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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第三部「笑いの泥縄式」第一章 打ち上げ
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1-2話 怒りながらエルボーを

色々間違えていました。ゴメンなさい。

前回投稿予告の日付が4/12(日)となってたし、おまけに投稿日を4/21に設定していました。

「静まれ静まれ! 見舞いにはワイが行く言うたやろ」

「せやかて兄さん……」

「ええんや五寸釘。でも、一緒に病院行ってくれるか?」

「えぇ、喜んで」


 仏頂面から一転、頬を赤らめた彼女は開斗の腕を取ると、電話ボックスの方へと誘導して行った。そして、しばらくすると戻って来て、どこぞの病院に行くと報告すると、薄暗くなった街路の方に消えて行った。


「デート行くみたいやな。シシシシシ」


 二人の背中を見送りながら、羨まし気な様子で同意を求めて来る藁部(わらべ)だったが、鉄太はシカトを決め込む。すると彼女は鉄太の腹にパンチを放って問いかけて来た。


「オマエ、打ち上げ行かんのか?」

「いや、まだ早すぎるわ」


 鉄太は、オマエ呼ばわりしてくる年下の女にムカついて注意しようとしたが、球場で「テッたん」と呼ばれた時の怖気(おぞけ)を思い出して思いとどまり、まだ行かない事情を説明する。


 打ち上げはラジオ収録後の時間を想定していたので、収録中止になった今、まだ1時間半ぐらい余裕があるということを。


 それを聞いて藁部(わらべ)怪訝(けげん)な顔をする。


「だったら見舞い行けたやろ?」

「うっ」


 指摘されて気付いたが、近場の病院だったら見舞いに行った後、打ち上げに行っても十分間に合うかもしれない。しかし、鉄太の島津に対する好感度は低いし、相手の自分に対する好感度を上げたいとも思わないので、じゃあ行きましょうなんて気分にはなるはずもない。なので、声を張り上げて誤魔化しにかかる。


「そんなん分からへんやん。てか、だったらお前が見舞いに行ったらええやろ」

「ウチは部外者や。なんで知らん人の見舞いに行かなアカンねん」

「知らんことないやろ。地下鉄降りた時に見たやろ。いが栗頭のブタみたいに太ったおっさんや」

「だから何やねん。見ただけや。会話もしてへんわ」


 鉄太は口を噤んだ。


 藁部(わらべ)のターンで終わるのは言い負かされたようで(しゃく)な気がするが、アパート住人らにニヤニヤしながら見られているのが我慢ならなかった。


 鉄太は高らかに言い放つ。


「こんなトコいつまでもおってもしゃーないし、ワテは打ち上げ会場に行くわ。ほなな」


 鉄太は、藁部(わらべ)らに別れを告げて歩き出したのでが、気配を窺うまでもなく彼女らがピッタリ後ろを付いて来るのが分かった。


(まさか、コイツら打ち上げに付いてくる気やないやろな)


 不安を覚えた鉄太は歩きながら牽制する。


「言うとくけど、部外者は打ち上げに出られへんで」

「何のことや? 帰る方向がいっしょなだけや」


 藁部(わらべ)の惚けた返答に、鉄太は心の中で(ウソこけ)と(ののし)る。


 走って逃げようかと一瞬考えたが、アイアンズの老人たちと違いアパート住人たちは随分と若い。彼らを振り切るのは無理そうだった。


「ところで、どこで打ち上げすんのや?」


「……笑比寿橋(えびすばし)や。えーびーすラジオの近くの……ファミレスや」


 藁部(わらべ)からの問いに、一拍置いてから鉄太は答えた。もちろん嘘八百である。本当は球場近くの〈豚一族〉という居酒屋である。


 嘘を口にしている最中に、別方向に歩いて途中で撒いて戻ってこようという作戦を思いついた。


 小さくガッツポーズをする鉄太。


 球場の敷地から出ると笑比寿橋(えびすばし)方向に向かって歩き出す。撒く作戦の具体的案はすでに決まっている。尿意を訴えてどこかの建物に入って、そのまま別の出入り口から逃げるつもりだ。


 これは自分が中学生だった頃に街のヤンキーに絡まれた時、逃げるのに使った実績ある作戦である。鉄太は使えそうな建物がないか歩きながら左右に目を配る。


 しばらく歩いていると、藁部(わらべ)が横にやって来て、袖を引っ張って来た。


「オイ。まさか笑比寿橋(えびすばし)まで歩いて行くつもりちゃうやろな?」

「何や。来た時みたいに走って行きたいんか?」

「アホか! 地下鉄使えっちゅうとんのや!」


 彼女は怒りながらエルボーを鉄太の脇腹に喰らわせてきた。


 怒りがこみ上げてくるが、すぐに吠え面をかかせてやれると思えばガマンもできる。鉄太は歯を食いしばりながら「分かった。難波から地下鉄で行こか」と応じた。


 すると後ろの方から「えぇ!?」という動揺の声が上がった。守山から歩いて難波まで来た連中にしてみれば、たかが1区間で地下鉄に金なんぞ使いたくないに違いない。当然、鉄太にしてもそんなムダ金を使う気もないので、難波駅に着くまでに作戦を実行せねばならない。


 幸いにも行く手にパチンコ屋が目に入った。基本的にパチンコ屋には出入り口が複数あるので逃走に使うには打って付けなのだ。


「地下鉄乗る前にここのトイレ行ってええか?」

「はぁ? トイレなら駅にもあるやろ」

「いや、いやいやいや! もう漏れそうやねん」


 駅のトイレはダメだ。トイレ前で待たれたら逃げることができない。鉄太は内股で身をよじって必死の演技で尿意を訴える。

次回、1-3話 「その後すぐ、ホテルへ連れ込むようなこと」


つづきは4月21日、日曜日の昼12時にアップします。

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