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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第三部「笑いの泥縄式」第一章 打ち上げ
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1-5話 全力で、聞き耳を立てているようだ

〈豚一族〉の店内は賑わっていた。


 大咲花(おおさか)の食文化では肉と言えば牛肉を指す。豚肉はさほど好まれていない傾向があるので少々意外に思った。


 鉄太は、入り口近くの席に藁部(わらべ)たちが陣取っているのを横目で確認しつつ、店員の案内に従って朝戸らと共に奥の方にある予約席へと向かった。


 どうやら店には座敷はないようで4人用テーブルを2つ連結させたシマ2つが、オーマガTV打ち上げ用に予約した席だった。


 そこにはすでに肥後D、AD増子らオーマガTVスタッフと番組レギュラーの伊地栗や肉林らがおり宴が始まっていた。


 鉄太たちが到着すると、すかさず若手のADが立ち上がり「大事なご相談が……」などと言いながらマネージャーの座枡(ざます)のみを肥後Dの所へと(いざな)った。そして、鉄太と朝戸を隣り合う席へ案内した。


 肥後Dは鉄太に始球式に出てもらう交換条件として2つの提案をしていた。

 1・打ち上げで鉄太と朝戸を隣の席にする事。

 2・朝戸とマネージャーを引き離す事。


 鉄太は肥後Dに軽くお辞儀をして約束を守ってくれたことに対する謝意を示した。また、開斗が急用のため欠席することを肥後Dに伝えてくれと、小声でADに耳打ちした。


 入り口の方を確認する鉄太。

 重大な障害と思われた藁部(わらべ)たちだったが、幸いにも彼女らのテーブルはここから4つ離れている。さらに間には欣鉄ジャクヤークのファンがおり、彼らのクジャクみたいな羽根飾りが衝立のようになっていて、立ち上がったところで様子は伺えない。ラッキーである。


 とは言え万事OKというワケではない。


 なぜなら案内された島には番組MCの伊地栗と先輩芸人の肉林がおり、伊地栗は朝戸の左隣、肉林は伊地栗の正面に座っている。


 この濃い面子(めんつ)を相手に朝戸の気を引くのは並大抵のことではない。二人を打ち上げに呼ばないように約束しなかったのが悔やまれる。


 鉄太という本日の主役が着席したところで、肥後による乾杯の音頭がなされ打ち上げが正式に始まった。


 朝戸が掲げたグラスには席の全員からグラスが伸びてきて、八方美人の彼女は挨拶をしながらグラスを鳴らしていく。対して主役のはずの鉄太にはほとんど伸びてこない。


 番組レギュラーメンバーらとゲスト出演者である自分との間にある壁を感じた瞬間であったが、鉄太としては朝戸のグラスと乾杯ができればそれで充分であった。


 乾杯後、伊地栗が朝戸に今まで何をしていたのか問い、彼女は雑誌のインタビューを受けていたと答えた。


 1時間程度の隙間に仕事をねじ込むとか、エゲツないマネージャーだなと鉄太は思いつつグラスを傾けた。

 そして、一息ついたところで、はす向かいの肉林が開斗不在の理由を尋ねてきた。


「それなんですけど、実は……」


 鉄太は、ラジオ作家の島津が救急搬送されたあらましと、開斗が見舞いに行ったので来ないことを語った。


「何してんねん。世話になっとる人やろ。お前も見舞いに行けや」

「あかんで立岩君」


 案の定、肉林と伊地栗から非難された。だが、お見舞いに行く行かないの議論は開斗とすでにしたことである。鉄太はテレビもラジオも共にお世話になっているので役割を分担しただけと自分の正当性を主張した。


「え~~~~!? 開斗さん来ないんですかぁ?」

 あからさまに落胆する態度を示す朝戸。


「何やイズルちゃん、霧崎君に気ぃあるんか? 」

「開斗さんって目が見えないのに漫才頑張ってるじゃないですか。ちょっとカッコいいですよねぇ」


 彼女の返答にテーブルはどよめいた。そして鉄太の心にさざ波を立たせる。自分だって片腕ないのに漫才頑張っているのにと。


 さらに追い打ちをかけるように伊地栗が飛んでもないことを言い出した。

「立岩君。イズルちゃんに霧崎君紹介してくれるか?」


 鉄太は心の中で(いらんコト言うなジジイ!!)と()えた。


 とはいえ、大御所から話を振られて無下(むげ)な態度をとることなどできないので、「あの~~。カイちゃんには別に好きな人がおるんですよ」と、開斗がその相手と共に病院へ見舞いに行ったことを愛想笑いしながら説明した。


 ふと、視線を感じて顔を向けると、肉林がゲスい笑みでこちらを見ながらグラスを口に運んでいた。

 鉄太は以前、この先輩芸人に自分が朝戸を好きであることを伝えていたことを思い出した。


 だとすれば、自分の反応を酒の(さかな)として楽しんでいるに違いない。


 鉄太は不快に思い視線を通路方向へ外す。だが思わずギョッとしてしまう。


 なんと、アパート住人の新戸(にいと)が自分のすぐ隣に立っていたのだ。

 彼は顔こそこちらに向けていないが、全力で聞き耳を立てているようだった。そして、非常にゆっくりしたスピードで移動していた。


 藁部(わらべ)からのスパイだ。


 席が離れているので何も出来まいと高を食っていたがとんだ誤算だった。敵は手駒を5匹持っているので、交代で繰り出してくるに違いない。


 鉄太は次々と襲い来る災難に頭を抱えたくなる。せめて高級店であれば薄汚い身なりの連中は門前払いに出来たのにと、肥後Dに対して恨み言を言いたくなった。


「どうかしたんですかぁ?」

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1-6話 そう言うと、座枡は名刺を取り出して

つづきは5月3日、金曜日の昼13時30分にアップします。

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