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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第二章 来訪者
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2-1話 来訪を知らせるチャイムを耳にした

「おら、テッたん。いつまで寝てんねん。もう昼過ぎやで」


 始球式の翌日、鉄太は異常な倦怠感(けんたいかん)のため何もする気が起きなかったのでずっと横になっていた。


 ただし眠ってはいない。眠気自体はとっくになくなっており、半目で口も半開きなのでパッと見、死体のようである。


 鉄太が寝転んでいると、壁にもたれて座っていた開斗が足を伸ばして蹴ってきた。開斗はトレーナーにイージーパンツといった部屋着でありサングラスもしていない。


 一方、鉄太はワイシャツとスラックスという姿である。昨夜帰って来てからジャケットこそ脱いだものの、着替えるのが億劫(おっくう)になり、そのまま寝てしまったのだ。


「……ええやん別に……休みやし」

「ええけど、今日の夕方、五寸釘らここに来るで」


 昨日、見舞いに行った帰りに始球式のお疲れ会をやると二人で勝手に決めたらしい。


「……左様(さよ)か」


 天敵である藁部(わらべ)の襲来を耳にしても鉄太の倦怠感に変化はなかった。


 倦怠感の原因は分かっている。モチベーションとしていた打ち上げでエゲツない目に遭わされたのだ。


 鉄太が始球式に出る条件として肥後D提示されていた〝打ち上げで朝戸イズルとの隣席〟は叶えられたものの、それは約15分程度の短い時間であった。後は座枡(ざます)とかいう太った中年マネージャーと交代されてしまい、朝戸は肥後Dの隣に行ってしまった。


 これでは話があべこべである。


 しかも、恐ろしいことにその後アパートに戻って来るまでの記憶が飛んでいるのだ。


 一体、記憶の無い間に何があったのか?


 懸命に思い出そうとしたが全く思い出せない。ただ、あのマネージャーと一線は超えていないはずだ。そんなことがあれば逆に忘れるはずがない。鉄太は心を落ち着かせようと、そのように自分に言い聞かせた。


 しかし、そこへ開斗がトンチンカンなアドバイスをして来た。


「テッたん。むしろラッキーって考えればええやろ。肉林兄さんも言うてたやんか。アレはヤバイ女やって」


「はぁ? イズルちゃんはヤバイ女やない。てか、振られてへんわ! 何振られた前提で話てんねん!!」

「振られてなかったら、その落ち込みようは何やねん!」


「肥後Dにダマされたんや! 打ち上げでイズルちゃんとほとんど話せんかったから落ち込んどんのや!」

「何やそれ。しょーもな」


「しょーもなくない。そんなワケやからワテはもうあのテレビからオファーがあっても出―へんで」


 肥後Dには電話番号の件につづいて2回も騙されているのだ。鉄太は誰が何と言おうと断固として拒否するつもりだった。


 ところが開斗は「分かった分かった。好きにせい」とあっさり了承してしまった。


 拍子抜けもいい所だが、よくよく考えてみれば開斗にしても憧れのフーネ選手と対戦できたのだからオーマガTVに出る理由は無くなったのかもしれない。ただ、やけにニタニタしているのが気に掛かった。


「何、ニヤついてんねん」

「やっとあの女のこと諦めたんかと思ってな」


「はぁ? あの女て、イズルちゃんのことか? 諦めるワケないやろ」


「でもな、オーマガTV出んのやったら、あの女ともう会う事ないやろ。どうやって進展させるつもりや?」


「〝あの女〟って言うのヤメて。せめて、〝あの()〟や、それに……」


 それにと言いかけて初めて鉄太は気付いた。朝戸イズルとはオーマガTVでしか接点がないことに。


 仮に他のTVに満開ボーイズと朝戸イズルが出演する偶然が起きたとしても基本的に満開ボーイズはロケでの撮影である。たまにスタジオに呼ばれることがあったとしても、その時に朝戸がキャスティングされている確率は奇跡と呼ぶに等しいかもしれない。


 また、ラジオの方のゲストとして役者とか歌手よりもグラビアモデルは呼ばれることは少ない。告知することがあまり発生しないからだろう。仮に満開ラジオに呼ばれることがあったとしても新しい写真集を出すタイミングと思われる。そして、それはいつになるのか分からない。


 鉄太は本当にダメなのかと必死に考えていると、あることを思い出した。昨日の打ち上げで朝戸のマネージャーから名刺をもらったことに。


 接点はあった。


「イズルちゃんに連絡する方法はあんねん!」


 (あお)られてムッとしてたことから反射的に開斗へ啖呵(たんか)を切ってしまったが、口に出した直後に赤信号が脳内で点滅する。

 

 確かに、マネージャーを介して朝戸と連絡はとれるかもしれないが取替えしのつかない事態になる恐れがある。


「電話番号でも教えてもろたんか? また前みたいにダマされとるんちゃうか?」


 以前、鉄太がダイヤルQ2の番号を(つか)まされたことを開斗が揶揄(やゆ)してきた。


 反論したいのは山々だが本当のことを話しても余計からかわれるだけなので、鉄太は誤魔化すために強引に話題を変えることにした。


「そんなんちゃうわ! そんなことよりカイちゃんの方はどないやねん」

「あぁ、ゴワっさんは命に別状ないらしいで。次の収録も問題ないって話や」


「ホンマか。そらよかったな……って喃照耶念(なんでやねん)! そんなん聞いてへんわ。五寸釘と上手いことやったか聞いてんねん」


 そう鉄太が問うと、開斗は顔を背けつつ「ボチボチや。ボチボチ」と答えた。


「いや、ボチボチて……チューの1つでもしたんか?」

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次回、2-2話 化け物みたいな女だよ

つづきは5月12日、日曜日の昼13時30分にアップします。

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