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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第二十章 始球式
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20-10話 マウンドで、投球練習しなかった

「みなさ~~ん。こんにちは~~~~。オーマガTV、アシスタントの朝戸イズルで~~~~す」


 時計の針が5時30分を回った頃、朝戸の声で場内アナウンスが流ると場内に歓声があがった。


 そして場内のざわめきが落ち着くのを待ってから、彼女は本日の始球式がオーマガTVのどえらい変態企画であることを簡単にまとめて説明する。


「イズルちゃん、ええ声やなぁ」


 鉄太は目をつむって聞き入っている。


「何やテッたん。どえらい変態って言われて喜ぶようになったんか」


「イズルちゃんが言うてくれるなら変態でも誉め言葉や」


 その返答を聞いた開斗は、何も言わず鼻から大きく息を吐きだした。


「それでは、ご紹介しま~~す。始球式でピッチャーをする霧崎開斗さんと、そして、キャッチャーをするのは、どえらい変態の立岩鉄太さんで~~~~す」


 朝戸の呼びかけられると、二人はスタンドに向かって上半身を左右に捻って手を振った。


 その後は、それぞれのポジションに向かう手筈(てはず)となっている。


「ほな、頼んだで」

「おう、任しとき」


 鉄太はホームベースの方に向かい、開斗はボールボーイの介助でマウンドに向かう。リリーフカーがあれば良いのだが、あいにく甲子園球場などと違い、大咲花(おおさか)スタジアムには備えられていない。当然予算的な都合なのだが、基本的にリリーフカーを配備している球場の方が珍しいのである。


 なお、グラウンドにはアンパイアを始め、守備の選手たちがすでに配置に付いていている。通常始球式が終われば即、試合が開始される。なので、守備しているのは本試合で後攻となる欣鉄の選手たちだ。


 鉄太らが歩き出し、スタンドのざわめきがやや落ち着いたところで、朝戸はアナウンスを続ける。


「そして、本日始球式の打者を務めますのは、インディー・フーネ選手で~~す」


 呼び込みを受けて、ヒゲの大男がグラウンドに姿を現すと、「おぉーー」という低めに感嘆する声に続き拍手が起こる。


 鉄太は、ネクストバッターサークルへと足を運ぶフーネと向かい合う形となった。


 フーネはガムをクチャクチャ噛んでいる。


 野球選手がガムを噛む行為は、集中力を高めるためと聞いたことがある。ならば、彼は開斗との勝負に真剣に向き合っているのだろう。


 鉄太は相方に代わって深くお辞儀をした。しかし、フーネはこちらの頭からつま先まで視線を落とした後に、顔に視線を固定させると露骨に顔をしかめて見せた。


 鉄太は、改めて今自分がどのような姿をしているのが思い出した。


 こちらのブリーフ姿に、侮辱(ぶじょく)されたと思っているに違いない。


 鉄太だって、舞台に素人がガムをクチャクチャ噛みながら現れて漫才を始めたら怒りを禁じえないだろう。


 打ち合わせで肥後Dがブリーフ一丁になることを提案した時、その是非を尋ねるべきは彼だったと、鉄太は後悔しながらキャッチャーボックスに入った。



 さて、フーネはネクストバッターサークルで2回素振りした後、バッターボックスにやってきた。

 

 打席に立ち、バットを構えるフーネ。


 すると、彼の体が一回り大きくなったような威圧を感じた。


 鉄太は目を凝らして観察すると、確かに笑気のようなものがフーネの体を取り巻いていた。これが、開斗の言っていたオーラであろうか?


「プレイ」


 アンパイアが試合開始を高らかに告げる。


(プレーボールって言わへんのやな)


 そう思いつつ、鉄太は腰をかがめてミットを頭に乗せる。そして笑気を張って、開斗に準備完了の合図を送った。


 マウンドでの投球練習はなしだ。オーマガTVの放送時間の都合で15分以内に決着を付けるように注文をされている。


 大きくワインドアップをする開斗。


 そして、高く足を上げて、第一球を、投げた。


「ボーーーール」


 アンパイアの声が響く。


 開斗の投げたボールは、大きく外角にそれ、鉄太の体に(かす)ることなく、後ろのフェンスを直撃した。


 スタンドからは、ガッカリ感が多分に含まれた低い(うな)りが漂ってきた。


 マウンド上の開斗は、ボールボーイから新たな球を受け取っていた。


 そして、一球目と同じように大きくワインドアップをしてから、第二球目を投げた。

 

 しかし、投げられた球はまたしても外角に大きく()れてボールカウントを一つ増やしてしまった。


 スタンドからは、ため息やヤジやら混じったどよめきが湧き上がった。


 マウンドで投球練習しなかったのが裏目に出たのか? 


 とは言え、ブルペンではコントロールに乱れはなかったし、目の見えない開斗にとってブルペンとマウンドの違いによる影響など無いような気がする。


(こりゃ、ちょっとアカンかもしれへんな)


 もしこのまま全くストライクが入らずに終わってしまったらどうなるのか?


 今まで開斗の努力が無駄になってしまう。


 無念などという生易しい言葉では収まらないかもしれない。


 いざファーボールにでもなったら土下座でもなんでもして、もう一勝負させてもらうべきだろうか? しかし、オーマガTVは生放送だから番組時間内に収まりそうにないような要求を飲んでくれるだろうか?


 鉄太が勝負後の心配を始めた時、「ターーイム!!」と大きな声が上がった。


 待ったをかけたのは、なんと、フーネであった。

次回、20-11話 「チェンジアップで勝負する」

つづきは4月24日、日曜日の昼12時にアップします。

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