした。


 鉄太には振り返らずとも、声の主が誰だか分かった。実生活でそんな大仰な言葉遣いする人物はアノ連中しかいない。


 そして、呼び止められる理由について、絶対ロクなコトではないと確信がある。


 なので、このまま知らんぷりをして去ろうとしたのだが、10歩進んだ所で後ろから猛然と追い抜かされて行く手を塞がれた。


「待てと言うておろう! クソ虫が!」


「何の用ですか? こっちはこれから事務所に行かなあかんので忙しいんですが」


 辟易(へきえき)しながら返事をする鉄太。果たして彼が目にした人物は予想に違わず梁山泊(りょうざんぱく)の2人であった。


 彼女らは先日公園で出会った時と同じく、それぞれニッカポッカと迷彩ズボンを穿いており、髪の毛もショートカットなので、近くで見ても男のようである。


 迷彩ズボンの女、武松子(たけまつこ)が一歩進み出ると鉄太らにこう告げた。


「相済まぬ。実は合コンの件で緊急で伝えねばならぬことが起きたので、こうして出待ちをしていた次第だ」


「もしかして、中止になったんですか?」


 反射的に願望が口から出た鉄太であったが、「あるわけなかろうが! この痴れ者!」と一喝され、それどころかさらなる困難を突き付けられた。


「大した話ではない。こちらの女子が2人増えるので、そちらのオスも2匹追加で頼む」


「大した話やろ!! 3人集めるだけでもどんだけ苦労したと思ってんねん!」と絶叫する鉄太。


 折角あと1名の所まで来たのに2名追加とか、まるで双六(すごろく)で振り出しに戻されたような気分である。


「こちらも無理を言っているのは重々承知しておる。故に、難しいのであれば、今、追加と申した2人は次回で構わぬ」


「いや、次回って何やねん」


「6対6の合コン1回か、4対4の合コンを2回か、好きな方を選べと申しておる」


「じゃ、じゃあ、1回の方で……」


 鉄太は苦渋の選択をする。どちらも嫌だが、2回目を受けると3回、4回と増えていく恐怖がある。


 武松子(たけまつこ)から承知の返事を聞いた鉄太は「ほな」と言って去ろうとするが、林冲子(はやしおきこ)に呼び止められる。


「何ですか?」


「先ほど3名集まっておると申しておったが、どのような連中を(そろ)えたのか聞かせてくれまいか?」


 腕組みをする彼女からは(わず)かに殺気が()れ出ている。


 ジジイ2人と百貫デブ1人と回答するのが正直者と言えるが、そんなことを口走っては相手の激怒を買うことは目に見えていた。


 鉄太は脳みそをフル回転させ、島津と下須とクンカから長所に聞こえる単語を絞り出す。


「……ディレクターと、美少年と、外人や」


天晴(あっぱれ)である!! 合コンとは生涯の伴侶を見つけるための聖なる儀式! にもかかわらず、場末の笑パブのドブ芸人を集めてお茶を濁すつもりではないかと危惧しておったのであるが、いや感心感心」


 彼女らの人生のコイン全てをベットするような意気込みを聞いて頭が痛くなった。


 鉄太の認識では、合コンとは一夜限りの火遊び相手を見つけるパーティーの(たぐい)である。今の所、男性メンバーに生涯の伴侶にふさわしい者など1名もいないのだ。もっと軽く考えてもらわねば困る。


 そのことを伝えようかと迷ったのだが結局やめた。


 例え一夜の遊び相手としても全員及第点には遠く及ばないことに気付いたからだ。


 そんな鉄太の心中を知らないであろう梁山泊(りょうざんぱく)の2人は「ではよろしく頼む」と上機嫌で去って行った。


 大きなため息を吐いた鉄太に、開斗が問いかけてきた。


「ええのか? あんな大嘘。ってか外人って何やねん。全員コテコテの日本人やろが」

「クンカ師匠には金髪のヅラと付け鼻で来させる」

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次回、7章 打ち合わせ

7-1話 「何時、何処で、誰に何枚売ったんや」

つづきは10月27日の日曜日にアップします。

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