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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
ディナーショー
185/228

4-6話 どんだけ男に必死やねん

「ヒューヒュー。お熱いねぇ」

随分(ずいぶん)と見せつけてくれるやないかい」


 周囲にカップルが沢山いる中で、チンピラたちはあきらかにを自分たちを標的にしていた。そして、あまりにベッタベタのコントのような展開に、もしかしてこれも開斗の仕込みかと思ったが様子が変だ。


 4人の乱入者は、中2人は大柄であり、片方は迷彩ズボンで、もう一方はとび職が履くような(すそ)がダボダボのニッカポッカという出で立ちで、見るからに(やから)である。また、脇2人は中背であるが、片方が細身でもう一方は太っていた。そして両名とも黒いワンピースである。


 ただ、何故、女連れの(やから)が「見せつけてくれる」というような因縁を付けてきたのだろうか?


 鉄太の思考回路がショートしそうになる。


 しかし、この4人、どこかで見たことあるシルエットだなと思っていると、丑三つ時シスターズの2人が立ち上がった。


 そして、五寸釘がチンピラたちに一喝した。


「姉さん方、ウチらの後、付けて来はったんです? それに一体何のつもりですか? 通報しますよ」


(んん? 姉さん!?)


 五寸釘の言葉で鉄太の記憶の地層から合致する人物が掘り起こされた。


 彼ら、ではなく彼女らは笑天下過激団しょうてんしたかげきだんの漫才コンビ、梁山泊(りょうざんぱく)とサバトの2組に違いない。


 彼女らは五寸釘の発した警告に動揺した様子が窺えた。しかし、ニッカポッカを穿いた者が他3人を一喝した。


「狼狽えるな! 我らの目的を忘れたか」

「とは言え姉者、官憲を呼ばれては、ちと厄介なことになりませぬか?」


 どうやらニッカポッカの人物がリーダー格のようだ。となると、おそらくアレが林冲子(はやしおきこ)ということになり、迷彩ズボンの方が武松子(たけまつこ)ということになる。

 

 どうでもいいが、彼女らは普段から大仰な言葉遣いをして、男物の服装を好んで着ているのだろうか?


 いずれにせよ、笑天下(しょうてんした)内の揉め事であれば、丑三つ時シスターズが対処すべき案件である。藁部(わらべ)の対応に困っていた鉄太にとっては、むしろ好都合であった。


 高みの見物としゃれこんだ鉄太は、無意識にバスケットのサンドイッチに手を伸ばし頬張り始めたのだが、林冲子(はやしおきこ)はこちらを向くと、周囲に聞えるような声でこう言った。


「よいか。当方において通報は一向に構わん。むしろ通報されて困るのはそこのオス共よ」


 自分にも矛先が向けられて、あやうく噴飯しそうになる鉄太。


 藁部(わらべ)が、かばうように立ちはだかると「何ワケの分からんこと言うてんねん! しばくぞ!」と叫んだ。早くも狂暴化のスイッチが入ったようである。


 先輩芸人に対して考えられない口の利き方だ。


 それが、笑天下(しょうてんした)の社風なのか、藁部(わらべ)の性格によるものなのか、藁部(わらべ)がオホホグループご令嬢であることなのか、はたまた、丑三つ時シスターズが大漫才ロワイヤルの決勝に出場したほどの実力があることなのかは不明であるが、林冲子(はやしおきこ)は、無礼な後輩に言葉を荒げるでもなく、


「そこのオス共は我らとの約定を未だ履行しておらぬ。つまりは嘘つきよ。嘘つきは泥棒の始まり。泥棒は警察に逮捕されるのだ!!」


 と、言い放った。


 3人分の拍手が沸いた。


「何やその頭のオカシイ三段論法は。脳みそにウジでも湧いとんのか?」


 そう的確にツッコんだのは開斗だった。ツッコミたくなる気持ちは分からなくもないが、ここは五寸釘らに任せておいてほしかったと鉄太は思った。


 案の定、開斗の言葉に4人は激高した。


「黙れ黙れい! 乙女の純情を弄びおって。この嘘つき共が!」

「せやせや!」

「スケこまし!」

「うすらデブ!」


「だから何の話や。もっと詳しく説明せい」


 開斗は白杖を手に立ち上がり前に出た。五寸釘はごく自然な感じで開斗に寄り添った。すると藁部(わらべ)が何か言いたげに振り向いて来たが鉄太はソッポを向いた。


 林冲子(はやしおきこ)は、目の前のリア充に敵愾心を燃え上がらせながら、嘘つき呼ばわりする理由を述べる。


「忘れたとは言わさぬぞ。ウヌらは始球式が終わってから合コンを開くと我らと約束したであろうが」


 言われて鉄太は思い出した。以前、笑天下(しょうてんした)劇場で楽屋挨拶に行った際、確かに彼女たちとそのような約束をしたことを。あともう一つ、彼女ら4人が〈赤い糸を黒く染める会〉なる反社会的な結社の構成員であることも。


「は、はぁ!? 忘れてへんわ……っていうか始球式からまだ2日しか経ってへんやろが」


 言い訳する開斗であったが、完全に忘れていたように思えた。


「否、否、否! 〝2日しか〟ではなく〝2日も〟であろう。別に我らも始球式が終わった直後に合コンを開けとは申しておらん。ただ、約定を真摯に遂行しようとの気持ちがあらば、調達する人数や合コン場所の相談をすでにしていなければおかしいのではないか? 如何(いか)に?」


 あらかじめ理論武装していたのかニッカポッカの女は立て板に水のごとく口上を述べた。


「どんだけ男に必死やねん」


 そうツッコんだのは藁部(わらべ)だ。当を得たその言葉は、男やもめの先輩芸人らを瞬時に沸騰させる。


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次回、4-7話 「当然誤魔化すことにする」

つづきは8月11日の日曜日にアップします。

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