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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
ディナーショー
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4-5話 4つの影が現れた

 (うつぼ)公園とは、四つ橋筋に接し、北新地と心咲為橋(しんさいばし)のちょうと中間あたりにある大きな公園だ。飛行場跡地に作られたゆえに異様に細長くもあり、それが(ため)、なにわ筋で東西に分断されている。そして公園の東側はケヤキ並木とバラ園、西側はサッカー場とテニスコートがあり、市民の憩いの場として親しまれている。


 ちなみに(うつぼ)とは矢を携帯するための武具の名前であり、魚のウツボの語源でもある。


 公園東側に入った鉄太は入り口付近に空いているベンチを見つけ座ろうとする。


 ところが、開斗は折角だから奥のバラ園に行こうと言い出した。(うつぼ)公園のバラ園は5月中旬の今の時期は丁度見ごろだからとのことである。


「目ぇ見えへんのに行っても面白(おもろ)ないやろ」

「見えへんでも香りを楽しめるやろが」

「パン半分食べるだけやろ? いつからそんな風流な人間になったんや?」


 相方に不審な気持ちを抱きながら歩を進める鉄太。


 園内の所々に立つポール灯は、庭内で咲き乱れる薔薇を闇夜に浮かびあがらせ。幻想的な雰囲気を醸し出している。


 この光景を楽しむためか、夕食時を過ぎているにも関わらずバラ園にはまま人はいた。


(たまには、こういうのもええか)


 と、思ったのもつかの間、鉄太は自分たちが飛んでもない間違いを犯していることに気が付いた。


 よくよく見てみれば、そこかしこにいる連中はすべてカップルであった。


 こんなムード(あふ)るる所に男二人。場違いなんてものではない。


「カイちゃん。カイちゃん。アカンて。やっぱ入り口に戻ろ」

「何でや?」


「何でって……ここはカップル専用みたいなもんや。ヘタすりゃノゾキや思われて通報されんで」


 鉄太は小声で怒鳴たのであるが、開斗涼しい顔で「なら問題ないやろ」と口にした。


「えぇ!? カ、カイちゃん……まさかソッチの人やったんか? でも、ワテには心に決めたイズルちゃんという人が」


「ちゃうわアホ!」


 一体どういうことかと、鉄太が相方の真意を測りかねていると、開斗は入り口の方に向かって、


「おーい! こっちやこっち!」


 人目をはばかることなく大声で呼んだ。


 すると、薄闇から二つの女性らしき人影がこちらに小走りで向かってくるのが分かった。


 一人は長身。もう一人は子供のように背が低い。


(ま、まさか……)


 長身の女性は手前まで走りよると頭を下げた。


「ごめんなさい兄さん。お待たせしました」

「かまへんかまへん。ワイらも今来たとこや」


 現れた二人の女性とは、言うまでもなく丑三つ時シスターズの二人であった。


 五寸釘は鉄太から開斗を奪い取ると早速イチャコラし始めた。一方、藁部(わらべ)はというと、昨日のことがあってか鉄太から少し離れた位置でモジモジしている。


()められた!)


 ホテルを出る辺りからしばしば、開斗の言動に違和感を感じていたが、つまりはこういうことだったのだ。


 (ほぞ)()む思いをする鉄太。


「カイちゃん。もしかしてホテルで電話したのは事務所やなくて五寸釘にか?」


 最初(はな)から金島には報告などしていないということだ。恨むような口調で問い質すと、開斗は両肩をすくめるとこう言った。


「あたりまえや。一晩帰ってこんかったくらいで、あのオッサンに言うわけないやろ。話がややこしくなるだけや。1個貸しやで、テッたん」


 金島に告げ口しなかったのはありがたいが、さりとて丑三つ時シスターズとWデートさせられるのはいかがなものか。


 鉄太の不満を余所に上機嫌の開斗は「ほな。メシでも食おか」と言った。


 菓子パン半分でメシも何もないと鉄太は思ったのだが、「あり合わせの物詰めただけなんで、お口に合うか分かりませんけど」と、五寸釘が手にしていたバスケットを持ち上げて見せた。


 振り返って見れば、藁部(わらべ)もバスケットを持っていた。


 どこまでも開斗の手の平で踊らされていたことにムカついた鉄太は、「どこで食うねん」と、ささやかな抵抗をする。


 バラ園のベンチはカップルたちが愛を囁き合っており、空いているベンチなどないのだ。しかし、五寸釘に芝生の上で食べることを提案され、それはあえなく(つい)えた。


 緑の絨毯の上に鉄太と藁部(わらべ)が隣あって座り、少し離れて開斗と五寸釘が隣り合って座った。


「こんなことならシート持ってくるべきやったわ。すいません兄さん」

「かまへん。急な無理言うたのはこっちや」


 隣でバカップルがイチャつきながら弁当を食べ始める。


 こちらはというと、藁部(わらべ)が無言で、食べろとばかりに開けたバスケットを押し付けて来た。


 バスケットの中には耳パンではないサンドイッチが詰められており、空腹の鉄太には途轍(とてつ)もないご馳走に見えた。


 しかし、食べてしまったら負けのような気がしてならない。というか、まずこの重い空気をどうにかしたいのだが、ヘタなことを言って好感度を上げるのは避けたかった。


 苦悩する鉄太。


 と、そこへ、


「ヒューヒュー。お熱いねぇ」

随分(ずいぶん)と見せつけてくれるやないかい」


 チンピラ風の台詞と共に4つの影が現れた。

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次回、4-6話 「どんだけ男に必死やねん」

つづきは8月4日の日曜日にアップします。

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