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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
ディナーショー
186/228

4-7話 当然誤魔化すことにする

「どんだけ男に必死やねん」


 そうツッコんだのは藁部(わらべ)だ。当を得たその言葉は、男やもめの先輩芸人らを瞬時に色めき立たせる。


 だが、開斗が一触即発の空気をなだめるように「分かった分かった。だったら男を何人用意すればええのか教えてくれるか」と提案した。


 すると、林冲子(はやしおきこ)は脇に控えている細身の女に目くばせした。


 細身の女こと、サバトのウィッチ根民(ねたみ)は一歩前に進み出ると説明を始めた。


「こちら参加は4人や。そっちも男4人を集めてくれ。場所はすでに押さえてある。日時は5月27日、日曜日の夜9時から、参加費用は1人3千円やで。詳しいことはコレに書いてあるから後で見といてな」


 彼女はカバンから便箋を取り出して開斗に渡そうとしたのだが、それを横から五寸釘が奪い取った。


「5月27日て、あと5日しかあらへんやん。いくらなんでも急すぎるやろ!」


「時間はいくらでもあったのだ。面子(めんつ)をそろえられぬのであれば、そこのオス2匹に責任をとって合コンに参加してもらうほかあるまい」


「そんなん勝手すぎるわ!」


 五寸釘と林冲子(はやしおきこ)が睨み合っているところ、開斗が割って入った。


「分かった。その条件でOKや」

「せやけど、兄さん」

「大丈夫や大丈夫」


「今の言葉(しか)と聞いた。もし、約定()えることあらば、我ら〈赤い糸を黒く染める会〉ウヌらの仲を全力で邪魔すると覚えておくがよい」


 開斗の返事に満足したようで林冲子(はやしおきこ)啖呵(たんか)を残すと、仲間を引きつれて去っていた。



「ちょっとカイちゃん。あんな安請け合いして大丈夫か?」


 嵐が過ぎ去り再び芝生の上で団欒(だんらん)が始まった。しかし、流石に心配になった鉄太は相方に尋ねたのだが、とんでもない返事が返って来た。


「あぁ、テッたん。合コンの面子(めんつ)集めよろしくな」

「はあああああああああああ!? 何でワテが? カイちゃんが受けたんやからカイちゃんが集めてや」


「何でって、貸しが1個あったやろ」

「いやいやいやいや、そんなんズルイわ。卑怯やわ。絶対イヤや」

「昨夜の件、オッサンに報告するで。ええのか?」

「すればええやん。仕事間に合ってんのに怒られる筋合いないし」


 理不尽極まりない丸投げに鉄太は力一杯(あらが)った。すると開斗は、取引材料をムチからアメに変えて来た。


「ほうか、もし面子(めんつ)集めやってくれるなら、携帯電話の件、考えてもええで」


 それは鉄太にとってかなり魅力的な提案であった。思わず2つ返事をしそうになるが(すんで)の所で思いとどまった。というのも、面子(めんつ)確保のための期間が短いという他に、もう1つ重大な懸念事項があったのだ。


「言うとくけど、ワテらのライブ来週やで。覚えてる?」


 そうなのである。


 1週間後の5月29日、火曜日に、デュエルシティ大咲花(おおさか)で事務所主催のライブが催されのだが、そのライブは問題が山積(さんせき)しているのだ。


「チケット売れてへんし、構成決まってへんし、リハの予定も立たんし、カイちゃんコレどないすんの?」


「なるようになるやろ。全てはオッサンの責任や。ところで、今、気ぃ付いたんやけど、リハの時間って押さえてんのか?」


 普通であれば、ライブを行う会場で、リハーサルをするための時間を別に取っておいたりするものだが、そんな話は聞いていない。


「もう詰んでるやん」

「せやな」


 2人の間で、(あきら)めの混じった虚無感が漂う。


 パン!


 突如、五寸釘が手を打ち鳴らした。そして、「兄さん。チケット10枚欲しいんですけど、おいくらです?」と言った。


「ちょっと待て。話聞いとったんか? 人に見せれるような舞台にならんぞ」

「そんなことはどうでもええんです。私は兄さんの漫才をみんなに見て欲しいんです」


「……ありがとうな、五寸釘。テッたん。チケット10枚やってくれるか」


「あ、あぁ、分かった。1枚千円やから10枚で1万円やけど……ホントにええの?」

「ええですよ」


 彼女の最終的な同意を確認した鉄太は、相手の気が変わらない内に事を済ませてしまおうと急いでカバンからチケットを取り出す。


 五寸釘から代金を受け取り「おおきに」と、取引が完了した所で、今度は藁部(わらべ)が「なら、ウチは20枚もらうわ」と言い出した。


 財布から取り出した2万円を鉄太に向かって突き出す。


 あっけに取られつつ、鉄太は金を受け取り、チケット20枚手渡した。


「お礼の言葉は?」

「お、おおきに」


 少し前まであった、二人の間の気まずさは、なんとなくうやむやになったような気がする。

 

 藁部(わらべ)から咲夜の件をまだ謝られていない鉄太は、いまいち釈然としないのだが、だからといって蒸し返すのも面倒くさいので、現状を受け入れることにした。


 鉄太はごく自然に藁部(わらべ)の持ってきたバスケットからサンドイッチを食べ始めた。


 藁部(わらべ)の何か言いたげなニヤついた顔を見た時、しまったと思ったがもう遅い。感謝の言葉や、味の感想を要求されると思ったのだが、彼女が口に出したのは意外なことだった。


「それはそうと、さっき言うてた携帯電話の件ってなんの話や?」


 開斗がサラリと言った取引材料の件を覚えていたようだ。説明したらロクな展開にならなさそうなので、当然誤魔化すことにする。


「トップシークレットや」

「教えてくれてもええやろ。テッたん」

「テ、テッたん!? まだそんな仲ちゃうやろ。せめて立岩兄さんと呼んでくれるか?」

「ええやろ。チケット()うたったやん。お兄ちゃん」

「お兄ちゃんヤメロ! 立岩兄さん言うてるやろ! それに、それとこれとは話が別や」


 鉄太はソッポを向いた。

 藁部(わらべ)は鉄太のサンドイッチを食べる後ろ姿を嬉しそうに眺めていた。


小説家になろうの評価の☆や感想を頂ければ、励みになりますのでよろしくお願いします。


次回、5-1話 「部屋借りて二人で生活してみたら」

つづきは8月18日の日曜日にアップします。

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