6ー2話 合コンの話にホイホイ乗って来る
「ゴワっさん。こんなん読まれへんで」
鉄太は手にしていた一番マシと思えるな投稿ハガキを放り投げる。スナップを利かせて投げられたハガキはクルクルと回転しながら机の上を滑り、ディレクター兼放送作家である島津の前で止まった。
ちなみに、これ以外の投稿ハガキには放送禁止用語や、法に触れそうな性癖などが綴られており、女性に見せたら間違いなくセクハラと訴えられるレベルである。
鉄太からの苦情に、いがぐり頭の巨漢は、関西弁のイントネーションで「どうしてでごわすか? 放送は深夜だし問題ないでごわしょ」と応じた。
満開ラジオには、鉄太がオーマガTVの街の奇人のコーナーに出て、どえらい変態と紹介されて以来、変態的な投稿が届くようになった。
前回放送で変態的な投稿をするリスナーたちに「2度と送ってくるな」と厳しく伝えたのだが、フリと思ったのかかえって変態投稿が増える始末である。
というか、この手の投稿はまず作家が弾いて、パーソナリティーの目に触れさせないようにすべきではないのかと鉄太は思った。
「下品な投稿ばっかり読んどったら、リスナー減るんとちゃうか?」
「投稿は増えてるでごわすから、むしろリスナーは増えてるかもしれないでごわす」
「ゴワっさん。もしかして、ワテの好感度、落としにかかってる?」
「それは買いかぶりでごわすよ。どえらい変態の立岩どんには落ちるほどの好感度はないでごわす」
まるでケンカを売ってきているような発言にさすがの鉄太もムカついた。援護を期待して開斗の方を見れば、相方が侮辱されているというのにニタニタと笑みを浮かべており、2人のバトルを楽しんでいるようである。
「そう言えば、小耳に挟んだのごわすが、立岩どんがイズルちゃんをアパートに引っ張り込んだというのは本当でごわすか?」
突然、島津が多分に非難の感情が含まれるニュアンスで、仕事に関係ないことを問い質して来た。
一体どこからその話をと思った鉄太であったが、そういえばアパートにはスパイがいのだった。
6号室の武智呉郎は、島津がリーダーを務める大咲花アイアンズという変態球技集団の構成員なのだ。
おそらく、朝戸イズル来訪時に居合わせた住人の誰かから話を聞いた武智が、島津に報告したに違いない。
「イズルちゃん来たんは昼間だし問題ないやろ」
朝戸は開斗に会いに自らアパートに来たわけで、伝聞の内容には大きな間違いがあるのだが、悔しがせたいので、鉄太はあえて訂正せず、煽るような返しをした。
果たして効果は絶大であった。
「……問題ない? 立岩どん。もしかしておいどんとの約束を忘れてるでごわすか?」
地獄からの怨嗟のような声を絞り出した島津は、鉄太を睨みつけた。充血した目から血涙が吹き出すのではないかと思えるほどだ。
薬が効きすぎたことにビビリつつも、鉄太は平静を装う。
約束というのは、鉄太が朝戸イズルにアプローチすることを黙認する代わりに、彼女のモデル仲間を紹介しろというとんでもなく身勝手な要求のことである。
忘れてはいないが、そもそも守るつもりはなかった。
だが、そんなことを口にできようはずもないので、どうやっていなそうかと思ったその時、雷光のように妙案が閃いた。
鉄太は目を伏せて右手で口元を隠しながら、囁いた。
「実は、イズルちゃんの知り合いに舞台女優がおってな。その女優仲間が合コン開く言うてんのやけど……ゴワっさん、興味ある?」
「ほほう。興味がないと申さば嘘になるでごわすな」
「次の日曜日やけど、さすがにちょっと急すぎる? 仕事あるなら無理にとは言わんけど」
「他ならぬ立岩どんの頼み。万難を排す覚悟でごわす」
「場所は大咲花スタヂアム駅前の居酒屋〈宇宙の海ちゃん〉や。次の日曜の夜9時からで……参加費用は5千円や」
「承知したでごわす」
「…………」
「……立岩どん。この手は何でごわすか?」
「いや参加料」
「領収書くれるでごわすか?」
「領収書て……もしかして、経費で落とそうとしてる?」
「人聞きの悪いコト言わないで欲しいでごわす。参加料は当日で構わないでごわしょ?」
「別に構わんけど先着4名やで。この収録の後、えーびーすーテレビに行くからオーマガTVの肥後Dとかにも声かけよう思ってんけど」
「分かったでごわす」
露骨に舌打ちをした島津は、財布から1万円紙幣を取り出しお釣りを要求してきた。
ところが、鉄太は5千円という大金を持ち合わせておらず、島津は両替のため楽屋から出て行った。
すると開斗があきれたように非難してきた。
「テッたん。またしょうもないウソ吐いたな」
「何がや。ウソなんて言うてへんよ。イズルちゃんと五寸釘が知り合いなのはホンマのことやし、五寸釘は広い意味で言うたら舞台女優やろ?」
「ほな、参加費は? 3千のとこ5千て。2千ぼってるやん」
「いや、まぁそら、別にええやろ。手間賃や手間賃。そんくらいのご褒美ないとやってられんわ。文句言うならカイちゃんが集めてや」
「文句はないけど肥後D誘うってマジか? あの人、ゴワっさんのこと嫌いやろ。絶対トラブルになるで」
言われてみれば、始球式の待ち時間、肥後Dと島津が鉢合わせした時、相当な険悪なムードだった。面倒ごとは御免である。
「そやな。誰か他のスタッフか肉林兄さんにでも声掛けてみるわ」
肉林とは先輩芸人である。
女癖が悪くて有名な彼ならば、合コンの話にホイホイ乗って来るに違いなかった。
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次回、6-3話 「師匠には、金髪のヅラと付け鼻で」
つづきは10月20日の日曜日にアップします。