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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第二章 来訪者
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2-5話 テッたんが、携帯買うか買わへんか

すみません。掲載日の予約間違えて1週早くアップしてしまいました。

 しかし、朝戸はめげずに「電話番号って何番ですかぁ?」と話しかけた。


 開斗は大きく溜息を吐き出してから答えた。


「あんなぁ。ワイらとアンタじゃ住む世界が(ちゃー)うんや。見てみいこの部屋。テレビも電話もあらへんや……」


「そんなことないですよ~~。同じ世界に住んでるから、こうして会えてるんじゃないですかぁ」


 なんと朝戸は開斗が答え終わるのを待たずに反論した。鉄太はまたフォローしなければと焦ったが、その必要はなかった。彼女は芸能生活が長いためか相当な強心臓の持ち主だった。


 鉄太は吹き出した。


「あはははは。カイちゃんの負けや。イズルちゃん、いつでも遊びにきてや。大歓迎やで。確かに今電話ないけどな、近い内、ケータイ電話でも買おかと思うてんねん」


「え~~! スッゴ~~イ! ホントですか~~?」

「もちろんや。でも今度はちゃんとイズルちゃんの電話番号教えてや」


 オーマガTVで(だま)されて朝戸の電話番号をもらえていない件を、鉄太は軽めのトーンで話すことで度量の大きい男であることをアピールした。


 それに対して朝戸は「ん~~。どーしよっかな~~」と人差し指をアゴに当て、やや斜め上を見た後で、「考えとくね」と言って笑顔を見せた。


 全くのゼロ回答なのだが。それでもカワイイと思えてしまうあたり、さすがは小悪魔大将軍だと鉄太は感心した。


 その後、朝戸は「おじゃましました」と挨拶をして部屋から出て行く。鉄太と開斗は、部屋の前で聞き耳を立てていた日茂(ひも)醐味(ごみ)九頭(くず)らと共に庭先まで彼女を見送った。


 出来れば駅まで送って行きたかったのだが、「大丈夫です」と断られてしまったのだ。


 部屋に戻る途中、開斗が呆れたように話しかけて来た。

「なんや一回断られたくらいで。昔のテッたんやったら強引に行ったやろ」


「え!? もしかしてワテとイズルちゃんの仲、応援してくれるんか?」


 鉄太は、これまで朝戸のことを開斗に否定されつづけていただけに突然の心変わりをいぶかしんだ。もしかして、自分と朝戸の仲を開斗が応援してくれる気になったのかと思ったが、それは早合点であった。


 開斗は嫌味ったらしく「アホか。年食って臆病になって意味で言うたんや」と揶揄(やゆ)してきた。


 鉄太は憮然して言い返す。


「お互い様やろ」


 幸せにする自信がないとか言う理由で、五寸釘に告白できずにいる男にそんなこと言われたくなかった。


 それに、こっちには作戦があるのだ。相談役ポジションからの逆転を狙う作戦が。変に好感度を落とすような博打をする必要などないのだ。


 自己肯定をする鉄太であったが、このことは口に出したりなどしない。


 相方のことを改めて味方でないと認識した以上、うっかり話してしまっては、朝戸本人に口を滑らす可能性がある。


 部屋に戻って来た鉄太は、ちゃぶ台の前に開斗を座らせたあと、片づけをするために流し台の前に立った。


 流し台の中にはコップとスプーンと皿が3つづつある。その中の一つのコップのフチには口紅の跡がついている。


 このまま洗ってしまうのはもったいのでは?


 コップとスプーンのディープな使い道に思いを馳せている時、居間から開斗が呼びかけて来た。


「テッたん。携帯買うとか正気か?」


 鉄太は平静を装って、食器を洗い始めながら返答する。


「正気ってなんやねん。なんか文句あんの?」


「無くしたらどないすんねん」

「無くすわけないやろ」


「いや、絶対無くすやろ。ポケベル無くしたこと忘れたんか?」


 金島から渡された業務連絡用のポケベルを無くしたことは以前の述べたが、鉄太は妄想癖のため注意力は散漫であり、ちょいちょい物を無くすのだ。


 洗い物を終えた鉄太は、周囲をぐるりと見渡しながら反論する。


「やったら、無くさんように部屋に置いとけばええやん」


「それ、携帯の意味ないやろ。黒電話にせい」

「ワテはイズルちゃんにケータイ買ういうてんねん。カッコつかへんやろ」


 そう言いながら鉄太は、ドアの横に置いてあった新聞紙や週刊誌の束を持ち上げ冷蔵後前に置く。


 ちなみに黒電話というのは通信自由化まで、一般家庭で使用されていた固定電話の通称である。


「ええやん。黒電話契約して、あの女には携帯買うたって言えばバレへんやろ」

「バレるわ! 市外局番で即バレや!」


「え? 携帯電話は黒電話と市外局番ちゃうんか?」

「そんなことも知らへんのに文句言うの止めてくれる?」


 会話しながら鉄太は、洗わなかった方のスプーンを洗わなかった方のコップの中に入れ、新聞紙や週刊誌の束の上に上がると、手にしたコップを冷蔵庫の上の奥の方へ置いた。


 居間の方から開斗が言い訳をしてきた。


「しゃーないやろ。携帯はワイが目ぇ見えへんようになってから出て来たもんや。知らんくて当たり前やろ」


「いやいやいや、知らんってことないやろ。カイちゃん〈大漫〉の時に、社長のケータイに電話したんとちゃうの?」


「はぁ? そんな昔のこと覚えてへんわ」


「昔って、まだ1年経ってへんし。あん時、目ぇ見えへんのにどうやって社長に電話したんや?」


「財布に入っとった名刺っぽい(もん)取り出して、誰かここに電話掛けてくれってお願いしたんや……って、どーでもええやろこの話」


「何の話やったっけ?」

「テッたんが携帯買うか買わへんかや」


 鉄太は冷蔵庫の周りを歩いて、冷蔵庫の上に置いたコップが気にならない程度に隠れていることを確認すると、「あぁ、せやせや」と相槌を打ちながら新聞紙や週刊誌の束をドアの横に戻した。


「テッたん。さっきから何やってんねん?」

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次回、2-6話 「悪夢のような推測を」

つづきは6月2日、日曜日の昼13時30分にアップします。

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