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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
ディナーショー
182/228

4-3話 井の中の蛙、大海を知らず

「ネクストステージ ジャパニーズコメディアン マンカイボーイズーー」とのアナウンスが流れると、スタッフがゼスチャーで〝行け〟と指示を出して来た。


 鉄太は開斗の背中をポンと叩くと、「どうも~~~~」と声を張り、舞台袖から駆け出した。数歩遅れて開斗も付いてくる。


 2人がステージのセンターに据えられたマイク前で整列すると、一呼吸おいて開斗が叫ぶ。


「ワイら!」


 続いて鉄太も『満開、ボーイズ!!』と唱和しながら満開ポーズを行う。


 ちなみに満開ポーズとは、「満開」の掛け声で、右手を顔の隣で開いて花が咲いているイメージを作り、最後に「ボーイズ~~」の所で、それぞれ、右腕と右足を使ってアルファベットのBを形作るというモノだ。


 また、満開ボーイズの名付け親である後輩芸人の月田が考案したツカミの自己紹介ギャグであるのだが、鉄太は好んでいない。


 かれこれ半年ほどやっているが未だに抵抗感がある。


 羞恥心(しゅうちしん)を押し殺しながら鉄太は、拍手と歓声の量と客の表情の変化の少なさを見て取り、初めまして系の挨拶をしようと判断する。


〈大漫才ロワイヤル〉で優勝し、大咲花(おおさか)ではかなり知名度が高い満開ボーイズであるが、大咲花(おおさか)に旅行に来る人にはまだまだ知られていない。


 いくら全国ネットの笑戸(えど)のTV局に出演していたことがあっても半年程度ではこんなものであろう。


 恐らく、旧コンビ名〝ほーきんぐ〟を名乗れば思い出してくれる客もいるだろうが、腕切断事件と言う負のイメージを抱かせるのはデメリットの方が大きいので口に出したりはしない。


「え~~。初めましての人も多いと思いますんで自己紹介させてもらいます。ワテは満開ボーイズの鉄太と言います」


「そしてワイが開斗です。よろしくお願いしますぅ。名前だけでも憶えて帰って下さいね」


 そして、鉄太がネタのマクラに入ろうとした時、中ほどのテーブル席の女性から「あっ! どえらい変態の人じゃない?」と指をさされた。


 これが、客が大咲花(おおさか)人ばかりの笑パブの舞台であれば「誰がどえらい変態やねん!」と怒鳴ってもウケるだろうが、他県民が集うような場所では空気が凍り付くだろう。


「ありがとうございます~~」


 内心はともかく、にこやかに応じる鉄太。


 始球式したのはまだ一昨日の話であった。もしかしてあの試合を見に遠方から泊りがけで来た人だろうか?


 鉄太は予定していたマクラを変えることにした。


「そう言えば一昨日なんですがワテら、野球の始球式やらせてもうたんですよ。欣鉄(きんてつ)対オーイェー戦です。見に行かはった人いてます?」


 すると、先ほど指を差した女性がいるテーブル席の人たち他数名が手を上げた。営業の舞台では、客とのコミュニケーションは会場を盛り上げるテクニックである。


「おおきに、おおきに。ありがとうございます~~。でも、ちょっと、知らん人に説明させてもらいますと、始球式言うても普通の始球式ちゃいますよ。ウチのカイちゃんはこう見えて高校野球でエースやってって甲子園手前まで行ったこともあるんです。それがなんやかんやあって、元メジャーリーガーのフーネ選手と真剣に1打席勝負したんですわ」


「あと、コイツがパンイチになって、体でボールを受け止めるから、どえらい変態言われてます」


「いらんこと言わんでええねん! 誤解するやろ。言うときますけど、テレビに無理矢理やらされてるんです。仕方なくやったんです」


 開斗が「でも、」と口にした瞬間、まだ、どえらい変態の話をひっぱろうとする気だと察して鉄太は、


「そんなことより、どうやった? 大リーガーに投げてみて!」と、大声でかぶせて強引に話を転換した。


 マクラを即興で変更したため、ここから本ネタへの流れはネタ合わせでなかったのであるが、そこは長年コンビを組んでいる仲である。


 開斗ならば意を汲んでくれるはずと鉄太は信頼していた。


「流石フーネ選手や。素人に毛が生えた程度のワイじゃ手も足も出んかったわ」


 話を潰されて不満気であったものの開斗は期待に応えてくれた。鉄太は本ネタにスムーズに入る。


「なるほど。それは(ことわざで)言う、ナニの中のアレってやつやな」

「なんやそれ。1つも分からんわ。 もしかして〝井の中の(かわず)〟のことか?」


「そうや! それそれ、胃の中のオカズや」

「オカズちゃうわ。(かわず)や。言うとくけど、(かわず)っちゅうのはカエルのことやで」


「えぇ!? カエル食べるの?」

喃照耶念(なんでやねん)! 井の中の井は、井戸の井や!。〝井の中の(かわず)、大海を知らず〟言うて、井戸の中のような狭いところで育ったカエルは、大きい海のような世界を知らないっちゅう(たと)え話や。ま、お山の大将を気取ってる奴への皮肉やな」


「ふ~~ん。カイちゃん物知りやな」

「これぐらい普通や。テッたんがアホなだけや」


「ところで、カエルって海におるの?」

「は?」

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次回、4-4話 「財布の中身を空にして」

つづきは7月21日の日曜日にアップします。

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