5-5話 ワイは坊主にならへんで
「ホンマ、テッたんが警察に捕まったって聞いてビックリしたで」
ショーバブの楽屋、鉄太と開斗は向かい合って座っている。開斗の黒スーツに対し、鉄太は白ブリーフ一丁の姿、さらに坊主頭になっていた。
実は、商店街のアーケードで歌い出した後、すぐに警察が飛んできて、鉄太は近くの交番に連行されたのだ。
幸いにも、ここの笑パブの店長が身元引受人になってくれたので、お灸をたっぷり据えられた後に釈放された。
「いやいや、大変やってん。最初、酔っぱらいの振りして誤魔化しとったら、呼吸検査されてな。そしたらアルコール検出されへんからクスリやってんちゃうかってなって……カイちゃん? 笑うとるんか?」
うつむいた開斗は、右手で口元を隠しており、肩を小刻みに揺らしている。
「いや、テッたんの笑うとる顔、久しぶりに見たなぁ、思って」
「なんやそれ。お互い様やで」
「そっか……。ワイら笑えてへんかったんか……ところで、いつまでパン一でおるん?」
「何んとかのアレって言うやん。今日は昔の気持ち、思い出してみようと思っててん」
「もしかして、初心忘るるべからずのこと言うてる?」
「それや、それ!」
「いやそれ、〝の〟入ってへんやん。まぁ、そういうことならワイも付き合うたるわ」
開斗も鉄太にならってブリーフ一丁になるべく服を脱ぎだした。
「じゃあ、店長にバリカン借りてくるわ」
鉄太の坊主頭は、散髪屋はなく店長に刈ってもらっていた。
少し前の時代では、男児の頭は丸坊主が一般的であったので、その名残として、探せば大抵の家で手動バリカンを見つけることができた。
いそいそとバリカンを借りに行こうとする鉄太。しかし、開斗は呼び止める。
「いや、ワイは坊主にならへんで」
「なんで?」
「なんでって……てか、時間ないやろ。もう出番やで」
開斗が坊主になることを拒絶したのが寂しかったのか、少しションボリする鉄太。
ちょうどその時、彼らの出番を告げる呼び出のチャイムが楽屋に鳴った。
鉄太は立ち上がると、そのままの姿で楽屋出口に向かい歩き出す。慌ててズボンを脱ぎながら開斗は声を掛ける。
「サングラスせんでええんか?」
「金島のおっさんに壊されてもうたわ。ってか、もういらんわ」
振り返りざま、鉄太は右手で義腕に取り付けられたショルダーパッドを一発、平手で強く叩いた。
つづきは明日の7時に投稿します。
次回、「6-1話 ワテのオトンの墓のヤツ」