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笑いの方程式 大漫才ロワイヤル  作者: くろすけ
第十九章 待ち合わせ
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19-1話 名刺交換しようにも

5月16日(水)


 ウヒョヒョ座に行った次の日。


 本日、満開ボーイズの仕事は、昼に生番組のロケ1つ、夜に笑パブの仕事2つである。


 昼の生番組は、オーマガTVの番宣と始球式の宣伝をするために、えーびーすーテレビの肥後ディレクターのコネで、急遽(きゅうきょ)決まった仕事であった。


 そつなく仕事をこなした後は、夜までの空き時間をいつもの公園で豆球練習をした。


 ただ、練習を行ているとどこからともなく、老人たちが集まって来て練習に加わった。


 もちろん、老人たちとは、大咲花(おおさか)アイアンズのメンバーである。


 正直は所、彼らが練習に参加するのは、見物人がやたら集まってくるので勘弁してほしかった。


 そして、笑パブの仕事を終えてからは、アパートの近所の空き地で秘密の練習を行った。



5月17日(木)


 この日は、昼も夜も仕事がない。


 本来であれば、オホホグループの仕事があったはずだが、出禁になったのでバラシ(スケジュールキャンセル)となった。


 なので、鉄太と開斗は、豆球練習は昼前に行い、昼過ぎから北新地(キタ)へ、自分たちの売り込に行った。


 北新地(キタ)とは大咲花(おおさか)駅辺りにある繁華街で、道頓堀辺りを指すミナミと(つい)をなす存在である。


 老舗(しにせ)が多く立ち並ぶミナミと異なり、キタは再開発が進んでいるので高層ビルが林立している。


 そのため、オホホグループの息がかかっていない事業者が少なからず存在するのだ。


 金島の提案により、狙いを外資系のヨルトンなど高級ホテルのレストランショーの出演に定めて、大咲花(おおだか)駅のそばから順に巡って行った。


 鉄太は外国人が経営するホテルなので、日本語の漫才が通用するのかと乗り気ではなかったが、スタッフも客もほとんど日本人だと聞いて、半信半疑ながら金島の提案に乗った。


 ちなみにこの頃の日本は、世界的に見て物価が高く、外国人観光客はかなり少なかったのだ。


 アポなしで訪れたので、全て門前払いを覚悟していたのだが、〈大漫〉優勝というネームバリューがあったためか、いくつかのホテルで後日面接の約束を取り付けることができた。


 帰宅したのは18時頃であったが、開斗の要求により21時を過ぎ頃、近所の空き地で秘密の特訓を行った。



5月18日(金)


 朝からえーびーすーテレビに向かった。


 始球式の打ち合わせのためである。


 欣鉄(きんてつ)の広報の人が数人来ており、名刺交換……しようにも名刺などもっていないので、一方的に名刺をもらって、その後、9時~12時まで睡魔に耐えながら肥後Dからの色々な説明、すなわち、始球式は大咲花(おおさか)スタヂアムで行われること、17時30分に始めるので16時頃に球場の会議室に来て欲しいこと、始球式前と始球式後にどのようにインタビューを行うかなどを聞いた。

 

 ただ、打ち合わせの中で、肥後Dが鉄太がブリーフ一丁での捕球を提案してきて多少揉めた。


 上半身裸だけでは絵的に弱いので、変態性を強調するためにズボンも脱いだ方が良いとの主張だが、鉄太からすれば、ふざけるなの一言に尽きる。


 シャツをぬいで肌をさらして捕球しているのは、目の見えない開斗に笑気を見えやすくするためである。性的快感を得るためにやってるわけではないのだ。


 結局、この件は無しとなった。


 鉄太が断固拒否の姿勢を崩さなかったのもあるが、何より球団側の人間が難色を示したことが大きかった。


 それはそうだろう。


 元々は野球青年の夢を叶えてあげる企画だから球団も賛同したはずだ。それが、変態ショーをするとなれば話が違うと思うのが普通だ。




 打ち合わせが終わった後、昼から空き時間が出来たので例の公園で豆球練習に付き合わされた。


 そして、16時からまた、えーびーすーテレビに出向いた。オーマガTVで始球式の宣伝をするためである。


 時間的に午前中の打ち合わせを午後に持ってきてくれれば楽だったのだが、肥後Dの都合でこのようなスケジュールとなった。


 自分たちが売れっ子であれば話は別だが、スケジュールがガラガラの状態では相手の要求に従うしかない。


 オーマガTV出演後、また、公園で豆球練習をさせられた。20時から笑パブの仕事が1件入っているので、それまでの間の時間つぶしだ。


 それはそうとして、あの公園で練習していると、チームの老人たちがすぐに集まってくる。監視員を配置して連絡網で回しているのだろうか?


 そして、笑パブの仕事を終えてアパートに帰る前に、また近所の空き地で秘密特訓に付き合わされた。


 さらに、アパートに帰ると、門の前に〈丑三つ時シスターズ〉の二人が待ち伏せしていた。


 地獄のような1日だった。



5月19日(土)


 この日は完全なオフである。


 明日が始球式なので、あらかじめ、開斗が仕事を入れないように要求していたのだ。


 筋肉を休ませるために、豆球練習もしないというのは大変ありがたかった。


 鉄太は、捕球の時のあの中腰の姿勢のために、体の各所が悲鳴を上げていたのだ。


 マッサージ店や整体に行きたいと思っているが、とてもじゃないがそのような余裕がないので、昼から近所の銭湯に行ってサウナやマッサージチェアなどを駆使してリフレッシュに務めた。



5月19日(日)


 鉄太は珍しく朝早く目覚めた。


 まだ日の出前であり、薄暗い室内を見渡して見ると、開斗がいなかった。


 もしかしてと思い、窓から庭を眺めると、案の定、開斗は百歩ツッコミの鍛錬(たんれん)をしていた。


 鉄太は、二度寝するかと横になってみたが、なかなか眠れなかった。


 いよいよ始球式当日である。


 緊張、不安、喜び、期待といった様々な感情がごちゃ混ぜになって神経が高ぶっているのだ。


 緊張と不安は、始球式に対する感情である。


 喜びは、今日で豆球練習をしなくてよくなるという解放感からくる感情である。


 そして期待とは、始球式後の打ち上げで、朝戸イズルとの仲が進展するかもしれないという下心から来る感情である。


 ただ、もしかして、オーマガTVの企画で今後も豆球をさせられる可能性はあるかもしれない。


 でも絶対、その依頼は断固として受けないと、鉄太は自分の心に固く(ちか)った。

次回、19-2話 「二人の距離を縮めると」

つづきは2月27日、日曜日の昼12時にアップします。

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